第74話 警報!
「どうしよう! もう、日が沈むのに!」
「少し落ち着きなさい。部屋にいなかっただけってことは」
ほら、トイレとかさ。
「いなかったに決まってんだろ! 父ちゃんと母ちゃんも今――」
「蓮太郎がいないぃ!」
凛之助の父が悲鳴をあげながら部屋に入ってくると、私たちの姿を見て、すがるように声を出した。
「うちの息子、蓮太郎をどこかで見てないか!? 夜になるってのに、家にいないんだ!」
「いえ、私たちもちょうど今それを知ったばかりで」
「うおおぉぉぉ、蓮太郎! いったい、どこにいるんだ!」
あぁ、もう、親子そろってうるさいなあ。
叫んでどうにかなるものでもないでしょうに。
どこにいるも何も、家の中にいないなら外でしょ。
それに一応、心当たりはなくもない。
蓮太郎とは二度も同じ場所で出会っているのだから、二度あることは三度あるって言うし、今回もそこにいるかもしれない。
なんにせよ、外に探しに行くとなれば、提灯が要る。
私はあたふたする東藤親子を放っておいて、玄関へと向かった。
「あ、提灯の数がひとつ足りないわよ」
夜になっていないうちから提灯を持ち出しているということは、想定外の事態が起きて帰れずにいるというより、初めから帰りが遅くなるとわかっていたように思える。
まあ、なんにせよ。待っているよりも、自分の足で確認する方が早い。
「とりあえず、探してく――」
けたたましい鐘の音が鳴り響いた。
村中に響き渡りそうな爆音。
その場にいた全員、一斉に口を閉じた。
やがて、鐘の音が止んだあと、護衛の男がゆっくり口を開いた。
「……この音って、襲撃警戒の鐘じゃないですかい?」
「襲撃警戒って」
「そりゃあ、この時期でしたら鬼だと思いますぜ」
「……まあ、そうよね」
私だってそれはわかっている。
ただ、信じたくなかった。
あまりにもタイミングが最悪すぎる。
凛之助の父だけだなく、母も集まってきた。
「あなた、今の鐘の音って……」
「俺はとにかく蓮太郎を探す! お前は凛之助や友達と一緒に大人しくうちで待っていてくれ」
「父ちゃん、俺も行くからな!」
「いや、だがな――」
説き伏せようとした凛之助の父をさえぎったのは、凛之助ではなかった。
「待ってください、僕も手伝います」
「そうですわ。わたくしたちなら妖術も使えますし」
「もともと、私たち、妖怪退治の手伝いできたわけですから」
「これから、鬼ってのを相手にするんだろ。戦力は一人でも多い方がいいよ」
口々に協力を申し出るみんなに、凛之助の母が戸惑いながらも首を横に振った。
「……ダメよ、子供にそんな危険なことをさせるわけにはいかないわ」
「母ちゃん、いっとくけど、俺たちは妖術を使えるから、父ちゃんよりも強いぜ」
「でも」
これじゃあ、埒があかない。
襲撃を知らせる鐘が鳴ったのだ。
事は一刻を争う。
こんなところで押し問答をしている余裕はない。
「私、心当たりがあるから、行くわね。みんなも心当たりがあるんじゃないなら、自警団の人たちを助けに行ってあげて。そっちの方がヤバい。それと、たぶんホントに危険だから、怖いならここで待ってた方がいいわよ。それじゃ」
私は提灯をひとつ手に取ると、そのまま玄関から飛び出した。
「お嬢さま! どこに行くつもりでやすか!」
「心当たりがあるって言ったでしょ。蓮太郎を探しに行くのよ」
「危険でございやすよ!」
「見つからなかったら、すぐ諦めるわ」
まあ、その時はそのまま鬼と戦いにいくけどね。
妖祓連盟からの救援はまだ来ないから、今、自警団を突破されたらおしまいだ。
子供といえど私たちは妖術を使える貴重な戦力。本当に村を守りたいなら、こんなところにいるわけにはいかない。
「……すいやせんね、お嬢さま。あっしはお嬢さまの護衛なので、危険な場所に行くとわかっていて見過ごすわけにはいきやせん」
成人男性と女の子では動きに差がありすぎる。
護衛の男は瞬く間に私の前に回り込んでしまった。
強行突破は……できそうにないな。
「私の安全が第一っていうならね。あんたはむしろこのまま私についてくるべきよ」
「……どういうことですかい?」
「心当たりがある場所って、実は村外れなの。だから、家の中でブルブル震えてるよりもよっぽど、いざって時に逃げやすいわ。近くにあんたがいればなおさらね」
もちろん、村をぐるっと囲むほどに大勢の妖怪がいたら逃げ出す方が難しいだろうけど、そんなことは言わない。
「……なるほど」
「わかったわね? なら、いくわよ。時間はないんだから」
私はそう言って再び走り出した。




