暴走列車 清水ユリ 第2部 8
が、
そんなことを、考えても、仕方がない…
そんなことを、悩んでも、仕方がない…
もう、この学校に、転校しちまったんだから、仕方がない…
アタシは、そんなことより、職員室を目指した…
さっさと、職員室に行って、遅れたことを、詫びなければと、考えた…
だから、速攻で、職員室に、向かった…
一目散で、職員室に向かった…
職員室の場所は、聞いた…
だから、後は、走るのみ…
廊下を走るのみだ…
アタシは、ホントは、走るのは、嫌い…
理由は、単純…
カラダが、大きいからだ…
男も女も、カラダが、大きいものは、走るのが、苦手…
カラダが大きい=体重が、あるからだ…
真逆に、小柄なものは、男女を問わずに、動きがいい…
その代表が、ダンス…
男女に限らず、背が低いものの方が、軽やかに、踊っているものだ…
アタシは、内心、そんなことを、考えながら、廊下を疾走した…
全力で、疾走した…
そして、目当ての職員室を見つけると、勢いよく、ドアを開けた…
息せき切って、ドアを開けた…
「…遅れて、すいません…」
と、言って、ドアを開けた…
が、
反応がなかった…
まるっきり、なかった…
なにより、職員室に、ひとが、ほとんどいない…
これは、一体、どういうことだ?
考えた…
が、
考えてみれば、今は、授業中…
職員室に、ひとが、いないのは、当たり前だった…
遅まきながら、それに、気付いた…
が、
それにしても、反応が、薄い…
薄すぎる…
アタシは、構わず、職員室の中に入り、そこにいる、数少ない、おそらくは、教師に、
「…今日、この学校に、転校してきた、清水ユリと言います…今日、ちょっと、色々あって、この学校に、やって来るのが、大幅に遅れて、しまいました…申し訳ありませんでした…」
と、頭を下げた…
その職員は、アタシを見て、
「…随分、美人だね…」
と、一言。
そして、興味なさそうに、
「…美人さん、アナタは、選抜クラスじゃ、ないでしょ?…」
と、付け加えた…
「…選抜クラスなら、校長を始め、職員が、総出で、お出迎えするものだけれども…」
…それじゃ、まるで、昔のお殿様じゃないか!…
アタシは、思った…
が、
ここで、引くわけには、いかない…
「…アタシだって、この学校に転校してくるのに、両親が、大金を払っているんですよ…」
と、言って、やった…
ホントなら、禁句を言ってやった…
が、
この禁句は、刺さらなかった…
目の前のオジサンには、刺さらなかった…
「…献金なら、みんな、してますよ…一般クラスなら、寄付金が、百万は、超えています…」
オジサンが、あっさり、言う…
「…ひゃっ…百万…」
聞いたアタシの方が、卒倒しそうだった…
今にも、この場で、卒倒しそうだった…
父は、アタシをこの学校に、転校させるために、そんな大金を払っていたのか?
全然、知らなかった…
そんな大金を払ったのを、全然、知らなかった…
そんな驚いた、アタシを、そのオジサンは、見た…
ジロジロと、遠慮なく、見た…
そして、言った…
「…お嬢さん、この学校に、芸能クラスがあれば、お嬢さんは、間違いなく、芸能クラスだよ…そのルックスだから…」
と、言った…
それから、
「…だから、お父さんは、百万なんて、大金を出したんだろうね…きっと、お嬢さんが、可愛くて、仕方がなかったんじゃ、ないかな…」
とも、言った…
父が、アタシを溺愛していることを、喝破した…
見切ったと、言っても、いい…
しかし、まあ、そう言われなくても、わかる…
誰もが、わかる…
男親は、大抵は、娘が、好きだからだ…
娘が、かわいいからだ…
おまえに、アタシは、美人…
母に、そっくりの美人だ…
だから、かわいいのは、わかる…
わかるのだ…
「…でも、まあ、この学校に芸能クラスは、ないから、お嬢さんを特別扱いは、しないよ…なにより、誰も、お嬢さんを迎えに出なかったのが、その証拠…」
と、言った…
オジサンが、言った…
アタシは、面食らった…
文字通り、面食らった…
面食らって、言葉もなかった…
しかし、このオヤジ…
初対面のアタシに対して、禁句というか…
普通、言ってはいけない、学校の秘密を、あっさり、言う…
…一体、何者なんだ?
アタシは、思った…
思ったのだ…
だから、アタシは、
「…失礼ながら、アナタは、一体…」
と、聞いた…
遅まきながら、聞いた…
「…教師ですよ…」
と、このオジサンは、一言。
「…教師?…」
それは、わかっている…
なにしろ、ここは、学校の教員室だ…
まさか、教師以外の人間は、いまい…
だから、それは、わかっている…
わかっている…
アタシが、そう、思っていると、続けて、
「…元、教師かな…」
と、言った…
意味深に、言った…
「…元教師…」
と、アタシは、繰り返した…
「…なんですか? それは?…」
「…今は、生徒に直接教えていない…管理職…副校長ですよ…」
「…副校長?…」
そんな役職あるんだ?
アタシは、思った…
アタシの前にいた高校には、そんな役職はなかった…
もちろん、意味は、わかる…
校長の次に偉い、ひと…
この高校の№2だ…
しかし、その№2が、こんなに、ペラペラと、学校の秘密をしゃべっていいのだろうか?
さっき、駅員室で、聞いた話と同じで、すでに聞いていたから、全然、驚かなかったが、それを、初対面のアタシに…
まして、この学校に転校してきたばかりの生徒に、していいのだろうか?
アタシは、思った…
だから、聞くことにした…
直球で、聞くことにした…
「…あの…そんなこと、言っていいんですか?…」
と、聞くことにした…
「…そんなことって、なに?…」
「…今、アタシに話したこと…この学校の秘密と言うか、恥部というか…そんな寄付金うんぬんのことです…」
「…ああ、それね…」
と、このオヤジは、軽く言った…
「…別に、誰でも、知っていることですよ…」
「…誰でも、知っていること?…」
アタシは、驚いた…
「…お嬢さん、転校生だから、知らないんですよ…この地元じゃ、知らないものは、誰もいない…それほど、有名ですよ…」
「…有名?…」
「…そう、有名…」
あっさりと、そう、断言された…
それから、
「…申し遅れました…私は、伊藤…副校長の伊藤です…」
と、名前を、言われた…
「…たしか、清水さんですね…とりあえず、校長室に行って、アナタの情報を見てきます…」
「…校長室ですか?…」
「…とりあえず、この高校の情報は、校長室に集まるように、なっているんです…だから、校長室に行けば、わかりますよ…」
そう、言って、伊藤は、消えた…
あっと言う間に、消えた…
アタシは、ぼっちになった…
ひとりぼっちになった…
この広い職員室で、アタシに話しかけるものは、誰もいない…
このだだっ広い職員室で、たぶん、教師は、数人残っているが、アタシに話しかけるものは、いない…
皆無…
誰もいない…
まるで、アタシなんか、この場所に、いないみたいに、みんなアタシを無視している…
誰も、アタシに関心を示さない…
その事実に、気付くと、アタシは、焦った…
…一体、なんなんだ? この高校は?…
と、焦った…
この職員室を見渡すと、数人、ひとは、いるが、みんな、机の上のパソコンに、釘付け…
誰も、一言も、しゃべらない…
まるで、自分以外の人間に誰も、なにも、関心がないみたいだ…
これは、ちょうど、電車…
ほとんど、すっからかんの電車の中のようだ…
ひとは、いるが、数えるほど…
同じ車両に乗っては、いるが、皆、他人…
だから、しゃべらない…
一言も、しゃべらない…
それと、似ている…
驚くほど、似ている…
アタシが、そんなことを、考えていると、すぐに、あの伊藤が、戻って来た…
あの副校長の伊藤が、戻って来た…
「…お嬢さんの行く、クラスが、わかりました…」
と、言って、戻って来た…
が、
その歩みは、遅い…
実に、遅い…
なにより、全然、焦っていない…
それは、見ていて、わかる…
誰が、見ても、わかる…
…やはり、これは、アタシが、選抜クラスじゃないからか!…
…エリートじゃないからか!…
アタシは、思った…
それから、
…だったら、父なら、歓迎された?…
…エリートだから、歓迎された?…
そう、思った…
そう、思ったところで、気付いた…
…美人のアタシが、これほど、歓迎されないのは、初めてだ…
と、気付いた…
アタシを見れば、皆、
「…キレイね…」
と、言うのが、定番…
定番の反応だ…
それが、さっぱりなし…
それが、驚いた…
また、普通なら、そんなことは、もっと早く気付くものだが、忘れていた…
転校初日にも、かかわらず、大幅に遅刻したことで、忘れていた…
すっかり、忘れていた…
全然、気付かなかった…
<続く>




