暴走列車 清水ユリ 第2部 12
「…ハイ、午前中の授業は、これまで…昼休みの休憩にします…」
教壇の村井が、言った…
それから、アタシに向かって、
「…清水さん、今日の昼食は、どうします?…」
と、聞いてきた…
アタシは、それを、聞いて、
「…考えて、いませんでした…」
と、即答した…
それを、受けて、村井が、
「…どうして、考えていなかったんですか?…」
と、アタシに聞いた…
アタシは、
「…いえ、この学校の昼食が、給食なのか? それとも、食堂があるのか? それとも、弁当を持参すれば、いいのか? 色々、考えても、わからなくて…」
と、答えた…
「…なるほど…」
と、村井が、答えた…
それから、少し考え込んで、
「…だったら、今日だけ、ですが、清水さんは、食堂で、昼食をとって、下さい…」
と、村井が、言った…
その途端、教室の雰囲気が、変わった…
明らかに、変わった…
それは、アタシにも、わかった…
生徒のひとりが、
「…センセイ、それで、いいんですか?…」
と、聞いた…
驚いて、聞いた…
村井は、
「…仕方が、ないでしょ? 弁当も、なにも、用意してこなかったんだから…」
と、答えた…
「…でも、食堂は、選抜クラス優先じゃ…」
と、その生徒が、続ける…
「…ですが、一般クラスでも、利用できないわけじゃないでしょ?…」
と、村井。
「…でも、料金が…」
と、その生徒。
「…たしかに、高いけれども、清水さんは、転校初日です…ボクが、校長にかけあって、今日の清水さんの昼食代は、学校負担とします…」
と、宣言した。
その途端、教室のあちこちから、
「…おーっ…」
と、いう声が、聞こえてきた…
アタシは、驚いた…
一体、なにが、起こっているのか、わからなかった…
ただ、驚いた…
アタシが、ただ、食堂で、昼食を取ることで、なんで、みんなが、驚くのか、さっぱり、わからなかったからだ…
動揺した、アタシは、またも、隣の男に、
「…どういうこと?…」
と、聞いた…
聞かざるを得なかった…
隣の男子は、
「…一般クラスは、原則、食堂を使っちゃ、いけないんだ…」
と、説明した…
「…どうして、一般クラスは、食堂を使っちゃ、いけないの?…」
と、アタシ。
「…食堂は、選抜クラスが、優先で、作っているから、規模も、大きくない…だから、あくまで、選抜クラスだけが、食堂を使えるんであって、一般クラスは、基本、使えない…仮に、使っても、滅茶苦茶、高い…」
「…滅茶苦茶、高い? どうして、高いの?…」
「…食堂を使えるのは、あくまで、選抜クラスだけ…それ以外の連中が、使っちゃ、困るから、わざと、一般クラスの連中が、使うときは、高く、料金を設定している…インバウンドの外人の料金設定みたいなもんだよ…」
と、隣の男子が、丁寧に説明してくれた…
アタシは、それを、聞いて、
「…ありがとう…」
と、礼を言った…
そして、アタシとその男子のやりとりは、当然ながら、教室中に、聞こえた…
もちろん、教壇の村井にも、だ…
間違いなく、聞こえた…
「…清水さん、亀梨の言う通りです…」
と、教壇の村井が、答えた…
「…この学校は、何事も、選抜クラスが、優先です…食堂も、例外では、ありません…だから、もし、清水さんが、それに、不満なら、清水さんが、選抜クラスに移れる成績を上げることです…」
村井が、説明した…
アタシは、その説明に、
…無理!…
…絶対、無理!…
と、思ったが、口にしなかった…
それよりも、驚いたことが、あった…
この話を聞いても、このクラスの誰ひとりとして、誰も、文句を言わなかったことだ…
普通なら、
…差別されてる!…
と、言う声が出ても、いいはずだ…
だが、そんな声は、一切、出ない…
その方が、驚きだった…
そして、それよりも、アタシが、気になったのは、普段、この一般クラスの昼食事情が、どうなっているか、だ…
食堂はあるが、アタシたち一般クラスの連中が、普段は、使えないのは、わかった…
だが、それなら、皆は、どうしているのか?
家から、弁当を持ってくるのか?
それが、気になった…
と、いうのは、アタシの家の母のユカリは、料理が苦手…
弟のハルオは、小学生だから、給食がある…
だから、弁当は、いらない…
アタシは、以前の学校でも、弁当は、持参せず、通学途中に、コンビニで、弁当や、パンを買って、食べていた…
ユカリが、料理が、苦手だからだ…
だから、ユカリに、弁当を作ってもらわぬように、アタシなりに、考えたのだ…
ユカリに作ってもらって、変な弁当を食べるより、ずっとマシだからだ…
だから、この村井に、
「…あの普段は、みんな、どうしているんですか? 一般クラスは、皆、弁当持参ですか?…」
と、聞いた…
村井は、
「…そんなことは、ありません…」
と、答えた。
「…弁当を持参してもいいし、この学校の中にある、コンビニを利用してもらっても、構いません…」
「…えーっ…この学校に、コンビニがあるんですか?…」
アタシは、驚いて、聞いた…
さすがに、学校内に、コンビニがあるとは、思わなかった…
テレビやネットで、見たことはあるが、まさか、この学校にも、コンビニがあるとは、思わなかった…
アタシは、それを、聞いて、即座に、
「…そのコンビニも、選抜クラス優先ですか?…」
と、聞いた…
当たり前だった…
今まで、聞いていると、この学校は、すべて、選抜クラス優先だからだ…
だから、聞いた…
聞きたくなった…
「…それは、ありません…」
と、村井が、即答した…
「…どうして、ないんですか?…」
アタシは、聞いた…
なぜ、コンビニだけ、差別がないのか?
それが、不思議だったからだ…
その疑問に、村井が、答えた…
「…簡単ですよ…」
と、村井が、答えた…
「…なにが、簡単なんですか?…」
と、アタシ。
「…だって、選抜クラスだけじゃ、売り上げが、低すぎて、経営が、成り立たないでしょ…」
と、村井が、言った…
納得のできることを、言った…
「…だったら、アタシも、今日のお昼は、コンビニで、いいです…食堂に行かなくても、いいです…」
アタシは、即答した…
が、
村井は、あろうことか、アタシの提案を断った…
「…ダメです…」
と、断った…
「…ダメ? どうして、ダメなんですか?…」
「…一度、一般クラスのひとにも、食堂を利用してもらいたいんです…」
「…利用? どうして?…」
「…選抜クラスは、普段、こんないいものを、食べているんだ…だったら、オレも、アタシも、選抜クラスの連中に負けないように、勉強を、頑張ろうと思ってもらいたいんです…」
村井が、説明した…
アタシを、食堂に招く意図を説明した…
アタシは、それを、聞いて、納得した…
実に、納得した…
この一般クラスでは、選抜クラスの連中が利用する食堂を利用できない…
ハッキリ言えば、転校祝い…
この村井の言うことは、建前で、ハッキリ言えば、アタシの転校祝いに、食堂に連れていってもらえると、思ったのだ…
だから、
「…ハイ、わかりました…」
と、アタシは、言った…
「…ぜひ、食堂を利用させて、もらいます…」
と、アタシは、答えた…
それを、受けて、村井は、
「…だったら、このまま、食堂に、行きましょう…」
と、アタシに提案した…
「…昼休みは、そんなに、長くはない…さっさと、しないと、昼食を、食べる時間がなくなりますよ…」
村井は、言った…
「…さあ、行きましょう…」
と、続けて、アタシに、食堂に行くように、促した…
アタシとしたら、断る理由はない…
即座に、
「…ハイ…わかりました…」
と、言って、席を立った…
それから、村井の後について、食堂に、向かった…
食堂までは、遠かった…
同じ建物でも、全然、別の階にあったからだ…
村井は、
「…失礼します…」
と、言ってから、食堂に入った…
アタシは、村井の後に続いて、食堂に入った…
村井は、食堂に入ると、すぐに、
「…今日は、一般クラスに入った転校生の清水さんを、連れてきました…弁当を、持参しなかったからです…そのための、緊急措置です…みなさんも、ぜひ、ご理解下さい…」
そう、言って、ペコリと、頭を下げた…
アタシは、驚いた…
なぜ、驚いたか?
それは、村井の態度が、完全に、お客様に対する態度だったからだ…
まるで、店で、店員が、お客様に接する態度と、同じだったからだ…
アタシは、それを、見て、
…やっぱり、選抜クラスは、凄い!…
と、思った…
すぐに、思った…
思いながらも、
「…アタシ、今日、一般クラスに転校してきた清水ユリと言います…今日だけ、ここで、お昼を食べさせてもらいますので、よろしくお願いします…」
と、慌てて、頭を下げた…
が、
反応はない…
皆、黙々と、食事をしていた…
ハッキリ言って、誰一人、アタシに興味がない様子だった…
半ば、予想はしていたが、これは、痛かった…
アタシには、痛かった…
なぜ、痛かったのか?
それは、アタシが、美人にも、かかわらず、周囲から、なんの反応も、なかったからだ…
普通は、
「…おおーっ…」
とか、
「…キレイ!…」
とか、言われるはずだ…
いや、
間違いなく、言われる!
それが、なんの反応もないのは、どういうことだ?
アタシのプライドが、傷付いた…
美人のアタシのプライドが、傷付いた…
<続く>




