暴走列車 清水ユリ 第2部 7
が、
これは、運命…
運命だと、思った…
運命だと、覚悟した…
そうでなければ、ならない…
運命だと、思わなければ、この先、やっていかれないからだ…
せっかく、父が、大金を出して、アタシの行く高校を探してくれたんだ…
嫌だも、なにもない…
行くしかないのだ…
アタシは、覚悟した…
悲壮な覚悟をした…
そして、その覚悟に、この警官が、気付いた…
年上の警官が、気付いた…
「…お嬢さん、凄い顔をしているね…」
と、言って、気付いた…
「…今の俺たちのやりとりを、聞いて、ビビった?…」
と、聞いた…
直球で、聞いた…
私は、素直に、
「…ビビりました…」
と、告白した…
「…まさか、そんな高校だったなんて…全然、知らなくて…」
と、続けた…
が、
しかし、返って来た言葉は、
「…お嬢さんは、気にしなくていいよ…」
と、言うものだった…
「…どうして、気にしなくて、いいんです」か?…」
と、私。
「…だって、今、話した話は、選抜クラスの話…お嬢さんには、関係ないだろ?…」
そう、言われると、ぐうの音も、出なかった…
たしかに、そう…
そうだ…
アタシは、選抜クラスではない…
一般クラス…
その他大勢の一般クラスだからだ…
「…いづれにしても、お嬢さんは、もう、これで、帰っていいよ…」
と、年長の警官が言った…
「…帰っていい?…」
と、私。
「…いつまでも、ここにいちゃ、まずいだろ? お嬢さんは、これから、学校に行かなくちゃ、ならないだろ?…」
と、年長の警官。
「…それは、そうですが…」
と、アタシ。
「…で、このひとは、どうするんですか?…」
と、アタシは、アタシの乳を揉んだ、この村井を指差した…
「…このひとは、もうちょっと、ここで、調書をとってからだ…それに、いくら、お嬢さんと、同じ高校に行くと言っても、まさか、痴漢の被害者と加害者が、仲良く、いっしょに、登校することは、できないだろ?…」
そう、言われると、アタシは、なにも、言えなかった…
たしかに、その通り…
その通りだからだ…
「…いずれにしろ、今日は、ご苦労様でした…また、なにか、あれば、よろしくお願いします…」
と、言った、型通りの、お決まりのセリフを、年長の警官から、聞かされ、アタシは、駅員室を出た…
なにやら、追い出された感じになった…
しかしながら、ここで、めげているわけには、いかない…
一刻も早く、高校に行かなければ、ならない…
アタシは、気持ちを切り替えた…
必死になって、切り替えて、学校に、向かった…
学校に着くと、予想通りというか、相手にされなかった…
真っ先に、職員室に行った…
学校の校舎の中に、入ってから、職員室を探した…
当然、わからない…
すでに、授業中だからだ…
だから、廊下には、人っ子ひとり、いない…
誰も、いない…
皆、授業を受けている…
アタシは、困った…
実に、困った…
…どうしよう…
と、考えた…
…どうしよう…
と、悩んだ…
と、そのときだった…
偶然、廊下を歩いている生徒を見た…
男の生徒を見た…
アタシは、その男に駆け寄り、
「…職員室は、どこですか?…」
と、聞いた…
息せき切って、聞いた…
アタシは、焦っていたから、余計に、息せき切っていたのかも、しれない…
呼吸が、荒かったのかも、しれない…
その生徒は、目をまん丸にして、驚いた…
アタシを見て、驚いた…
それが、わかった…
その生徒の顔を見て、わかった…
それゆえ、アタシは、すぐに、
「…転校生なんです…」
と、言った…
と、説明した…
「…だから、真っ先に、職員室に行かなきゃ、いけないんだけれど、場所が、わからなくて…」
と、アタシが、息せき切って、聞くと、その男は、硬直した…
なぜか、硬直した…
アタシを見て、なぜか、硬直した…
だから、
「…てめえ、早く、教えろ!…こっちは、今、急いでいるんだ!…」
と、言ってやりたいところだが、それを、グッと抑えて、
「…お願いします…職員室の場所を教えて下さい…」
と、頭を下げた…
それを、見て、その男は、言った…
ようやく、言った…
が、
それは、想定外の言葉だった…
アタシが、予期しない、言葉だった…
その生徒は、一言、
「…キレイ…」
と、言った…
「…まるで、お人形さんのように、キレイ…」
と、言って、顔を赤らめた…
アタシは、それを、聞いて、なんと言っていいか、わからなかった…
たしかに、アタシは、キレイだ…
美人だ…
でも、そんなことを、今、聞きたいわけじゃない…
今、聞きたいのは、職員室の場所…
どこに、職員室があるかだ…
アタシは、イライラしてきた…
もう少しで、その生徒の首根っこを掴んで、
「…さっさと、教えろ! この野郎!…」
と、やるところだ…
アタシの本来の性格は、そうだ…
しかし、その本来の性格を抑えて、
「…よろしく、お願いします…ぜひ、教えて下さい…」
と、言って、頭を下げた…
アタシは、頭を下げながら、
…これで、教えてくれなければ、実力行使しかない!…
と、腹に決めた…
そう、腹に決めた…
さすがに、この学校の生徒で、職員室の場所が、わからないわけは、ないからだ…
アタシが、そう、覚悟していると、その生徒が、
「…あっち…」
と、言って、この廊下の向こう側を、指差した…
「…この廊下の向こう側…行けば、わかるよ…」
と、続けた…
それを、聞いたアタシは、
「…ありがとうございます…」
と、頭を下げ、駆け出そうとした…
が、
その生徒が、アタシに、
「…転校生…」
と、声をかけてきた…
さすがに、それを、無視することは、できない…
アタシは、
「…ハイ…」
と、答え、
「…今日、転校してきました…今日が、転校初日です…」
と、言った…
すると、その生徒が、
「…だったら、考え直した方が、いいよ…」
と、言った…
「…考え直す? どうして、ですか?…」
と、アタシ。
「…まあ、入れば、わかるよ…」
と、その生徒は、答えた…
アタシは、それを、聞いて、不吉な予感を覚えた…
が、
さすがに、それを、口にするわけには、いかない…
その代わりに、
「…失礼ですが、アナタは、ここで、今、なにをやっているんですか?…」
と、聞いた…
なぜ、聞いたのか?
それは、この生徒が、目的もなく、この廊下を歩いているように、思えたからだ…
アタシの質問に、すぐに、
「…散歩…」
と、その生徒が、即答した…
「…散歩?…」
アタシは、返した…
「…でも、今は、授業中じゃ…」
と、アタシが、戸惑って言うと、その生徒が、
「…それが、できるのが、この高校…だから、こんな学校、来るのは、考え直した方が、いいよと、言ったんだ…」
と、答えた…
続けて、
「…この学校が、欲しいのは、選抜クラスの生徒だけ…他の一般の生徒は、おまけだから…」
と、言った…
「…おまけ?…」
と、アタシ。
「…っていうか、金づるというか、寄付金目当てに、入れてもらった奴ら…オレを含めて…」
と、自虐的に、言った…
それを、聞いて、さっき、アタシに痴漢をした村井を囲んで、やって来た警官たちが、言ったことと、まったく、同じことを、言っていると、思った…
そして、すぐに、大変なところに、やって来ちまったと、考えた…
自分でも、思っても、みない大変なところに、やって来ちまったと、思った…
思ったのだ…
<続く>




