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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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34、評価の上がる者



毎週月曜投稿作品です。




 悪霊退散と相成り、皆がホッとしていた所で竜御殿の入り口が騒がしくなってきた。


「何事でしょう?」

「この騒ぎは外には漏れていないはずだが・・・」

 イーサンとサイラスが話し合っている横で、サラはクリストファーを拘束していた縄を腰に下げていた短刀で、ブツリと切っていた。


 そこへ囮部屋の戸が勢い良く開かれ、バタン!!という大きな音にマリエルは驚き飛び上がった。

 開かれた戸のその先に、紫の短髪の髪に翠色の瞳をしたおじ様と言っていいのか40代くらいの紳士が鬼の形相で立っていた。


「エリージャ伯爵・・・・」

 王太子サイラスがなぜここに?!と驚愕な面持ちで言葉にすれば、近くにいたサラも真っ青になった。


「お父様」

 戸惑うサラの肩に手を置き寄り添ったのは深刻な面持ちのクリストファーだった。


「ここで何をされておいでです。殿下方」

 地を這うような低い声にルーカスとクリストファーとサラはビクリと体が揺れた。


「まさかとは思いますが、ディークファルト殿下の婚約者に、うちの娘の婚約者が懸想(けそう)した。などというこはありますまいな」

 情報通なのか正しい情報を提げて来た伯爵は大したものだが、今は嬉しくない。


 王太子とマーカスが真っ青になる中、いち早く反応したのはマリエルだった。

「ないですね」

「言い掛かりはお辞めください」

 ディークファルトの檻から抜け出したマリエルとイーサンの声がはっきりと否定した。


 エリージャ伯爵は話に入ってきたマリエルに誰ぞと顔を向けてきた。

「・・・・こちらは?」

 意識を自分に向けられたことに満足したマリエルは、淑女の礼をし他国とはいえ王族らしく品位ある笑顔で伯爵に向き合った。


「これは失礼致しました。(わたくし)、マリエル・デュリカーナと申します」

 その横でマリエルの肩を抱き、ディークファルトも口を開いた。


「エリージャ伯爵。私の婚約者だ」

 ディークファルトの答えに伯爵は目を見開き、ゴホンと咳払いしマリエルに膝を折った。


「娘のことで頭に血が上っていたようです。大変失礼いたしました。(わたくし)伯爵位と(たまわ)っておりますナリス・エリージャと申します。以後お見知り置きを」


「こちらこそ、義姉のご家族になる方を無碍(むげ)にするつもりはありませんので、楽になさってください」

 マリエルが微笑めば、エリージャ伯爵もほんわか笑顔に釣られたが、ハッと気を取り直しそのまま周りを見渡し首を傾げた。


「ではこれは何事です。朝早くからこんなところで殿下方がお揃いとは?」

 ちっ。

 誤魔化されてくれなかったと思いながらマリエルは、一芝居打つことにした。


「まあ!申し訳ございません。私の早とちりでこんなことになりましたのよ!」

 マリエルの言葉に誰も口を挟めなかった。


 ルーカスだけはハラハラした表情をしており、2の殿下は嘘がつけない真っ正直な人物のようだ。とマリエルは思った。

「早とちり・・・とは?」


「昨日こちらに着いたばかりで心細かったものですから、サラ様に護衛と言う名目で一緒に過ごさせて頂いたのですが、朝起きたらサラ様が居なくなってしまわれて。何かあったのかと、私がディー様に相談しましたら、サラ様はクリストファー殿下のご婚約者だというではありませんか?!これは大変とイーサンに相談しましたの!」

 ペラペラと口をつくマリエルの意図を正しく理解したイーサンはバトンを渡されその後、言葉を繋げた。


「ええ、それで私の判断で王太子殿下に報告申し上げましたら、ルーカス殿下も飛んで来られまして。しかしクリストファー殿下の居所も掴めず、これはおかしいと捜索しましたら、この部屋でお2人が密会なされているので驚いていたところです」


 スラスラと言い訳を吐いた2人にエリージャ伯爵は顔色変えずに娘とクリストファーを見つめた。

「その証拠にいつにもまして仲睦まじいご様子でしょう」

 マリエルの言葉に、伯爵は眉が少し吊り上がった。


 二人の奮闘を目の当たりにしてクリストファーも防戦一方ではまずいと感じ、口にした。

「伯爵。私は今まで不実なことをしてきた(ゆえ)に信じてもらえぬかもしれないが、私はサラ嬢と出会って目が覚めた思いなのだ。今後私はサラ嬢以外の女性に目を向けることはない。不安がっていた彼女にそのことを伝えたくて、今日ここに呼んだのだ」


 エリージャ伯爵は信じられないものを見るようにクリストファーを見つめた後、不信感は拭えず眉間にシワが寄った。

「それを信じろと言うのですか」


「今は難しいと言われるならこれより先、私の行動を見て頂きたい」

「・・・・・」

 殿下にそこまで言われては伯爵は文句も言えなくなった。


「私からもお願いする」

 ディークファルトから出た言葉に皆が驚いた。ここでディークファルトが擁護したということは、今回の騒動を目に瞑ると言ったようなものだ。


 マリエルはフフッと笑うとディークファルトの腕に手を絡めた。

 ディークファルトは本当は腹が煮えくり返るほどクリストファーには怒っていた。

 だが、長年思い悩んでいた兄に気付かなかった自分にも腹ただしかったし、なによりマリエルがここまでして2人を(かば)った行為を無碍にしてはいけないと考え芝居に乗ったのだ。


 兄とその婚約者を破断にさせたいわけでもないのでこれでいいのだろう、とディークファルトは溜飲を下げた。

 それにマリエルから腕を絡められ、怒りはどこかへ行ってしまった。


 頬が緩むのを止められず、反対側の手でマリエルの頭を撫でた。

 これにはクリストファーも伯爵も先程よりも驚きが隠せないのか、目が点になっていた。


 まあ、そうだよな。

 初めてこれを見さされたら、そうなるわな。とルーカスは呆れ顔で末弟を見た。


 王太子とイーサンは、マリエルの状況判断能力の速さに驚いていた。

 父王ジルの影に隠れた温室育ちの姫かと思えば、そうでもない。

 さすがアンジェリカ王妃の娘といったところか。


 どちらにしろ、全て上手く行ってよかったと年長者2人は静かに肩の力が抜いた。


 そんな中、クリストファーは伯爵に向き直り話しかけた。

「ところで伯爵、サラはいつまで軍に在席させるおつもりです」

「それなのですが、殿下はどうお考えです?」


 クリストファーはこの状態を大いに利用して嘘と本当を織り交ぜながら意見を述べた。

「私としては今すぐやめてほしい。今日ここに来たのもその話をしようと思っていたからなのですが、伯爵の意見も聞いてみようと思いまして」


 え?!

 当然初耳なサラは大きく目を見開いたが、そんなサラを横目にクリストファーは真剣な表情を伯爵に向けた。

 伯爵はそれを聞いて嬉々とした表情になった。


「おお!そうでしたか!実は殿下との結婚が決まった頃より辞めるよう再三言っているのですが、本人がなかなか首を縦に振りませんで」

「何?なぜだ」

 クリストファーの視線を受け、サラは(うつむ)いた。

 モジモジとするサラは、視線を床の端のほうへやり、言葉を発することはなかった。


「サラもう時間もない。いい加減殿下の妃らしく勉強もしてくれないか」

 呆れた伯爵の言葉にサラは渋っている様子にマリエルは助け舟を出した。


「まあ、それでしたらサラ様。私と一緒に勉強致しませんこと?」

「マリエル姫」

 サラは驚いた表情をしていたが、マリエルはニッコリ笑って押し切る。

「一緒なら私も心強いですし、どうですサラ様?」


「それはいい!そうさせて頂きなさい、サラ」

 伯爵もマリエルの無邪気さに毒気が抜けたように賛成していた。

 この様子ならクリストファーの愚行(ぐこう)は見逃されたな、と皆がホッとした。


 ただ一人サラは納得が行かないのか不安な顔をしていた。

「よろしい、のでしょうか」

「勿論です。こちらからお願いしたのです。よろしくお願い致しますわ、サラ様」


 結婚まで色々と不安なことも沢山ありますから、一緒に乗り切りましょう。とサラにしか聞こえない小声でマリエルが言えば、サラは瞠目し恥ずかしそうに頬を染め頷いた。


 それを見たマリエルはサイラスに顔を向け頭を下げた。

「そういうわけですので、サイラスお義兄様。家庭教師の手配と計画、よろしくお願いします」

 無邪気なマリエルに、降参とばかりにサイラスは微笑み頷いた。


「了解した」

 この姫には叶わんな。と笑った皇太子に、クリストファーとディークファルトの二人から後に婚約者への対応についてのクレームという要望が沢山上がり、下の2人の弟の変貌ぶりにサイラスが頭を抱えるのは少し先のお話。

 



次回は来週月曜日にUP予定です。

よろしくお願いします。



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