第64話 残念な連携!
夕飯をすませた私たちは、雨が降り止むのを待ってから、提灯片手に太陽の眠る村の中へとくり出した。
メンバーは私、凛之助、希里華、六郎、そして護衛の男の五人。
正直、私は家にいたかった。
ていうか、さっさと寝たかった。
それでなくとも、雨で地面がぐちゃぐちゃなのに夜中に歩き回るとか嫌だ。
凛之助たちへのアドバイスなんて、それこそ明日以降の昼間にでもすればいい。
それでも、私がここにいるのは「見廻り稽古は夜なんだから、夜中の動きこそ見るべき」という凛之助の激しい主張に押し切られたからだ。
妖怪が発生するのは決まって夜。
だから、妖祓師たちは夜の街を警邏するわけで、見廻り稽古もその一環。
それを引き合いに出されたら「私でよければ力になる」なんて言った手前、さすがに断れなかった。
「る、ルリさま。街とちがって、凶暴な妖怪とか出てきたりしないでしょうか」
「平気よ平気。…………たぶん」
「たぶん、ですか」
「そりゃ、何事も絶対なんてないし」
一口に妖怪といっても、その種類は実に多い。
黒雷や真祖と立て続けに会ったせいで忘れそうになるけど、本来、彼らは相当珍しい存在だ。
世間の妖怪のイメージは、本能のままに人間を襲う獣に近い。
まあ、『くくり姫』をプレイした私は、知性的な妖怪は人里離れた土地に隠れ潜んでいるだけで、実は結構な数いると知っているけど……とにかく、一般的には、そういう妖怪はほとんどいないと思われている。
実際、村の近くで見かける妖怪は、森や山での縄張り争いに負けた妖怪か、まだ発生したばかりの妖怪だ。
どちらにも共通する特徴は「弱い」ということ。
だから、ここが村である以上、そこまで恐れることはない。
……と言い切れたら良かったんだけどね。
「はぁ」
私は小さくため息をついた。
一つだけ嫌な心当たりがある。
それは『くくり姫』の凛之助ルートでの知識。
凛之助の故郷は妖怪に襲われ滅んでいるということだ。
はたして、いつ起きるのか、具体的にどう滅んだのかはわからないけど、ゲーム開始時点より前で起きていることだけは確か。
このことについて調べたり、警鐘を鳴らすのも、私が小戸羽村に来た理由の一つだったりする。
とりあえず、破滅の日が今日ではありませんように。
◆
「瑠璃、俺たちの連携どうだった!」
「どうもなにも」
……0点だが?
やる気のぶんくらいは点をあげてもいいけど、それを除いたら本当にダメなところしかない。
正直、よくもまあこんなグダグダで倒せたものだと逆に感心させられる。
それだけ個々の能力自体は高いともいえるけど。
いやいや、だとしてもヒドい。
「まず、凛之助。あんた、どうして一発目からいきなり【雷槌落とし】なんて唱えてるのよ」
「一番威力が高いからな。妖怪との戦いは集団戦だ。なるべく早く一匹落とせば、それだけ戦いが有利になるだろ」
「……でも、外してたじゃん」
「うぐっ、そりゃそういう時だってあるっつーか。【雷槌落とし】は当てるのけっこう難しいんだよ!」
知ってる。
ゲームでもあの術は命中率低かったからね。
弱い術ではないけど、燃費も悪いし、私はぶっちゃけあまり使わなかった。
「たしかに当たって倒せるなら、数が減って楽になるかもよ。でも、外したら意味ないじゃない」
「うーん、じゃあどうすりゃ当てれるんだ」
「そもそも、撃つなって言ってんの」
凛之助はよほど【雷槌落とし】を使いたいらしい。
大技が気持ちいいのはわかるけど、あれはお膳立てをすることで本領発揮する類の術だ。初手で考えなしにぶっ放すものではない。
霊力が人より豊富なせいで、リソース管理が雑でもなんとかなっているようだけど、それもいつまでも続くものではない。
そんな無茶ばっかしていたら、いずれ息切れするぞ。
「あんた、自分の型の特徴は理解してる?」
「逆雷は妨害が得意な型だろ。さすがに知ってるって」
知っていてなぜ火力で勝負しようとするのか……。
「それなら、最初は相手に合わせた妨害をしなさいよ」
電気で痺れさせ、麻痺を引き起こす【電々鼓】、光で目を眩ませ、暗闇を引き起こす【閃光】など、逆雷の型には多くの妨害手段がそろっている。
こういった術で敵の動きを封じてから【雷槌落とし】を確実に当てるというのが、逆雷の基本戦術だ。
「麻痺とか暗闇とかで妖怪の動きを止めたら、それだけで、あんたがさっきいった『一匹先に落とした状態』と実質同じになるのよ。……つまり、戦闘の行方は、最初のあんたの動き次第といってもいいわ」
「お、俺次第……っし、わかったぜ!」
てっきりまだ食い下がってくるかと思っていたけど、案外物分かりがいい。
私は次に希里華を見た。
「凛之助が妨害役に徹する分、攻撃役が必要になるわけだけど、その役目はキリカがするべきね。風車の型はかなり攻撃に特化しているから」
「は、はい」
初級試験の時はきびきびと動けていたのに、今日の希里華は悪い意味で別人のようだった。
とにかく一つ一つの判断が遅い。
希里華は指示をこなすことにおいては文句なしだったけど、そのぶん自分で判断して行動するまでが遅いのだろうか。
「戦場では早さが命。そして、早さってのは基本的に意思決定の速度に左右されるの。ようするに、どれだけ悩まずに動けるかって話ね」
あまり悩まない人は行動が早いし、物事をよく吟味する人は行動が遅くなる。
「……うぅ、どうすればできるんでしょう」
「そうね。例えばだけど、この時はこうする、こういう状況がきたらこうする、って感じに迷わず動くために『行動のひな形』みたいなものを用意しておくとか」
それに頼りすぎると行動がワンパターンになって読まれやすくなるけど、妖怪退治においてはあまりたいした問題ではない。同じ相手と何度も戦うことなんてそうそうありえないし。
「で、六郎はね」
うーん、何といったものか。
正直、妖祓師に向いていないと言えたらいいんだけど、さすがにそのまま言うわけにもいかない。
「自分を含めて、味方がどれだけ余力を残しているのかしっかり把握しておくべき、かな?」
六郎は動き自体に致命的な問題があるわけではない。
どちらかというと才覚、ゲーム的にいえばステータスの問題だ。
六郎が得意とする術式の型は大雪。
氷で壁をつくったり、自立行動する氷像を呼び出したり、敵の攻撃を凌ぐことが得意な型だ。
『くくり姫』でこれらの術の利点は、攻撃技ではないから、ステータスが低くても使えること。つまり、六郎との相性は悪くない。
ただ、燃費があまり良くないという欠点があり、六郎は特に霊力量が物足りない。
じゃあ他の型ならいいのかというと、妖術を唱えるには霊力が必須な以上、そもそも妖祓師が向いていないという話になる。
せめて、戦況を把握して霊力消費を管理するくらいしかパッと思いつくアドバイスはできない。
それ以上となると、もっと具体的な力が必要だ。
姫子のように妖術がなくても剣とか弓で戦えるんだったら、いいんだけど、それを求めるのはさすがに酷だろうし……うーん。
「わかったよ。とりあえず、周りの状況を把握することをもう少し意識してみる」
「そう、ね。とりあえずはそこからかな」
三人へのアドバイスがひと通り終わると、凛之助が「よしっ!」と声を上げた。
「じゃあ、助言をもらったとこで、もっかい戦ってこようぜ!」
「夜とはいえ村の中でしょ、そんなに妖怪いる?」
「探せばたぶん出てくるって!」
元気だなあ。
私はそろそろ帰って眠りたいよ。




