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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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33/36

32、第三王子クリストファー


 マリエルとディークファルトが着替えている間にイーサンは、王太子と第二王子の両殿下を連れて西の最奥にある部屋、囮に使った部屋に足取り重く移動していた。

 幾つかの話をした後、問題のあった部屋の戸を握った。

「こちらです」


 重たい口調で戸を開けたイーサンの横をすり抜け入室した王太子サイラスとルーカスは悲痛な面持ちになった。

 後ろ手で拘束され、竜騎士隊員に取り押さえられ床に顔をつけた状態の弟がそこにはいた。

「クリス」


 王太子の言葉にピクリと肩を揺らした後、顔を上げたクリストファーの顔は怒気していた。

「どこへやった?」

 クリストファーの言葉にサイラスは最初理解できなかった。


「女をどこにやった!」

 目が血走り、普段のクリストファーには考えられない言葉遣いに戸惑うばかりだ。

 暴れるクリストファーに隊員も王族ということもあり手こずり、もう一度取り押さえるのに少し時間がかかった。

「クリスお前は何をしたか、わかっているのか」

「関係ない。俺は彼女に会いたいんだ!!」


「会わせませんよ」

 遅れて入室してきた、肩で息するディークファルトをクリストファーは見た途端、一瞬目を見開いた後、ガクンと力が抜けたのか竜騎士隊員の抑えもあり、床にまた這いつくばる格好になった。

 再度暴れ始めたクリストファーにルーカスが苦渋の表情を浮かべながら拘束するように指示し、騎士隊員が三人がかりで取り押さえ捕縛縄をかけようとした際、止める声が響いた。


「待ってください!」

 その後慌てて入室したマリエルはクリストファーの姿を見て固まった。

「マリー!」

 ディークファルトは婚約者のマリエルを抱き寄せクリストファーから姿を隠そうとしたがマリエルは従わなかった。

 腕から顔を出し、ジッとクリストファーを見つめた。


「先程、彼女に会いたいと言いましたね。彼女とは誰です」

「誰ってマリエルのことだろう」

 当たり前のことを何故聞くと、ルーカスの言葉に皆頷いたが、マリエルは首を振った。

「彼女とは・・・・私のことではないですね。”その彼女”とは誰です」

 床の取り押さえられたクリストファーの目は死んだ魚のように濁っていた。


 マリエルは護衛に手を離すように言い、サイラスが捕縛縄をかけた状態なら良いと判断し許可も出たのでクリストファーはその場で立ち上がることを許された。

 

 クリストファーは後手で拘束された状態でゆっくりと顔を上げ、マリエルを見つめた瞬間、悲しい顔をし項垂れた。

 その様子を見たマリエルは頷いた。

「サラ様、あなたの婚約者は蝶とは違うようです」


 その言葉に今更ながらにマリエルの後ろに控えていたサラに気が付き、殿下方は慌てた。

 だが、サラの表情は決して固くなかった。ジッとクリストファーを見極めようと見据えていた。


 ここでこれ以上王家の恥部を晒すのは好ましくないと、ルーカスが全ての護衛は一旦下がらせ、サックス共々部屋の外で待機するように指示した。


「蝶は無差別に花から花に移動しますがクリストファー殿下の根本部分は"誰でもいい"とは違います。そうですね、クリストファー殿下」

 しかしマリエルの問いにクリストファーは応えず俯いたままだったが、マリエルは気にせず問いかけ続けた。

「あなたの奥底にいる”その彼女”は誰です?」


「、、、、そんな者はいない」

 ようやくクリストファーが口を開いたが、力ない口調だった。

「いいえ、あなたの中にはその彼女は根付いてます。具現化するほどに・・・。この人は、誰です?」

 クリストファーの頭の上を見て、表情が強張るマリエルの肩をディークファルトは抱きしめ、クリストファーを見るが女の影など見えない。


 だがマリエルの瞳には、クリストファーに取り憑いていたように背後から現れ頭上に佇み俯いた女性が見えていた。

 そんな女性が何かに気がついたようにふっと顔を上げた。


 随分と美しくどちらかと言えば可愛らしい女性だ。見た目は若く見えるが30代くらいの人だろうか。

 肩までの淡い金髪の毛は緩やかなウェーブがかかっていてピンク色の瞳が見る見る潤いを持ち始めると満面の笑みを浮かべた。

 次の瞬間ディークファルトに飛びつく勢いで飛んで来たので、マリエルは思わずディークファルトを押しのけその手を掴んだ。


「あなた何者?何で今ディー様に触れようとしたの?」

 え?!と皆がマリエルの前方部分を見つめるがクリストファーが項垂れた姿しかなく理解し難い。


 マリエルもこんなこと初めて驚きしかなかった。

 クリストファーから具現化したその女性が急に意識がはっきりしたように目を見開いき、腕を伸ばしてディークファルトに触れようとしたのだ。

 思わずその腕を掴んだがまさか本当に掴めるとは思わず内心、エエエエエエエエ!!!と悲鳴を上げていた。

 ただこの手を離したらどうなるのか。

 マリエルにもわからなかった。


『離せ?!』

 ビリビリと電流のようなものと一緒に声が頭に響いた。そしてマリエルは気がついた。

「そう、あなた生霊ね。なぜここにいるの?」

 もう片方の腕をまたディークファルトに伸ばす彼女にマリエルもそれを阻止した。

「あなたは誰?」


『離せ!離せ!離せ!』

 ビリビリ痺れる腕から放たれる怒気にマリエルは一瞬怖気づくが、小さく呟かれた言葉にえ?っと目の前の彼女を見つめた。

 彼女は確かにディークファルト様と言ったのだ。


 嫌悪感が生まれ、マリエルは衝動的に言葉を発した。

「《離れて!》」

 目の前の彼女と同じ言葉をマリエルが呟いた瞬間バチリ!という音と共に生霊に向かって切り裂くような強い風が吹いた。

 その瞬間、目の前の彼女はクリストファーを通り越して壁に勢いよく激突した。


 えっ?

 これにはさすがのマリエルも驚愕した。今の何?

 自身の手を凝視したが、ゆらりと揺れた空気に顔を上げると、あっ、と弱り顔になった。


 相手を完全に怒らせたのか美しい顔立ちの彼女の顔が般若のようになっていた。

 不味いと思っても後の祭りである。

 キッと生霊に睨まれた瞬間、何故か後ろからギュッと抱きしめられた。


 ディー様?

 後ろを振り返ると、心配そうに眉を下げたディークファルトがいた。

『なぜ?』

 生霊の彼女が発した言葉に、前方を見るとその女性は涙を流していた。

『その女は誰ですの?』


 どういうことだろう?

 クリストファー殿下から出てきた彼女がなぜディークファルトに感心を示すのか?

 2人の王子に共通する人間なのはわかるが、様子がおかしい。

「あなたは何故泣いてるの?ディー様の何?いいえクリストファー殿下とは」


『お前こそ誰だ!!!!』

 怒号と共に放たれた気は、さすがに鈍感な者も分かるほどに部屋がビリビリと揺れ、マリエル以外の人間もそれを感じ恐怖に触れた。

 尚更ディークファルトは真正面からマリエルを抱き寄せた。


「ディー様ややこしくなるので、今は離して下さい」

「嫌だ!婚約者の安否を心配して何が悪い!」

 ユラ〜〜〜〜っとヒンヤリした空気が前方から放たれた。

 やっぱりこの人ディー様の方に感心が、って!やだ!怖い!


 生霊の彼女が突進して来る!!!

 怖い怖い怖い!

(《こっちに来ないで!》)

 思わずディークファルトに抱きつきながら心の中で願えば、バチッ!と言う音ともに彼女は何かに阻まれたように途中でビタリと止まった。

 件の彼女はバンバンと見えない壁を叩く仕草を目の当たりし、これは自分の思いがそのまま具現化してる?とマリエルは都合いい事が頭をよぎった。


 ならばと声に出した。

「《結界》」

 クリストファー殿下の周りを球体をイメージして言葉にすれば、その彼女ごとクリストファーは球体の中に入ってしまった。

 エエエエエエエ!!?

「本当にできた」


「?何ができたんだ、マリー?」

 ディークファルトの問いに、マリエルはクルリと向きを変え困惑顔のまま、今までのことを皆に説明した。

「で、今クリストファー殿下の周りを結界で覆ったので、その彼女はそこから出てこないと思うのですが、話が進まないので姿が見えるようにしたいのですが」

「出来るのか?」

 サイラスが驚き口にすれば、マリエルは頷いた。


「恐らく。ただその彼女は殿下方と関係のある方と見受けられます。彼女がなぜこんなところにいるのか、クリストファー殿下とどういう関係なのか誘導をお願いします」


「そういうことなら私が間に入りましょう」

 イーサンの言葉に、それは頼もしいとマリエルは頷いた。

 結界に向き合い「《具現化》」と唱えた。

 途端球体の中から現れた女性の姿にマリエルとサラ以外の全ての者が(おのの)き、驚愕な表情を浮かべた。


「「シルヴィア・ホーキンス?!!」」


 王太子とルーカス殿下の言葉にマリエルは、どこかで聞いたことが?と首を傾げた。

 誰でしたっけ?とディークファルトを見上げて、マリエルは戸惑った。


 ディークファルトの顔色は真っ青を通り越し白くなり、唇が震えていた。




次のUPは一週間後です。

よろしくお願いします。


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