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第78話 ジリ貧!

「……わかった。死なないでよ」


 私は凛之助にリジェネを施し、蓮太郎に大人しくしているよう言い聞かせると、護衛の男と弍鬼の戦いへと足を向けた。


「術式復水(おちみず)! 【清々流転】」


 そのまま、護衛の男へと回復をかけた。みるみる傷が塞がっていく。


「……助かりやした」

「どう? 勝てそう?」

「いやぁ、最初はいけると思ってたんですがね」


 先程の傷を見る限り、状況は芳しくない。


 闖入者たる私を見て弍鬼は血塗れの顔に笑みを浮かべた。


「ほほぅ、二体一か。ちょうど愉しくなってきたところじゃ。儂は構わぬが……おぬしはお友達をひとりぼっちで戦わせてよいのか?」

「余計なお世話よ。あんたを倒せばまるっと終わりでしょ」


 私の言葉が終わると同時に、護衛の男が大地を蹴る。

 ひるがえる小刀、ひらめく爪牙。

 その攻防は私の目ではとても追いきれないけど、それでも弍鬼の攻勢の凄まじさはわかった。


 たいていのゲームの敵の行動は、モンスターの種類によって似たところがある。

 『くくり姫』で鬼に属するボスは、体力が減るほど強力な攻撃を放ってくる。

 ゲームで弍鬼を見かけた記憶はないけど、彼女もその法則から外れていなさそうだ。


 つまり、傷つけば傷つくほど、強くなる。


 度重なる自傷と負傷の積み重ねによって、弍鬼の脅威は戦闘開始時とは比べものにならなくなっていた。


「おもしろい! おもしろいのう! ここまでついて来る奴は久しぶりじゃ! ほら、もっと儂を追い詰めてみせよ!」


 弍鬼の怒涛の打撃が、ついに護衛の男を打ち据えたように見えた。

 その時だった。


「お望みとあらばッ!」


 護衛の男の姿がかき消えて、次の瞬間、男は弍鬼の背後に立っていた。


 相手の攻撃をかわし、カウンターをたたき込む体術【空蝉】。


 『くくり姫』でも猛威を振るったその技が、ツノの欠けた鬼の首筋へと斬撃を導いた。


 回避は間に合わない。

 護衛の握る小刀は、真っ直ぐ吸い込まれた。

 衝撃音。

 直後、暴風にでも煽られたかのように、弍鬼の体が吹き飛び、木にぶつかって動きを止めた。


 どう見ても、明らかな重傷。

 それでも、深紅の鬼はゆらりと立ち上がった。

 左腕がちぎれているけど、それを気にした風もなく笑う。


「ッ! これじゃこれじゃ! 愉しくなってきたッ!」

「……チッ、これで死なねえとかバケモノじみてやがる」


 その隙に私は護衛の男に回復と強化をかけた。


「お嬢さま、感謝しやす。……しかし、これどうしやしょうかね。さすがにあっしもこれ以上【空蝉】はできやせんし」

「ここまで削った以上、やられる前にやるしかないわ。できるだけ倒すことを意識して」


 鬼系のボスに対するセオリーは、極力体力を削らないように防戦に徹しながら準備を進める。そして、機を見て強力な攻撃を叩き込んで、一瞬で終わらせるというものだ。


 ただ、ここまで削った以上、防戦では持ちこたえられないし、護衛の男はそもそも手数を重視した戦い方なので、強力な一撃で終わらせるのには向いていない。


「術式復水【水邪】」


 私の術式が弍鬼を包み、状態異常として毒を与える。


 先ほどから回復の合間を縫っていくつも状態異常を与えはしているけれど、私の使える状態異常はどれも凛之助のとは違って、敵の行動を阻害する効果はない。

 継続的にダメージを与えたり、防御力を下げたり、そういうものばかりだ。


「お嬢さま。あっしらの攻撃、ちゃんと効いていやすかね?」

「もちろん」


 あれだけの傷を負っているのだ。効いていないはずがない。

 なにより、鬼系のボスは傷を負うほどに強くなる性質上、ここまで強くなったということは、それだけ敵が追い詰められている証拠だ。


 弍鬼は私たちを見て、真っ赤な口角をつりあげた。


「腕を切られ、全身はズタズタ、じゃがこれでこそ戦っている実感があるというものじゃ……そろそろ、儂も本領発揮といこうかのう」

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