30、警護対象
不定期ですが、連載を再開します。
よろしくお願いします。
マリエルとの晩餐中に、ルーカスからの招集で数名の竜騎士隊員が王太子の執務室に集まっていた。
副隊長のサックスと重臣イーサンを中心として会議が始まった。
「当分のマリエル姫の護衛はサックスにしてもらいます」
イーサンの言葉にサックスは頷き、質問する。
「当分というのはどれくらいです?」
「一週間後にデュリカーナから物資と一緒に侍女と護衛が来る予定になっています」
「侍女・・・ですか。大丈夫ですか?竜がいるようなところですが」
「そこは心配いらないとのことです。ずっとマリエル姫の侍女をされたベテランの方らしく竜にも耐性はあるそうです」
「・・・さすがです」
侍女がすごいのか、マリエル姫の教育?の賜物なのかわからないが、オルリアでは考えられないことだった。
「その方と一緒にあのジオンが来るそうです」
「ジオンと言うといつもルーカス殿下が何かと口に出すあのジオンですか?」
「ええ、そのジオンです。こちらに向かっている侍女の方が奥方らしいのですが、彼女に着いてくるそうです」
「それは隊長も喜ばれたでしょう!」
他の隊員が興奮したように口にしたが、イーサンは声を低くし「さあ」と言った。
「さあ、って。もしかして伝えてないんですか?」
兄の態度にサックスは何故?と問うと、イーサンは手元の資料に視線を向けて嘆息した。
「知ったらどうなります?」
「どうって、興奮して・・・」
普段の隊長のジオン愛を思い出し、遠い目をしたのはサックスだけではなかった。
「いえ、言わない方がいいですね」
満場一致で発言すればイーサンも頷いた。
「ですね。なのでジオンが来るまでの間、マリエル姫の護衛はサックスにお願いします」
「分かりました」
「で、ここからが本題です。夜の警護です」
イーサンの言葉にサックス以外の隊員は首を傾げた。
「必要ですか?」
竜御殿は夜でも竜が闊歩する云わば、竜の要塞だ。
マリエル姫の警護がいるとは思えなかったのだが、次の言葉でその理由に気づいた。
「三の殿下が今夜帰って来てます」
イーサンの言葉に空気が一気に冷えどよめきが起きた。
「え〰〰〰?!」
「でもディークファルト殿下の婚約者ですよ?!」
「まだ手はついていないのですよ。もし三の殿下がお手付きしたら、覆ります」
隊員達はあの殿下なら十分にあり得るか?と表情を硬くした。
「良い方なのですがね。女性に関しては問題だらけですからね」
イーサンが目を閉じ嘆息する姿に、隊員の一人が頬を引き攣らせながら口を開いた。
「三の殿下も婚約中ですし、落ち着いたということは?」
「それならそれでいいのですよ。我々は最悪を想定して動くしかないのです。私とて王族から犯罪者を出したい訳ではありませんから」
それもそうですね。と皆、顔を強張らせた。
「マリエル姫にはディークファルトがいる東側の部屋を使ってもらいますが、我々は西側で警護します」
西側にも簡易部屋があり、ディークファルトが住居として住まうようになってからは、時折兄の誰かが休む為に利用していた部屋が一つ存在していた。
その為東側に比べて西側の方が貴賓室として家具類が充実しているのだが、マリエルは竜が闊歩しやすい側が良いと言っていたらしく必然で東側の部屋を割り当てられた。
ただ、その判断は護衛するとなると都合が良かった。対外的にも貴賓室に姫が滞在していると思わせるにも都合が良かったからだ。
「誘導ですか?」
「ええ、マリエル姫の部屋にはサラを護衛代わりに置く予定ですので、二重の警護ですね」
騎士団の中で数少ない女性騎士。貴族出身だが、その剣の実力は団長ルーカスも認める実力者だ。
何より三の殿下にとって今の彼女は大きな防波堤になる。
「サラなら、もしという時でも盾になりますね」
「ええ、備えは十分です」
では皆配置についてですが、と綿密に計画し実行したその数時間後。
囮用の部屋で異様な姿の三の殿下、クリストファー・オルリアを騎士団は捕獲することとなる。
◆
翌日の早朝、王宮の王太子夫婦が住む王の間にイーサンは深刻な表情でサイラスを待っていた。
数分後寝室側の戸が開き、王太子が入室してきた。
いつものこの時間なら王太子然ときっちりと衣装に着替えているはずが、バスローブ姿で現れた。
それも気怠そうでありながら艶がある。
どうやら彼も用途は別ですが、寝ていないようだとイーサンは感じたが、王太子夫婦が仲睦まじいのなら喜ばしいことだと単純に喜んだのだ。
それ故にこれから言うことに、頭を抱えざるおえない。
「こんな格好ですまんな」
「構いませんよ。あなた方がうまくいっているのなら、重臣としてこれ以上の喜びはないのですから」
「ああ、で。今お前がここにいるということは」
懸念されていたことが、実行されたと確信したサイラスの眉間には皺が寄る。
イーサンの眉間にも皺が寄っていた。
「数時間前に囮用の部屋に忍び込んだ者を捕獲致しました。ただ・・・・」
言い淀む腹心に、見据えたサイラスは異様な空気を感じた。
「ただ、どうした?」
「異様な様でして・・・」
「どういうことだ?」
核心をつかず、イーサンは真剣な表情を皇太子に向けた。
「見て頂くのが早いでしょう。これより囮用の部屋にてお待ちしております。支度が済次第、確認をお願いします」
何かおかしなことが起きたのだと考察したサイラスは、早急に現場に向かった方が良さそうだと判断した。
「わかった」
寝室の戻ろうとしてサイラスが振り返った。
「あ!で、マリエル姫は無事なのだな!」
「サラから報告が上がっていないので、大丈夫と判断しております」
「そうか、ではお前は先に姫の安否を確認してくれ。私はディーと共に囮用の部屋へ向うこととする」
「承知致しました」
イーサンはその後直ぐに弟のサックスと共にマリエル姫の部屋へ向かった。
竜御殿東側のブースは簡易的な水回りの部屋が中央に配置されており、その水回り部屋を取り囲むように両サイド通路がある。水回り部屋の奥に寝室ブースが2つ存在する。
元々竜の世話をするための簡易部屋の為、2つの寝室は中央に厚い壁で遮られておりそれぞれの入り口が建物の対極に存在する程、利便性が悪いものとなっているが、そもそもこの建物は人が住む使用として建てられていない。
竜の世話をする王族とその使用人が仕事をする際に使用したり仮眠を取るための用途で作られた簡易部屋なので、これまで入り口が離れているのは問題はなかった。
だが今後2人が結婚しここに住まうのであればどちらの部屋にも行き来出来るように中央に設けられた厚い壁を取っ払うか、扉を着けなければならないだろうが、その辺はおいおい計画を立てるしかない。
右側通路奥が普段のディークファルトの寝室。ならば左側通路奥の部屋が姫に割り当てられた寝室になっているはず。
と、2人が急いで左側通路に向かった先に竜騎士隊の黒い軍服姿の女性が部屋の扉前に佇んでいた。
黒いストレートの長い髪を麻紐で上部に縛り、顔は真正面に向いているが美しい面持ちをしている。
貴族の令嬢である彼女に、これから言うことにどれだけのショックを与えるか。
イーサンは考えただけでも心痛な面持ちになる。
だが部屋の前でサラの姿を確認したサックスは慌てたように駆け寄った。
「サラ!お前なんで部屋の外にいる!」
警護対象である姫には昨日、事前に室内で警護する旨は伝えた。
昨夜二人が入室したのを確認して囮部屋に向かったはずのサックスだったが、そのサラが外にいるのはどうしたことか?
サラの目の前まで来て、サックスは息を呑んだ。
エメラルドを彷彿とさせる澄んだ翠色の瞳が焦点があってないように彷徨っていた。
「サラ!サラ!」
肩を掴み揺さぶるが、焦点が定まらないどころか意識も混濁していた。
「サックス!」
部屋に入り中を確認したイーサンが緊迫した声で、弟を呼んだ。
サックスは同僚を壁際に移動させ、入室して、すぐに異変に気がついた。
「姫はどこだ?」
ベットの上には無造作に置かれた布団が1式よれた状態で置かれているだけでそこには人の膨らみはない。
王族が使うには狭い室内をどんなに見回してもベットの下や衣装箪笥の中、机の下など隠れられそうな場所を念入りに探すが、マリエルの姿は部屋の中にはどこにもなかった。
イーサンとサックスは顔を見合せ、背中で嫌な汗を流した。
一刻を争う事態にイーサンは一人、ディークファルトの寝室に向かった。
彼にどう説明すればいいのか。
怒声くらいで済めばいいが、それでは済むまいと表情を硬くした。
サックスにはサラのそばにいるように指示した。
姫が何処に行ったのか、警護対象がいなくなったことに気がついていたのか。
正気を取り戻したら質問させるために、マリエルの部屋前にサックスを置いてきた。
ディークファルトの寝室が見え、その戸が開け放たれた先に見慣れた2つの背があった。
王太子サイラスと竜騎士隊長で第二王子のルーカスである。
棒立ちのまま立ち尽くした姿に「デジャヴ?」と近寄り入室してみれば、見覚えある光景が目に入り苦笑いしか出なかった。
寝室の奥、中央に置かれた大きなベットはディークファルト1人でも十分に広くゆったりとしたキングサイズのものだ。そのベット中央にディークファルトの姿があった。
いつもなら鍛錬の為、起きて朝食も済ませている時間にも関わらず、ぐっすり眠っている。
ただいつもと違うのは、その腕にピッタリとマリエルを抱きかかえていたことだ。
10年前と距離間もインパクトも違うが、私は今の方がダメージは少ないですよ。と冷静に感じていたイーサンだが、兄2人はそうではないらしい。
雷に撃たれたように立ち尽くしている。
まあ、あのディーですからね。
信じられない気持ちはわかりますがと、眉を下げた。
しかしこれをどう捉えればいいのか。
姫がここにいるということは、サラは何をしていたのか。
その前に姫は自分の意思でここにいるのだろうか。
「ん・・・」
人の気配を感じてか、ゆっくりと覚醒していたディークファルトだったが、腕に温かいものを認識し頬が緩んだ。
暖かくて柔らかくて、なんだか良い匂いもする。
思わずすっぽり覆い隠すように抱き込めば、もぞりとそれが動いた。
ん?これは何だ??
目を開き、腕の中を確認して一瞬固まった。
目の前の存在を認識し目を見張った。
「は?!マリー!!!」
飛び起きた勢いがあり過ぎたのか、ベットの下に降り立ったほどだ。
そして室内に2人の兄とイーサンの姿があることに気が付き、真っ赤だった顔が真っ青へと変わった。
本日もう1話UP予定です。
よろしくお願いします。




