暴走列車 清水ユリ 第2部 4
まあ、そんなわけで、今の高校に入るわけに、なったんだが、良いことばかりでは、当然、ない…
現に、引っ越してきた、そうそう、近くの山田さんには、目をつけられた…
目をつけられたと言えば、言い過ぎかも、しれないが、あの山田さんの息子が、アタシを好きになったのだ…
正確に言えば、アタシのルックスを好きになったのだ…
が、
アタシは、ルックスだけ…
ルックスだけの女だ…
当然、中身は、違う…
いわゆる、見た目と中身は、違う…
だが、それが、わからない男が、多い…
実に、世間に、多い…
そして、なぜ、世間に多いのか?
それは、アタシと接していないからだ…
美人でも、イケメンでも、普段、接して、いないからだ…
だから、わからない…
どんな人間か、わからない…
昨今は、スマホのアプリで、男女が出会って、結婚する話を、よく聞く。
それを、聞いた父が、
「…よく、そんな、何回も会ったことがない、ひとと、結婚するな…」
と、驚嘆したことがある…
続けて、
「…一回や二回、会っただけでは、どんな人間か、お互い、わからない…そんなことで、結婚するなんて、ギャンブルだ…」
と、嘆いた…
が、
それを、聞いた母が、
「…でも、お父さん、何年、付き合ったひとたちでも、離婚は、するものですよ…」
と、父に、言った…
「…それに、アプリで知り合って、結婚するのも、昔ながらの、お見合いで、結婚するのも、同じでしょ? どっちも、何回も会わないで、結婚するでしょ?…」
母に、言われると、父は、なにも、言えなかった…
「…いずれにしても、離婚するひとは、離婚するし、離婚しないひとは、離婚しない…それは、結婚してみなければ、わからないでしょ?…」
母に、言われると、父は、ぐうの音も出なかった…
そして、その流れで、母は、アタシに、
「…ユリも、今度の学校で、うまくやるのよ…何事も、最初が、肝心だから…」
と、念を押した…
それから、アタシに、向かって、
「…アンタも、アタシに似て、ルックスだけは、いいから、それを、武器にして、押し通すんだよ…中身は、さっぱりなんだから、ただ、ヘラヘラと、笑っていれば、いい…そうすれば、少なくとも、男たちは、ユリに気があって、ユリを好きになるし、味方にも、なってくれる…いい、わかった?…」
と、真顔で、言った…
このゆかりが、アタシに真顔で、説教するのは、珍しい…
実に、珍しい…
そして、それは、危険…
実に、危険でもある…
なぜなら、この清水ゆかり…
滅多に、アタシに真面目な話をしないからだ…
だから、怖い…
実に、怖い…
それゆえ、アタシは、
「…わかった…」
と、言って、それ以上、なにも、言わなかった…
反論しなかった…
反論すれば、言葉ではなく、手が飛んでくるのは、わかっているからだ…
この清水ゆかり…
言葉ではなく、拳で、相手を屈服させるタイプだ…
だから、怖い…
反論するのが、怖い…
だから、アタシは、ゆかりの言う通りにした…
初めて、学校に通うときに、ゆかりの言う通りにした…
清楚系の格好をして、初登校した…
アタシは、何度も、言うように、ルックスは、良い…
ルックスだけは、良い…
おまけに、身長も高い…
166㎝ある…
胸も大きい…
いわゆる、水着が、破壊力抜群というタイプだ…
そのアタシが。満員電車で、通学するのだから、早速、痴漢にあった…
初登校する、しょっぱなから、あった…
満員電車だから、気付かれないとでも、思ったのだろうか?
アタシの形のいいバストにそっと、手で触る不届きものが、現れたのだ…
これには、恐れ入った…
なにしろ、転校した初日だ…
今日、初めて、通学する学校だ…
幸先が、悪いって言ったら、ない…
実に、ない…
だから、アタシは、最初、我慢するべきか、迷った…
この痴漢の魔の手を我慢するべきか、否か、迷ったのだ…
正直、騒ぎを起こしたくない…
面倒事を、起こしたくないから、迷った…
が、
限界だった…
相手は、明らかに、調子に乗って来た…
アタシの胸だけでなく、下半身にまで、手を伸ばしたのだ…
正直、限界だった…
元々、短いアタシの導火線に火が付いた…
ブチっと、火が付いた…
アタシは、速攻で、反撃に転じた…
当たり前だった…
普通なら、アタシのカラダに障る手をむんずと捕まえて、
「…このひと、痴漢です!…」
と、大声を上げて、周囲に、知らせるのが、常道だが、アタシは、そんなことは、しない…
そんな面倒なことは、しない…
アタシは、痴漢の手を掴むと、その手の持ち主をいきなり、殴った…
手のひらで、殴った…
手のひらの裏で、殴った…
いわゆる、裏拳というヤツだ…
アタシの拳で、力一杯、殴った…
途端に、相手のメガネが、ふっ飛んだ…
ふっ飛んで、車内に、落ちた…
周囲の乗客は、一瞬、なにが、起こったか、わからない様子だった…
が、
アタシは、そんな相手には、容赦はしない…
次は、思いっきり、拳骨で、殴った…
正面から、思いっきり、拳骨で殴った…
一発、
二発、
三発と、正面から、拳骨で、殴り続けた…
周りの乗客は、一瞬、なにが、起こったのか、明らかに、わからない様子だった…
だけど、アタシは、容赦はしない…
タダで、アタシのカラダを触るものには、容赦はしない…
だったら、お金を出せば、容赦するのかと、言えば、これも、また難しい…
要するに、金額による…
いくら出すかに、よる…
いくら、もらえるかに、よる…
世の中、金だからだ…
キレイごとではなく、金だからだ…
アタシは、そんなことを、考えながら、痴漢を殴った…
殴り続けた…
これが、ドラマか、なにかだったら、
「…お嬢ちゃん、このへんで…いい加減、勘弁してやんなよ…」
とか、言いながら、イケメンの男とか、出て来るのが、定番だ…
が、
そんな男は、出てこなかった…
一切、出てこなかった…
真逆に、周囲のひとたちは、皆、無言だった…
アタシが、血相を変えて、その痴漢を思いっきり、ぶん殴り続ける姿を、見て、引いていた…
明らかに、ドン引きだった…
アタシは、一回、頭に血が上ると、自分を抑えることが、できない…
カッーとなると、自分を抑えることができない…
自分で、自分を止めることが、できない…
結局、アタシは、電車が、次の駅に止まるまで、その痴漢を殴った…
殴り続けた…
そして、次の駅で、大勢、電車に乗った乗客が、降りると、アタシから、逃げ出そうとした、その痴漢を、足で、思いっきり、蹴って、転倒させた…
「…待ちな!…」
と言って、転倒させて、その男の背中に、馬乗りになって、その男を殴り続けた…
おそらくは、乗客の通報で、駅員が、やって来るまで、殴り続けた…
もはや、男の顔は、血まみれ…
鼻血で、血まみれだった…
アタシは、そんな男の背中に、馬乗りになり、その男を殴り続けた…
もはや、シュールな光景…
世紀末を思わせる、異常な光景だった…
アタシと、その痴漢は、駅員室に、連れていかれた…
その痴漢は、オジサンだった…
おとなしそうなオジサンだった…
どこにでもいる、オジサンだった…
ひとは、見かけによらない…
一言で、言えば、そんな言葉が、よく当てはまるオジサンだった…
「…職業は?…名前は、なんと?…」
と、駅員が尋ねるが、オジサンは、答えない…
すでに、衣服は、汚れ、ところどころ、血がついている…
アタシが、殴り続けたからだ…
とてもではないが、この格好で、会社になんか、出勤できないだろう…
周囲のひとから、
「…なにが、あったんですか?…」
と、聞かれるのが、オチだからだ…
だから、会社に出勤できない…
アタシが、そんなことを、考え続けている間にも、駅員の質問は、続いた…
が、
この痴漢のオジサンは、黙秘…
一貫して、黙秘だ…
なにも、話さない…
駅員は、さすがに、匙を投げた…
「…まあ、ここで、なにも話さなくても、後で、警官が聞くから…」
と、言って、匙を投げた…
それから、アタシに質問が、向かった…
「…お嬢さんが、この痴漢を捕まえたんだね…」
と、言った…
「…そうです…」
と、アタシは、答えた…
鼻高々で、答えた…
が、
返ってきたのは、予想外の言葉だった…
「…お嬢さん、いくら、なんでも、やりすぎだよ…過剰防衛だよ…」
と、いう言葉だった…
アタシは、それを、聞いて、ハッとした…
この駅員も、男…
このオジサンの肩を持っていると、思ったのだ…
だから、頭に来た…
思いっきり、頭に来た…
と、そのときだった…
すぐに、警官がやって来た…
制服を着た警官がやって来た…
これは、考えてみれば、当たり前…
当たり前だった…
駅の近くには、どこの駅も、大抵は、交番がある…
派出所がある…
そこから、やって来たのだろう…
だから、早くやって来た…
すぐに、やって来た…
警官は、アタシを見て、そして、オジサンを見た…
それから、
「…これは、また…」
と、言って、驚いた…
それから、オジサンに、
「…相手が、悪かったというしか…」
と、声をかけた…
オジサンに同情するように、声をかけた…
この警官も、男…
オジサンだ…
その光景を見て、アタシは、頭にきた…
むかっ腹がたった…
そして、その警官が、そのオジサンを見て、一言、声を上げた…
「…もしかして、先生じゃ…沢村高校の村井先生じゃ…」
と、言ったのだ…
アタシが、これから、通学する高校の名前を挙げたのだ…
アタシは、驚愕した…
目ん玉が飛び出るほど、驚いた…
<続く>




