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第65話 雨上がりに鼻歌!

 そして、次の日。


「ふぁあ……だるい」


 朝と呼ぶには遅い時間に目覚めた私は、抜けきっていない疲れを感じながら、布団から起き上がった。


 結局、昨日はあれから妖怪に出会うことはなかった。さすがにゲームみたいなエンカウント率にはなってないらしい。

 毎日ボコスカ出てきたら、退治しきれず村が占拠されるだろうし、当たり前といえば当たり前だ。


「みんなは……」


 部屋を見渡す。

 四つあったはずの布団は二つ片づけられており、部屋にいるのは私とまだ夢の世界にいる希里華だけだ。

 百と姫子はとっくに起きているらしい。


 起こすのも悪いので、極力静かに着替え、布団をぺぺぺっとたたんでから、部屋を出た。

 居間には護衛の男がいた。


「おはよ」

「お嬢さま、おはようございます。こりゃまた、ずいぶんと早いお目覚めで」

「や、ぜんぜん早くないでしょ」


 もうほとんど昼だぞ。


「いやいや、昨日、帰った時間からすれば充分早いですって。もう少し寝てても誰も怒りゃしませんぜ」


 昨日一緒にいたのに、普通に起きているあんたに言われてもなあ。


 それに、私だってもっと寝たいけど、肝心の眠気がないのだ。


「長時間寝てると勝手に目が覚めるのよね。……これ絶対、霊薬の副作用だと思うんだけど、ホントにあれ毎日飲まなきゃダメ?」

「妖祓師にとって霊力の量は死活問題。何がなんでも絶対に飲ませろと、奥方さまに仰せつかっていやすから。……はい、どうぞ」


 流れるように差し出された湯飲みをため息混じりに受け取る。


「……はぁ」


 こんなの飲み続けて不眠症にでもなったらどうしてくれるんだ。


 湯飲みになみなみと注がれた憂鬱をぐいっと飲み干した。


「ぐぇ、まっず。こんなの飲んでたら、喉が魚のはらわたにでもなるわよ」


 前世で散々、薬を飲んできた私にはこの程度の苦味は何でもないけど、抗議の気持ちを示すためにあえて過剰に不味さをアピールした。


「じゃあ、口直しに朝兼昼ごはんでもどうですかい?」





 食事を終えた私は、護衛の男を引き連れて村へとくり出した。

 引き連れてといっても姿は見えないので、勝手に隠れてついて来るといった方がしっくりくる。


 ちなみに、凛之助と六郎と希里華はまだぐっすり家で眠っていて、姫子と百はすでに村へと出ていったらしい。


 私もそこに合流しようかと思ったけど、居場所もよくわからないし、他にやりたいこともある。


 少し迷った末に、村外れに向かって歩き出した。


「お嬢さま、あまり村の外に行くと危ないですぜ」


 木々が増えて見通しが悪くなってきた頃、隠れていた護衛の男が姿を現した。


「そのための護衛があんたでしょ」

「そもそも危険な目に遭わせないのが優秀な護衛なんですぜ」

「またまた、思い出したようにまともなこと言っちゃってー」


 似合わないにもほどがある。


 会話をしながらも一向に足を止める気配の無い私に、やがて護衛の男もあきらめたようだった。


「……お嬢さま、せめてこんな村外れに何の用があるのかくらい教えてくれませんかね」

「昨日、雨だったでしょ。それなら、妖怪の足跡とか残ってるかもなって」

「妖怪の足跡ですか。いったいぜんたい、どうしてそんなもんを?」

「なんとなく、嫌な予感がして」


 いちおう、ゲーム知識で「村がいつか襲われる」という根拠はあるけど、そんなの言っても仕方ないし、なによりその「いつか」が具体的にいつなのかもさっぱりわからない。

 それでは予感と同じようなものだ。


「うーん、雨ならむしろ足跡とか流されてそうですがね」

「そういうものなの?」

「普通に考えたらそうじゃないすか?」


 普通ってワードこそ、人それぞれなものもないけどね。


「べたべたの地面とか、がっつり残ってそうだと思ったんだけど」

「そう言われるとそんな気もするような……うーん、あっしにゃ専門外なんでわからんすね」


 私だってそうよ。


 ただ、護衛の男の言うとおりなら、なおさら嫌な予感は増す。

 視界は悪く、音も紛れ、自分の痕跡も流されるとしたら、悪事なんてやりたい放題だ。

 村を襲うのが頭の回る妖怪だったら、偵察に来ていてもおかしくない。


 こんなことなら、姫子を探して連れてこればよかったかもな。狩りとかで痕跡探しとか手慣れてそうだし。


「……しかし、嫌な予感ときやしたか」

「なによ。別にいいでしょ」

「悪いとはいってやせんぜ。むしろ、あっしも予感とか直感は大事にする方ですから」

「へぇ……まあ、そうよね」


 たしかにこの男は深く考えずに動いていそうだ。


「勘っていうのは、自分では気に留めないような情報を無意識下で照らし合わせって考える手段ですからね。あっしの経験則では、なんか気になるって時は、一見大丈夫に見えてもだいたい問題がありやす」

「嫌な経験則ね」


 ただ、正直よくわかる。

 私の勘もなんか嫌なことの方が当たるし。


「……できれば、何もないといいんだけど」


 その時、どこからか歌が聞こえてきた。


 フフフンフンフフンとリズミカルな鼻歌が風に乗っていく。

 声質からして小学生男子が歌っているような。でも、それにしては音の取り方が綺麗な。

 その不釣り合いさには、独特な魅力があった。


 私と護衛の男は無言で顔を見合わせると、そのまま声を出さずに鼻歌のする方へと向かっていった。


 そこには、凛之助の弟がいた。

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