第77話 妖祓師になるには!
血の人形が腕を振るう度に、凛之助の体から鮮血がほとばしる。
それと同時に私の回復が凛之助を包み、凛之助の妨害が血の人形の動きを止める。
結果、血の人形の攻撃頻度が減り、回復量が被ダメージを上回るため、死ななければ負けることはない。
でも、そんなのはプレイヤーとキャラクターが分断されているゲームの話だ。
何度も何度も攻撃され続けて、はたしていつまでミスなく振る舞えるというのか。
「凛之助、だいじょうぶ? 代わるわよ」
結局、必要なのは身をていして攻撃を受け続ける肉の壁だ。
その役割に徹するのが、凛之助でなければいけない必要はどこにもない。
……いや、単純に、凛之助がズタズタになっていくのを見ていられない。
「いや、いい。まだッ、いける」
そう言って、口から血でも混じっていそうな唾を吐き捨てた。
「でも」
「だいじょうぶ! 俺がやる!」
血の人形が鋭利な爪を振る。
凛之助の頭部を狙ったそれは、腕にさえぎられて止まった。
「ぐぁっ!」
ひしゃげてあり得ない方向へと曲がる腕に、私は慌てて術を唱えた。
ビデオを逆再生したかのように、折れていた腕が戻っていく。
何度も見た光景。
私が凛之助と交代したとして、上手くやれるかというと、間違いなく無理だ。正直やりたくない。
でも、だからといって任せきりにするわけにも。
「り、リン兄!」
「へ、へいき平気」
「……凛之助、代わろうか?」
「いや、いい。もうすぐ倒せそうだしな」
凛之助は迷わず首を振って、血の人形と向き合った。
血の人形は攻撃を受けると、飛沫が飛び散り、その度に人形を構成する血液が減っているように見える。
このまま行けば倒せそうだ。
「術式逆雷! 【閃羽突き】」
無数の雷の槍が、血の人形を貫く。
血の人形は一際大きな血飛沫をあげると、そのまま霧散した。
「っし! やったぜ!」
私たちはすぐさま、弍鬼と護衛の男の戦闘に目を向けた。
「ほぅ、お主ら思いの外やるのう」
弍鬼と護衛の男はどちらも傷だらけなのに、一目見て護衛の男が劣勢だとわかった。
肩で息をする護衛に対して、鬼は全身傷だらけだというのに、息が乱れる様子が全くない。
少なくない傷を全く意に介さない姿は、あまりに異質だった。
「ほれ、おかわりじゃ」
顔色一つ変えずに自らの腕を切る。
流れる血は再び鬼の姿をとった。
「おい、マジかよ。せっかく倒したってのに」
本体を倒さない限り何度でも呼び出されるのだとしたら、かなりマズい。
もし、護衛の男が負けたら、均衡が崩れる。
救いがあるとすれば、さっき倒されたにも関わらず、また同じものをたった一体でぶつけてきたことだ。
一度に複数は呼び出せないのか。それをしたくない理由があるのか。
いずれにせよ、弍鬼が新たな手段を講じる前になんとかしないといけない。
でも、私がここを離れるわけには――
「瑠璃、こっちは俺一人でなんとかする。お前はあっちに行ってこい」
「は? 何を言って」
「あの人、けっこうヤバいだろ」
たしかに凛之助の言う通りではある。
でも、だからといってここから離れるということは、もしもの場合、凛之助を助けられなくなる。
「あんた、わかってんの。ただでさえ、一歩間違えたら……死ぬかもしれないのに」
「平気だって。ようは攻撃させなきゃいいんだろ」
「でも」
「なによりさ。ここで逃げたり、負ける程度じゃ、妖祓師にはなれねえと思うんだ」
血の人形へと妨害の術式を唱え、凛之助は言葉を続ける。
「試験の時も、龍に遭った時も、俺は何もできてねえ。全部、お前の後ろにいただけだ。……でも、それじゃ、ダメなんだよ」
「…………」
「俺は絶対、妖祓師になる」




