暴走列車 清水ユリ 第2部 14
「えーっ、お金!…」
と、素っ頓狂な声を出した…
今、この食堂にいる全員が、思わず、振り返るほど、大きな声を出した…
それを、見た、村井が、アタシを叱ることなく、
「…驚くのは、無理も、ありません…」
と、告げた…
アタシは、
「…お金って?…」
と、言った…
意味が、分からなかったからだ…
村井は、
「…清水さんも、そうですが、一般クラスの生徒は皆、寄付金を出して、この学校に来ています…その寄付金は、正直、滅茶苦茶、高いです…」
と、言った…
たしかに、高い…
さっき、聞いたが、うちも、百万は、寄付したそうだ…
百万が、最低限の寄付金…
最低限というのは、もっと、高額な寄付をする人間も、いるということだ…
つまり、一般クラスに通う生徒の親は、その百万を出すことが、できる…
そんな、お金持ちだと、いうことだ…
アタシが、考えていると、
「…つまり、お金持ちです…」
村井が、アタシが、今、思ったことと、同じことを言った…
「…一般クラスの生徒の親たちは皆、その寄付金を出せる財力がある、お金持ちだと、言うことです…」
「…でも、それと、選抜クラスのひとたちのコンプレックスと、なんの関係が…」
「…選抜クラスの生徒は、皆、大きな声では、言えませんが、裕福な家庭の生徒は、あまりいません…」
「…どうしてですか?…」
「…それは、裕福な家庭に生まれたのなら、この学校の選抜クラスには、来なかったと、いうことです…」
「…来なかった? どうして、来なかったんですか?…」
「…この学校に入れば、入学金は、タダどころか、寮も、タダ…食費も、衣服もタダ…一切、お金がかからない…おまけに、小遣いまで、くれる…生徒にとっては、至り尽くせりですが、頭が、良ければ、もっと、別のいい高校に入りますよ…」
「…もっと、いい高校…」
「…お金がないから、この高校に入る…有名高に入れない…それが、コンプレックス…選抜クラスにいる生徒のコンプレックスです…」
村井が、断言した…
これまで、アタシが、考えたことのないことを、言った…
が、
たしかに、言われてみれば、わかる…
実に、よくわかる…
例えば、アタシが、選抜クラスの人間と同じ境遇ならば、もっと、有名な高校に行くだろう…
もっと、頭の良い、有名な高校に行くだろう…
それが、選抜クラスのひとたちができないのは、ハッキリ言えば、お金がないから…
家にお金がないからだ…
だから、お金をくれる、この高校に入る…
そして、この高校が、選別クラスの生徒に、お金をあげられるのは、一般クラスの生徒の親たちから、お金を取っているから…
莫大な寄付金を取っているから、それが、できる…
そして、その莫大な寄付金を収めることが、できるということは、親が、お金がある証拠でもある…
だから、それを、考えれば、選抜クラスの連中が。一般クラスの連中にコンプレックスを抱くのは、わかる…
実に、よく、わかるのだ…
アタシは、思った…
思ったのだ…
そして、それが、アタシの顔に出たのだろう…
「…清水さんも、わかったようですね…」
と、村井が、言った…
我が意を得たりと、ばかりに言った…
アタシは、すぐに、
「…わかりました…」
と、答えた…
それを見て、
「…では、食べましょう…」
と、村井が、言った…
アタシは、村井が、言うまでもなく、すでに、食べ始めていた…
むしゃむしゃと、食べ始めていた…
そして、食べながら、考えた…
…なんだか、すごいところに来たな…
それが、実感だった…
偽りのない、実感だった…
世の中、トラブルのないところなど、ない…
どこにも、ない…
なにかしら、問題を抱えているものだ…
どんな学校にしろ、家庭にしろ、問題を抱えているものだ…
会社にしても、同じだろう…
問題を抱えていない、会社など、どこにもないからだ…
ただ、今、この村井に聞いたこと…
この学校の格差…
選抜クラスと一般クラスの格差…
それが、最初は、ただ、頭のいい連中と、頭の悪い連中の格差だと、思っていた…
が、
違った…
頭のいい、連中は、貧乏…
頭の悪い、連中は、金持ち…
その格差がある…
これでは、なにか、問題が、起こるのでは、ないか?
そう、思った…
なぜ、そう、思ったのか?
それは、当初、考えたように、単純に、
頭のいい連中と、頭の悪い連中だけなら、いい…
それなら、いい…
それなら、納得できるからだ…
だが、そこに、お金が、加わった…
金銭が、加わった…
これは、マズい…
マズい展開なのではないか?
そう、思ったのだ…
そんな格差があると、思わぬ火種を呼びかねない…
そう、思ったのだ…
そして、そう、思いながらも、いや、違うかも、しれないとも、思った…
なぜ、違うかも、しれないと、思ったのか?
それは、格差は、どんな人間にも、あるからだ…
例えば、ルックス…
アタシは、自分で言うのも、なんだが、ルックスは、いい…
頭は、悪いが、ルックスはいい…
でも、頭が、よい人間でも、アタシのルックスを妬む人間もいるだろう…
ぶっちゃけ、頭は、そんなに、よくなくて、良かったから、もっと、美人に生まれたかった…
そんな女は、多い…
世の中、ごまんといるだろう…
そう、思ったのだ…
が、
そう、考えてから、やはり、違うかも、しれないとも、思った…
なぜ、違うかも、しれないと、思ったのか?
それは、格差がお金だからだ…
美人や、イケメンでは、ないからだ…
ルックスではないからだ…
頭の良し悪しでも、ないからだ…
ある意味、これは、痛い…
実に、痛い…
…お金があるなしは、痛い…
以前、ユカリが言ったことがある…
母のユカリが言ったことがある…
ユカリの子供の頃の同級生が、家が、貧しくて、それを、誰かから、指摘されれば、堪ったものじゃなかったと、言っていたと、聞いたことがある…
その同級生は、頭もよく、ルックスも、悪くなかったそうだ…
ユカリほどの美人ではなかったが、普通より、上…
はるかに、上だったそうだ…
にもかかわらず、当時は、
…とにかく、家のことを、言われるのが、嫌だったそうだ…
…家の金銭事情を知られるのが、嫌だったそうだ…
当然、ユカリも、その同級生が、そんなことを、考えていたなんて,露ほども、思わなかったそうだ…
ただ、アイツは、頭も良くて、ルックスも良くて…
と、そんなふうに、その同級生を見ていたそうだ…
それが、大人になって、偶然、再会して、近くの店で、お茶を飲んだ…
そのときに、聞いたそうだ…
男なら、そんなことをする男は、滅多にいないが、女は、違う…
腰が軽いというか…
フットワークがあるというか…
学生時代、そんなに仲が良くなかったひととも、気軽にお茶をする女も、それなりに、いるものだ…
そのときに、聞いたそうだ…
それまで、考えたことのない、その同級生が、当時、なにを考えていたのか、聞いたそうだ…
それを、聞いたユカリは、驚いたそうだ…
ただ、ただ、驚いたそうだ…
その同級生は、すでに、言ったように、ルックスも良く、頭も良かった…
だから、目立った…
おおげさでなく、彼女に憧れる男も、多かったそうだ…
それが、当時、そんなことを、考えていたとは?
内心、驚愕したそうだ…
ちなみに、母のユカリの方が、その同級生より、ルックスは、良かったが、人気は、なかったそうだ…
ユカリは、性格はガサツで、おまけに、ヤンキーだった…
頭も悪い…
だから、マジメな男は、敬遠する…
いくら、顔が良くても、敬遠するからだ…
だから、人気はなかった…
人気があったのは、同じく、ヤンキーの男たちから…
でも、ユカリは、そんなヤンキーの男たちに、なんの興味もなかったそうだ…
なぜかは、わからない…
母娘でも、わからない…
おそらく姉妹でも、わからない…
誰もが、どんな異性に惹かれるのかは、当人でなければ、わからないものだからだ…
と、話が、少々、脱線した…
つまりは、ここで、言いたいのは、家が、貧乏ということが、当人にとっては、いかに、恥ずかしいことかと、いうことだ…
しかも、若い…
若いときは、歳をとってから、以上に、恥ずかしいと、ユカリが、言っていた…
それは、誰もが、歳を取れば、図々しくなるものだからだ…
男も女も、図々しくなるものだからだ…
だから、その同級生も、言えた…
ユカリに会えて、言えたそうだ…
歳を取ったから、言えたそうだ…
ちなみに、その同級生…
頭も良かったから、いい会社に就職して、今は、それなりの給与をもらっているらしい…
そして、それが、嬉しいと言った…
どんなことより、嬉しいと、言っていたそうだ…
就職して、お金がもらったときが、なにより、嬉しかったそうだ…
自分の力で、お金を稼いだことが、なにより、嬉しかったそうだ…
それを、聞いたユカリは、つくづく、驚いたそうだ…
頭も良ければ、ルックスもいい…
学生時代、男にモテモテだった、その同級生が、まさか、そんな悩みを抱えていたなんて、露ほども、思わなかったそうだ…
だから、人間は、わからない…
つくづく、見た目では、わからないと、アタシに言った…
母のユカリが、アタシに言った…
それを、今、思い出した…
この村井の話を聞いて、思い出した…
だから、もしかしたら、この選抜クラスに、
いる連中…
ホントは、恥ずかしいのかも、しれない…
選抜クラスにいることが、恥ずかしいのかも、しれない…
選抜クラス=貧乏
だからだ…
だから、恥ずかしいのかも、しれない…
とんでもなく、恥ずかしいのかも、しれない…
アタシは、思った…
思ったのだ…
<続く>




