第86話 ボードゲーム!
「こんな遊戯盤で本当に強くなれるのか?」
心葉家の屋敷の応接間。
机の上に広がる盤面を見下ろし、六郎は首をひねっていた。
盤に刻まれた方陣から、妖祓師を模した人型が3Dホログラムのように浮かび上がっている。
まるで戦場のミニチュアだ。
この世界では現代のようなコンピューターゲームは見当たらないけど、妖術を組み込まれたボードゲームはそれに勝るとも劣らない臨場感がある。
「一応これでも戦略的思考訓練のために作られた道具らしいから。遊んでれば俯瞰的な視点が身につく……かもよ」
紋様の刻まれた札を盤面に置くと、遊戯盤の方陣が反応を起こし、ホログラムの映像が動き出した。
私の陣営の駒が大規模な術を唱え、盤上を炎が埋め尽くす。
炎が消えると、六郎の操る駒は一つも残っていなかった。
「ああ!? なんで全員一撃で!?」
「そりゃ、そうなるように調整して削ってたから」
六郎は遊戯盤が突きつける「敗北」の二文字を睨みつけながら、無言で歯噛みした。
「妖術も体術もイマイチな私じゃ、これくらいしか手伝えないけど、私に勝てるようになれば、まあ、多少は強くなれるんじゃないの」
「……こんな遊戯盤で?」
「これ、あながちバカにできないわよ?」
この遊戯盤、プレイ感覚が『くくり姫』とけっこう似ている。
対戦相手がコンピューターから人間に代わったみたいでなかなか楽しい。
……うん、もう一戦したいかも。
「ね、六郎、もっかい――」
スパンと勢いよく戸が開く音に、反射的に振り向いた。
赤紫色の髪、くりりとした瞳、そこにいるだけで全員の視線を釘づけにしてしまう美少女。
姫子が立っていた。
「姫子、どしたの?」
「瑠璃ちゃんのことだから、お菓子が欲しいかなと思ったんだけど」
「うん、欲しい」
その左手に乗ったお盆から、芳ばしい香りがただよってくる。
お菓子の正体を当てようと匂いをかぐ私の向かいで、六郎があっさりと言い当てた。
「へえ、餡堂名津か。美味しそうだね」
「あー、ドーナツか」
って、お月ちゃんそんなものまで作れるのか……そこに関しては、この家に生まれてきて良かったことかも。
などと料理番の存在に感謝していると、姫子はお盆を机に置いて、私の隣に腰かけた。
少し身を乗り出すようにして遊戯盤を見つめている。
「瑠璃ちゃん、これって?」
興味津々に問いかける姫子に、簡単な説明をした。
「へぇ、おもしろそう」
「じゃあ僕が一回替わろうか? 何回も連戦するのはさすがに疲れるし」
「いいの? ありがと」
ん?
姫子は六郎の提案に迷うことなくうなずくと、そそくさと向かいの席へと回っていった。
あれ?
私は六郎と遊ぶはずだったんだけど。
「……六郎」
そんな私の非難がましい視線に、六郎も気づいたみたい。
「ごめん、さすがに連戦は疲れるっていうか……どうして負けるかよくわかんないから、一回観戦に回って解説を聞きたいっていうか」
「なるほどね」
たしかにそれもありか。
なにより敗因がわかっていないのはよくない。
六郎への戦術指南が目的なんだし、ここは理解してもらうためにも替わってもらおう。
「よし、それじゃあ姫子、勝負よ!」




