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竜の楽園  作者: 虹乃懸橋


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31、マリエルの謎の行動と能力


 話は少し前に遡る。

 イーサンの報告を受けて、ディークファルトの部屋へ急ぎ向かっていたサイラスは竜御殿の前で弟ルーカスと鉢合わせていた。

「兄上も聞かれたのですね」

「ああ、あいつにはほとほと呆れる。今度という今度は許さんぞ」

「ええ」


「その前にディーだ。もう起きているだろうが、一緒に囮部屋に行こう」

「それなのですが、カーラの話では今日はまだ起きて来ていないそうです。昨日までバタバタしていたので疲れているのだろうと、そのままにしているとか」

「まあ、そうだろうな。強行軍だったからな。そうは言っても事が事だ。起こしに行くぞ!」


「はい」

 と言ったはいいが弟の寝室に来てみれば、これはどうしたことか?!

 先に入室したルーカスはガン!と頭部を殴られたように立ち尽くした。

 ディークファルトの部屋をノックしたが返事がないので、起こそうと入室してみれば、目の前の光景に見動きできなくなった。


 ディーは寝ていた。

 ただその腕の中にまだ幼さが残る姫が収まっているではないか!!

「これは・・・」

「何の冗談だ」

 あ、兄上冗談で片付けようとしてる。


 無理でしょう!これを冗談で済ませるには重すぎる!!

 しかも何を考えているのか、さらに距離を縮めるように抱え込み足も巻き付け始めた!!?

 後にイーサンが来たことにも気が付かないまま、頭がパニックになっていたのはルーカスだけではなかった。


 おいおいここでおっ始める気じゃないだろうな!!

 と兄達が慌てた時、ディークファルトの目がパチリと開いた。


 後、飛び起きた。

 すげー、今1mくらい飛んだぞ。とルーカスは呑気に考えた。

 ディークファルトの様子から、どうやら弟が連れ込んだわけではないらしいことに気がつき、落ち着きを取り戻した兄達だった。

 だが疑問が残る。


((((では、マリエル(姫)が自らここに??))))

 皆の疑問が一致し、隣国の姫を眺めていた。


 先程まであった暖かいものが急になくなり、マリエルはブルリと震えた。

 瞼の上から入る光加減で夜が明けたことを察したが体が(だる)い。

 やけに体が重いと目を開けた先で、壁に背をつけこちらを凝視しているディークファルトの姿が映った。


(?ディー様??)

 ゆっくりと上半身を起こし、部屋の入り口にも人影があり驚いた。

 ここはどこだったかしら?

 昨夜部屋を訪れたサラという、マリエルとそう年の変わらない女性が護衛として入室してきたので女子会状態で話が盛り上がったことまでは覚えている。

 それ以降の記憶がないのだが、どう見てもここは割り当てられた部屋とは違うようだ。


「あの、ディ ブ!!」

 挨拶する前にガウンがマリエル目掛けて飛んできた。

 顔にかかったガウンをゴソゴソと繰り落として顔を出した。

 大きさからしてディークファルトのものらしく紺色の大きなものだが、安心する嗅ぎ慣れた匂いがしてマリエルは頬を染めた。

「まずはそれを着なさい。素足が見えてる」

 ディークファルトにそこまで言われて自分の格好を思い出した。


 昔ディークファルトが使っていたという羽織るタイプのパジャマという夜着らしい。

 スケ感もなく実用性がある夜着にマリエルは安心し着心地がよかったのだが、なに分有り合わせの物なので丈が足りなかった。

 膝より少し下までしかなく足首を出さないデュリカーナ人のマリエルは顔を真っ赤にした。

 そそくさとガウンを羽織り、ベットから降り立った。


 かなり引きずる長さだが足首が見えるよりはいいだろうと、両手でガウンを持ち上げ入り口に向う。

 するとイーサンが挨拶をしてきた。

「おはようございます、マリエル姫」

「おはようございます。皆さんお揃いでどうされたのです?」

 どうしたってこっちが聞きたいのだが、と皆困惑顔だ。


「それより私なんでここにいるんでしょう?昨夜自室でサラさんとお話してたはずなんですけど」

 コテンと首を傾げるマリエルに、兄二人と重臣一人がディークファルトを見つめた。

 その視線に子供のようにブンブンと勢いよく首を横に振るディークファルトに嘘はないようだ。

 証拠が不十分でどうなっているのか理解し難い。

 サイラスは腹心に目を向けた。


「どうなってる?」

「サラの様子もおかしいですし、何かあるのかもしれませんね」

「おかしい?」

「ボーッとしていて目の焦点があっておらず、問いかけても上の空なのですよ」

「え・・・」

 俺お化けとかそういった類のものは苦手なんだよな。としかめっ面のルーカス。


 その横でディークファルトはベッドから離れ、婚約者の顔を覗き込んだ。

「取り付いてるならマリーにも憑いてんじゃないか?」

 キョトンとしたマリエルにディークファルトは微笑んだ。

「おはよう」

「おはようございます」

 マリエルに頬を染められ、はにかまれたディークファルトは、ここに兄たちがいなければ・・・と内心ゴチた。


「だから憑くとか本当そういうこと言うのやめて」

 脱力して言うルーカスの言葉に、その横でマリエルは胸に手を置き、一呼吸後首を振った。

「私には取り憑いたものはありません。そういった類のものがいたらすぐに気が付きますから」

 平然というマリエルに皆目を見張る。


「もしかして”見える”の?」

 恐る恐る話すルーカスとは対象的に「霊が見えるのですか?」と直球で聞いたのはイーサンだった。

 その言い方に憤慨してルーカスが吠えた。

「俺そういう見えないものとか信じたくないし苦手だって言ってんだろう!もうちょっとオブラートに包む言い方しろよ!」

 恐怖に震え吠えるルーカスをサイラスは、ドウドウと取り押さえ、イーサンは半眼で耳を塞いだ。


「霊・・・とは違います。もちろん見えることもありますが、ほとんど思念に近いものです。私はどちらかというと、生きたものの思念、心の奥底に眠っている色が見えるのです」

「色?」

「例えば腹黒いと言われている人は思っているより黒くないんです。思いを実行出来ている分。・・・一番怖いのは実行に移せずに悶々と考え表面的には友好を築いているような人なんです。私はそういった何を考えているのかわからない人の色が見えるようで」

 マリエルはそこまで言ってハッとした。まずい。


 これは他言しないようにって兄に言われていたことを思い出した。

 現にここにいる皆、変な顔をしている。

「すみません、変なことを言って」

「いえ、それを知っている人は?」

 イーサンの言葉にマリエルは素直に言葉にした。


「・・・・アランお兄様だけです。このことは他言しないようにと、固く誓ったはずなのにすみません」

「確かにそれが本当ならここにいる者以外には他言しないほうがいいだろうな」

 厳しい顔をしたサイラスの横で、イーサンが神妙な面持ちで聞いてきた。

「姫、それはいつの頃から見えるようになったのです」

「えっと・・・・ジュリアス、青い竜と出合って少しした頃からです。お兄様は何かの加護かもしれないから、利用されることを恐れて黙っているようにと言われてました」

 そこまで話を聞いて皆の表情が変わった。


 ((((王竜の加護か?!))))


 【青の王竜征する者、この世の覇者となりうる。黒の守り竜を征する者、すべての竜を掌握できる器となりうる】


『青の王竜征する者、この世の覇者となりうる』とは、人の善悪を見極める能力があるからなのか?!

 改めてすごい姫が来たな。と誰もが思った。

 そしてディークファルトは自身の耳元に手を持って行き、ジッとマリエルを見据えた。

 マリエルに黒の竜に関する、我が王家だけに伝わる秘匿を教えねばならないことを思い出していた。


 ここでマリエルは西の方向から”嫌な気”を感じ、そちら側に顔を向け壁の向こうを見据えように見つめた。

「イーサン、西側にいる”人たち”は誰です」

「人たち?竜騎士隊員のことですか?」

「違います。護衛の方3人を除いた人たちです」


「それでは数が合いません。今あの部屋にいるのは護衛含め4人しかおりません」

「護衛除いて1人?!」

 そんなはずは?!ともう一度西側に顔を向けたマリエルの表情が強張った。

「あそこにいるのは誰です?」

 マリエルの口から西と聞き、ディークファルトの顔から笑みが消えた。


「西側?囮に使った部屋ですよね。そこに護衛以外の人がいるということは捕まえたのですか?」

 ゴキ○リを見つけたような苦々しい顔をするディークファルトに兄2人はこの後の修羅場を想像しゾッとした。

「いや、落ち着けディー」


「人の婚約者の滞在部屋と対外的とはいえ言われていた所に忍び込む輩がいて、落ち着けるわけないでしょう!」

 そりゃそうだ。

 ごもっともです。

 と二人の兄は心の中で降参ポーズを取った。

 もう一人の弟の命もここまでか。と一瞬頭を過ぎった。


 マリエルはもう一度イーサンに問うた。

「あそこにいるのは誰です」

「クリストファー・オルリア殿下。ディークファルトのすぐ上の兄君です」

「・・・そんなことを聞いているのではありません。”あれ”は誰です」


「・・・あれ、とは?」

「言い方を変えます。クリストファー殿下は今、普通の状態とは違っていませんか?」

 マリエルの言葉にイーサンはハッとした。

 取り押さえた三の殿下は確かに普段の落ち着いたものとは違い錯乱した状態にあった。


「なぜそれを?」

「あの部屋から感じる気は、クリストファー殿下だけのものではないのです。もう一人クリストファー殿下のすぐ横?上?に、もう一人います」

 マリエルの言葉にヒイイイイとルーカスの方から小さな悲鳴が聞こえる。


「あれは死んだ者の霊とは違います」

 マリエルの言葉にルーカスはあからさまにホッと肩を撫で下ろした。

「あまりに思いが強すぎる。どちらかといえば・・・生霊?もしくは呪詛の類かしら。ここからでは限界があります。私も着替えたら殿下に会わせて下さい」


「無にできますか?」

「わかりません。しかし相手が霊でなければ勝算はあると思います。さすがにわたしは霊媒はできませんから」

 マリエルの言葉にイーサンは頷いた。


「分かりました。では着替えが済次第サックスと共に西側の部屋へお越しください」

「はい。あ、それとサラさんは大丈夫だと思います」

 東側を見て微笑んだ。

「なんだろう、悪いものではないようですが、イタズラされたようですね。彼女自身はまだ夢を見ているようです」

 そんなこともわかるのか。と感心する一同だった。


 その後マリエルは自室に戻り、サラを気付かせ落ち着きを取り戻すと部屋で着替えを手伝ってもらっていた。

 鏡に映るサラの表情が固い。

「どうしたの、サラさん」

 マリエルの言葉にサラはバッと身を半歩下がると勢い良く土下座した。

 え?!どうしたの!!


「申し訳ございません!!」

 何が!!?

「婚約者の不祥事、お許し下さい!!」

 ・・・・・婚約者?

「誰が誰の婚約者ですの?」


 まあ、まずは頭上げて下さいとマリエルもフワフワの床に座り込みサラの顔を覗き込んだ。

 顔を強張らせたサラはマリエルの顔を見ることが出来ず俯いたまま口を開いた。

「私はサラ・エリージャ。クリストファー殿下の婚約者です」


 え・・・・・ええええええ!!!

「エリージャ!オルリア王家一の腹心と言われるあのエリージャ伯爵のご令嬢?!サラさんが!」

 っていうか、何で伯爵令嬢が竜騎士隊なんかに入ってるの?!


「はい、3ヶ月後には結婚する予定・・・でした」

 何故過去形?

「決行でしょう」


「今回のことが公になれば、そうも行かないかと・・・」

「んー・・・・この結婚は恋愛結婚?政略結婚?」

「半分前者、半分後者です」


「言い方が悪かったわ。対外的にはどちら?」

「政略かと」

「じゃあ、このまま決行じゃない。安心していいわよ」

「いいえ!・・・父が、破棄を求めるかと」

「何故?」


「殿下の悪い癖が出たので」

「悪い癖?」

「あの方は昔から美しい女性を見るとフラフラと甘い蜜を求める蝶にように女性を渡り歩くところがありまして」

「ああ、なるほど」

 それでこの竜に守られた御殿にも関わらず昨夜護衛がいたのね。


 マリエルは表向きの警護なのかとサラとはしゃいでしまったが、本気の護衛だったのかと内心焦った。

「サラさんも美人さんなのに、どこが気に入らないのかしら」

 するとサラは悲しい顔つきになった。


「殿下は言ってくれたのです。もう渡り歩くのはやめると。サラと幸せな家庭を築きたいからと・・・。だから殿下との結婚を決めたのに」

「その言葉を信じてあげないのですか?」

「昨夜までは信じていました!でも殿下は!!」

 下唇を噛んで俯くサラに、マリエルはフムと顎に手を置いて考えた。


「一つ質問していいかしら」

「・・・どうぞ」

「クリストファー殿下は嘘をつく方ですか?いや、違うな。例えば婚約する前でいいです。浮気を隠すタイプですか、公にしてでも女性と会うタイプですか?」

「それでいうなら後者です」

「清々しいほどはっきりした方ですね」


「そういう方はお好きですか?」

「申し訳ないけど、誰かと一人の男性を共有するほど私は心広くはないので遠慮させて頂くわ」

 結婚相手がディー様でよかった!!と本気で思ったマリエルだった。


 が、目の前の女性の心痛はどれほどのものか想像を超えない。

(ぬか)喜びさせるつもりはないのですが、今回のクリストファー殿下の行動には不審な点があります。単純に私を狙ったものとも違うようにも思えるし、真意は聞いて見なければわかりません。ですがサラさん、あなたがまだクリストファー殿下を信じたい気持ちがあるならこの後、一緒に行きましょう」


「姫様?」

 ニッコリ笑うマリエルを呆然と見つめるサラだったが、すぐに目に光を宿したことにマリエルはホッとした。

 衣装を着終わるとマリエルは鏡の向こうにいるサラに頷いた。

「では一緒に真実を掴みに行きましょう」

 そう言うと二人は部屋の外で待機していたサックスと共に、囮部屋となった西の部屋へと急いだ。

 



次回は来週の月曜日にUP予定です。

よろしくお願いします。





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