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第68話 不仲説!

「ウッソだろ! 歌唱大会に出るってマジかよ」


 その日の夕食時、村祭りの催し物の話題になって、百が歌唱大会に出ることもみんなの知るところとなった。

 希里華や六郎がへえとか、ほうとかつぶやく中、とびきり驚いたのは凛之助だった。


「そんなに驚いて、なに、その大会ってそんなに微妙なの?」

「いや、そういうわけじゃねえけど、なんか意外だなーって」


 気持ちはわからなくもないけど、どちゃくそ失礼な奴だな。


「あんたは思ったことを声に出す前に、もうちょっと考えた方がいいわよ」

「その言葉、お前にだけは言われたくねえよ!」

「あ?」


 せっかくのアドバイスをいきなり無視しやがったな、こいつ。


 私が声を荒げると、百が割って入るように口を開いた。


「そういえば凛之助の弟の蓮太郎くんだっけ。今日もいないみたいだけど、ご飯はいいの?」

「あー、レンの奴か。あとで一人で食うとかいいそうだけど……そうだな、一応、声をかけてくるかな」


 凛之助はそそくさと立ち上がり、部屋から出て行った。


 それを見届けた私は、誰ともなしに思っていたことをつぶやいた。


「いないといえば、凛之助のお父さんやお母さんもいなくない?」


 東藤家の食卓にお邪魔しているはずなのだけど、肝心の凛之助の家族が三人とも席にいないのが現状だ。

 弟の蓮太郎だかはともかく、両親はどうしたのだろうか。


 その疑問に答えたのは、相変わらず私の右隣りキープし続けている希里華だった。


「村祭りの開催も明後日にせまってますからね。その準備作業をしてくるとおっしゃっていましたわ」

「え、夜道って危なくない?」


 この世界の夜道はいつ妖怪と鉢合わせてもおかしくない。

 照明の技術はかなり発達しているけど、それでも危険と隣り合わせなことには変わらない。


 それとも、実はあの二人も実は武術の心得があるとか、妖術が使えるとかなのか?


「ですので、そのまま作業場に泊まってくるらしいです」

「なるほどね。そりゃそうか」


 納得していると、凛之助が戻ってきた。

 少し放心気味の表情で。


「どしたのよ」

「……なんか、怒らせちったわ」

「えぇ」


 ご飯食べるか訊きにいって怒らせるって、いったいぜんたい何を言えばそんなことになるのか。


「はぁ、やっぱ俺、レンに嫌われてんのかな」

「面と向かってそう言われたわけ?」

「そういうわけじゃねえけどさ。……ほら、仲悪く見えるって昨日お前も言ってたじゃん」

「…………そうだっけ?」

「……お前なあ」


 言った気もするし、言ってない気もする。ダメだ、よく覚えてない。


 ただ、仲良しには見えないから、言っていたとしてもあながち間違いはないだろう。


「あーあ、俺、なんか変なこと言っちゃったかな」


 どうだろうね。

 怒る理由って案外、今までじわじわ溜めてきた苛立ちが些細なきっかけでついに爆発ってことも多いし。


「まあ、さっきとは限らないけど、どっかで何か気に障ることはしたんでしょ」

「はぁ、なんだろ……なんだと思う?」

「さあ」


 当事者でもない私がわかるわけないでしょうに。


「ま、わかんない時は距離とるのが無難よ」

「えぇ、せっかく久しぶりに帰ってきたのにか?」

「言っとくけど、そのとりあえず絡みに行こうって考え方がウザがられている説もあるからね」

「……そんな、マジか」

「いや、根拠ないからそこまで鵜呑みにされても困るけど」


 わだかまりを解消するのに「時間を空ける」はそこそこ有効な手段だ。

 そんなにショックなら大人しくしておくのが一番いい。


 私はそう思いながら、のんびりお茶をすすった。

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