第72話 鬼の居ぬ間に!
……久しぶりに風花雪月やったら面白すぎて昨日の更新遅れてしまいました
「倒さないで欲しい、か。……自警団の目的は妖怪退治だから、さすがにそれはなあ」
自警団の面々は案の定、渋面を作った。
「双狗はすぐに逃げ出すのよね? どこに逃げていくのか跡をつけて確かめたいの」
「なるほどな。だが、そもそも跡をつけるなんてできるのか?」
ラッキーなことにちょうどこの場には適任がいる。
私は無言で護衛の男を見つめた。
「……え、あっしですかい?」
「うん。あんたなら、たぶんできるでしょ」
「いや、でも、あっしはお嬢さまの護衛なんでやすが」
「もし、妖怪の巣や群れがあるなら、それを知らないままの方が危険でしょ」
「うーん、確かに。それもそうでございやすね」
ゲームのチュートリアルかってくらい簡単に説得されてくれる。
いやはや、感謝の念が尽きないね。
「よし、話もまとまったってことでいいわね!」
かなり強引に話をまとめたけど、当の妖怪、双狗が近くまで来ていることもあって、反対意見もなく終わった。
「凛之助、今回【電々鼓】はナシね」
「うっしゃ! てことは俺の【雷槌落とし】の出番が」
「んなわけないでしょ! このバカ! わざと逃すんだからもっと弱い術にしなさい!」
慌てて私が制止すると、凛之助はポリポリと頭を掻いた。
「いや、冗談だって冗談。わかってるよ」
「笑えない冗談なんて冗談とは言わないわよ!」
などと言っている間に妖怪が現れた。
「グルルるる!」
大型犬のような体格。赤と黒のツートンカラー。剥き出しの牙。
そして、何よりも特徴的なのは頭部が二つ存在していることだ。
双頭の怪犬【双狗】。
「とりあえず、尻尾巻いて逃げ出すように適当に痛めつけて」
いつでも回復を飛ばせるよう用意しながらつぶやいた。
その双頭ゆえに、双狗の攻撃はいずれも二回攻撃となる。
我先にと飛び出して噛みつかれた自警団の一人に、妖術を唱えて体力を回復させる。
その間に他の面々は思い思いに攻撃を仕掛けていく。
双狗はすぐさまその場から逃げ出した。
「じゃあ、追ってきやす」
護衛の男はそうつぶやいて、姿を消した。
◆
その場からなるべく離れないようにして、護衛の男が戻ってくるのを待つことしばらく。
「お嬢さま、ただいま戻りやした」
護衛の男が音もなく戻ってきた。
何でもないような顔をしているけど、額には汗が浮かんでいる。
「……どうだった?」
「いやはや、見事に嫌な予感が的中していやしたぜ」
護衛の男はそう言いながら、額をぬぐった。
「妖怪の群れがあったってこと?」
「まあ、群れといえば群れなんですがね。もっと厄介というか、にわかには信じがたいというか」
「何を見たの」
「鬼です。あっしが見た限りは六人ほどの鬼がいやした。どうやら、あの二つ頭の犬妖怪は奴らに飼い慣らされていたみたいでございやすね」
護衛の男の報告を聞いた自警団の人たちは、口々に疑いを口にした。
「鬼って、あれだろ。妖怪のくせに、人間みたいに知恵が回るっていう。ホントにそんな妖怪いんのかよ」
「見越し入道とかと見間違えたんじゃねえのか」
「鬼なんているわけねえだろ」
「いやまあ、鬼は実在するけどよ。だとしても、こんな辺鄙な村にくるわけねえって」
「鬼って何だ? 初めて聞いたぞ」
あーだこーだと好き勝手に言う彼らを見て、護衛の男は首をすくめた。
「ほら、誰も信じやしないでしょう? まあ、あっしだってこの目で見なければ、信じられやしやせんからね」
黒雷、白龍、真祖ときて、次は鬼の群れか。
……ため息が出そうだ。
鬼は人間のように知能があり、言葉も通じる妖怪だ。
彼らが人里に寄りつくことはほとんどないから、鬼なんて妖怪は実在しないと思っている人も少なくない。
だけど、鬼はめったに人前に姿を見せないだけで、たしかに実在する。
ゲームでも幾度となく戦った。
その鬼たちが、今、小戸羽村の近くにいる。
「どうして、鬼だとわかったの?」
「人間に似た姿。赤や青の肌。額から生えるツノ。極めつけは人間とおんなじ言葉での会話。これで鬼じゃなかったら何なのか、あっしにはわかりやせんぜ」
まさに数え役満。
護衛の男が嘘をつく理由もないし、村の近くに鬼がいるのはほぼ間違いないだろう。
「……まあ、今わかっただけマシか」
「さて、お嬢さま。どうしやしょう」
いつもお気楽そうな護衛の男も、今回に限っては真剣な目つきをしていた。




