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第67話 祭り前の人々!

 あれから凛之助の弟と、普段の凛之助の様子がどんなだとか他愛の無い話で盛り上がった。


 その後、凛之助の弟と別れた私は、いちおう周りに妖怪のいた痕跡がないか探した。護衛の男にも手伝わせたけど、それらしきものは見つからなかった。


「雨で流されたか、そもそもそんなもの初めからなくってお嬢さまの考えすぎか」

「別に無いなら無いでいいのよ」


 むしろ、襲撃なんてない方がいい。

 その場合、できることといえば警戒を呼びかけることくらいしかないけど……これはこれで難しいな。


「とりあえず、村に戻りましょ」





 小戸羽(おとわ)村の人々は祭りの準備で忙しそうだ。

 村に着いた時は雨が降っていたし、村を歩き回ったのも夜中だったからわからなかったけど、こうして昼間に村を歩いてみると、それだけで活気が伝わってくる。


 広場に何かを建設中の人たちと、そこへ角材を運ぶ人。

 大道芸の練習中の人と、そこに寄ってきてしまった子供たち。

 巻尺を持って慌ただしく何かを計測する人と、屋根の上から怒鳴るように指示をする人。

 刀や弓を手にした自警団らしき人たちと、彼らに炊き出しを振る舞う女の人。


「……あれ」


 自警団らしき集団の中に見覚えのある姿が二つあった。

 赤紫とピンクの髪の少女たち、姫子と百だ。

 お椀を手に、汁物か何かを美味しそうにすすっている。


「二人とも、おはよー!」


 私が声をかけると二人とも同時にお椀から顔を上げた。

 その様子はまるで息ぴったりな姉妹にも見える。


「あ、ルリちゃん、おはよう。やっと起きたんだね」


 先に口を開いたのは百だった。


 私は百の隣へと腰を下ろした。


「二人とも何食べてるの」

「すいとん。自警団の人たちの妖怪退治をお手伝いしたら、よかったらどうぞって」

「妖怪退治って……百、だいじょうぶだった?」


 百は妖怪相手に同情して初級試験の結果がゼロ匹になるほどだ。自警団の足手まといにならなかったか心配していると、近くにいたメンバーらしき男が口を開いた。


「いやあ、二人には助けられたぜ。凛之助の奴がいた時もだけど、やっぱ妖術を使える奴がいると戦いやすさも全然ちがうな」


 これは驚いた。


「え、百、いつの間に妖怪と戦うのを克服したの?」

「うーん、克服したってわけじゃないんだけどね」


 百は困ったようにも、照れているようにも見える表情を浮かべた。


「村の周りにいる妖怪は放っておいたら襲ってくるし、危険でしょ? でも、試験の時の妖怪はそうじゃないっていうか……その、私たち人間の都合で捕まえられたわけだから、事情が違うっていうか」

「なるほど、あんたも難儀な性格してるわね」


 実力的には充分なんだろうけど、もう一度試験を受けた時にパスできるかは相当に怪しい気がする。


 などと思っていると、自警団の男が今度は姫子に頭をぽんぽんと叩いた。


「あと、こっちの姫ちゃんには驚かされたぞ。まだ、こんな子どもだってのに、大人の男よりも機敏に動くんだからよ。街にいる妖祓師見習いってのは、どいつもこいつもこんなにすごいのか?」

「いや、姫子が例外中の例外ね」

「さすがにそうか。安心したぜ。姫ちゃんみたいな子どもばっかりだったら、俺たち自警団の存在意義がなくなっちまうからな! ガハハ」


 ……どれだけ暴れたんだろう。


 私がじっと見つめると、すいとんを食べていた姫子は少し気恥ずかしそうにお椀から顔を離した。


「……いつもみたいに戦っただけ」

「いつもみたいってことは、短刀で?」

「妖術はまだよくわかんないし、そっちの方が早いからな」


 忍者のような身のこなしで妖怪を仕留めていく姫子が脳裏にありありと浮かぶ。

 うん、妖怪もこれにはたじたじだろう。


 私が心の中で激しくうなずいていると、村の広場に愉快な歌が響き渡った。

 思わず目を向けると、さっき大道芸の練習をしていた男性が集まった子供たちと一緒に歌っていた。


「ハハッ、あいつまたやってるぜ。こんなところでガキと歌っても練習にならないだろうに」

「あの人、さっき芸も練習してたみたいだけど、祭りで芸とか歌とか、何か披露したりするの?」

「たぶんするんじゃねえかな。去年も舞台に立って、すげえ数のお手玉を投げたりしてたしな」


 すげえ数のお手玉とは、いったいいくつなのか気になる。


「ただ、歌の方はそれとは違うな。うちの祭りでは村で一番歌が上手い人を決める大会が開かれるんだ。たぶん、それに出場するんだろ」


 へえ、そんなコンテストみたいなものがあるのか。


「村一番とは言ったが、村の外から来た人でも大歓迎だからな。お嬢ちゃんも参加していいぜ」

「えー、いや、私そんなに歌とか上手くないしな。二人はどうなの」


 そう言って、矛先をそらす。


「私はそもそも、歌える歌がないかな。百ちゃんはどうなんだ?」

「ええ、わ、わたし?」


 まるで爆弾ゲームのように次々と話の主役が渡されていく。

 最後にうけとった百はあたふたしていた。


「歌は、その、たしかに好きだけど」


 その言葉に目を光らせたのは自警団の男だった。


「おっ、百ちゃん歌えるのか。そりゃ良いこと聞いた。実は俺、その大会の管理を任されていてな。もう少し、参加者が欲しいなって思ってたんだよ」

「えええ、いや、でも人前で歌ったこととかは……」

「そんなのは経験だ経験。場数踏めばなんとかなるってもんだ」

「そ、そういうもの、かな」

「そうそう」


 いやあ、祭り当日までに場数を踏めるとは思えないけどね。


 とはいえなんだかんだ言って、百も満更ではない表情をしている。

 嫌よ嫌よも好きのうち、みたいな?


「うーん、ど、どうしようかな。二人はどう思う?」


 私と姫子の顔をうかがった。


「出たいなら出てみればいいんじゃない」

「私は百ちゃんの歌聴いてみたい」

「じゃ、じゃあ……出てみようかな?」


 百は空になったお椀を見つめながらつぶやいた。


「おっしゃ! 参加者一人増えた! いやあ、妖怪退治だけじゃなくて、こっちまで助けてくれてありがとうな」

「い、いえ」


 これは村祭りの楽しみが一つ増えたかもしれないな。

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