第85話 向き不向き!
私たちは無事に街へと戻ってこれた。
私たちが不在の間、妖怪の襲撃があったということもなく、結果論だけ言ってしまえば、街にいた方が安全だったことになる。
ただ、その場合、小戸羽村はゲーム通り滅んでいただろうけど。
人間の生息圏の外には妖怪がいて、彼らはいつ牙を剥くとも知れない。それを思い知った。
だけど、いちいちそんなことを考えて暮らしていたら肩がこってしまう。
稽古漬けの毎日に戻った私の頭を占めるのは、今日の献立はなんだろうとか、稽古めんどくさいとか、龍討伐に向かった桔梗は無事かなとか、そんなことばかり。
気づけば、小戸羽村での戦いはゆっくり過去へと遠ざかっていた。
そんなある日のことだ。
「心葉さん、少し相談があるんだけど、いいかな」
共同稽古の帰りに六郎に呼び止められた。
「もちろん!」
脊髄反射でイエス。
「率直に聞きたいんだけど、心葉さんは僕が妖祓師に向いてると思う?」
六郎は真っ直ぐ私を見据えていた。
横一文字に結ばれた口からは、覚悟のほどがうかがえた。
「正直、言いにくいけど…………あんまり向いてないと思うかな」
「……そうか。そうだよね」
六郎の口角が緩んだ。
その自嘲の笑みを見ていると、今にでも諦めの声が聞こえてきそうだ。
私は慌てて言葉をつけたした。
「その、あくまで霊力が少ないから向いてないかなって思うだけで……ほら、術の使いどころとか、そういうのは全然悪くないよ。それに向き不向きなんて気にしすぎも――」
「いや、ごまかさなくていいよ。はっきり言ってもらえた方が助かるから」
六郎は「助かる」なんて言葉とは裏腹に悲しげな顔を浮かべていた。
「……なにがあったの?」
「鬼の襲撃の時、僕をかばったせいで死んだ人がいるんだ」
飲み込んだ毒を吐き出すような告白は続く。
「僕の術式が、氷像を呼び出して、操って、相手の攻撃を集めるものだってことは心葉さんも知ってるよね」
「うん」
「でも、鬼の攻撃が思いのほか激しかったんだ。何度も氷像を壊され、そのたびに呼び出しての繰り返し。そんなことをしていたら、霊力はすぐに尽きた」
何かを呼び出し使役する術は、霊力の消費が比較的大きい。
霊力の少ない六郎がそれを連打したらどうなるかは目に見えている。
「そこから先は、ただのお荷物、いや、むしろ足枷かな。何もできない僕をかばったせいで、帰ってこれなくなった人もいたんだから。……ね、向いてないだろ?」
六郎はひとしきり話すと、小さく息を吐いた。
「それで実は心葉さんにお願いがあるんだけどさ」
「なに? 私にできることなら力を貸すわ」
「少しでも妖祓師としてマシになるには、どうすればいいと思う?」




