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第62話 トランプ!

 馬車はその豪華な外観に違わず、内装もかなり綺麗だ。昔のお金持ちの装飾というと、とにかくゴテゴテしていたり、金ピカで目に優しくないイメージがあったけど、この馬車はそんなこともなく、すっきりしている。洗練されたとでもいうべきデザインだ。

 座席はふかふかで、机もしつらえてあるしで実用性の面でも隙がない。


 そして、かなり激しく揺れると思っていたけど、実際に乗ってみると全く揺れがない。

 あまりの快適さに、実はまだ出発していないのではと何度も疑心暗鬼になったほどだ。


 どうにも、それは私だけではないらしい。


「おい、この馬車どうなってんだよ。ぜんぜん揺れねえじゃん」


 凛之助もまた忙しなく周りに目を走らせていた。


「なあ、瑠璃、どうなってんだこれ」

「さあ」


 私にもさっぱりわからん。


 凛之助の驚きを見る限り、少なくとも凛之助の乗っていた馬車はもっと揺れたのだろう。


 ……こういうよくわからない時は、分かりそうな人にぶん投げるのが一番だ。


「キリカ、説明してあげて」

「わたくしも詳しくは知りませんが、揺れを吸収したり、打ち消すような妖術がかけられていたり、陣が刻まれているんじゃないでしょうか」

「ほぉん」


 凛之助の雑な相づち。


 どうやらこの世界の理解できない技術は、妖術の不思議パワーのおかげってことにしておけば間違いなさそうだ。


 などと思っていると、六郎が注釈をつけてきた。


「ほら、術式音骨(おとぼね)には衝撃を通さない障壁を張る妖術があるだろ。あれは仕組みとしては振動を逸らしているらしいんだけど、それと同じ理屈らしいらしいよ」

「ほぉん」


 凛之助のやつ、絶対に理解してない、というか聞き流したな。

 気持ちはわからなくもないけど、自分から話題を出しておきながら、反応が適当すぎる。


「まぁ、瑠璃ん家の馬車がすげえってことはわかった。それより、こんなに快適ならせっかくだし、なんかして遊ぼうぜ」

「なんかって言っても、しりとりくらいしか思いつかないけど」


 凛之助が背嚢(はいのう)をゴソゴソ探り、何かを取り出すと、机へドンと置いた。


「俺、実は歌留多(かるた)もってきたんだよな」

「カルタかぁ」


 どう考えても車内でやる遊びとは思えないけど、この馬車は揺れが全然ないし、机だってある。


「ちょっと見せて」


 そう言って、カルタを手に取った私は、どんな札があるのかとパラパラ見て、


「――っこれ、トランプじゃん!」


 声を上げた。


「いきなり叫んでどうしたんだよ。っつか、とらんぷって何だ?」

「いや、だってカルタって言ったらさ、一人が句を詠みあげて、それに対応した札を早い者勝ちで奪い合う奴でしょ」


 私はみんなの顔を見回して訴える。

 姫子は「私はどっちも知らない」と首を振った。


「ルリちゃん、それって歌かるたのこと?」

「歌かるた?」


 百の指摘に、私は首をかしげた。


 え、なに。トランプはこの時代かるたで……かるたは歌かるたって言うの?

 わかりにくい、わかりにくいよ。

 いいじゃん、トランプで。

 そもそも、国名だって日本じゃなくて羅刹に変えてるんだから、日本の歴史とかいちいち参照しなくていいのよ。そのためのファンタジー設定でしょ。

 凝りたくなる気持ちもわからなくはないけど、転生したこっちからすると、とにかくややこしいのよ。


 私が心の中で制作陣に憤慨しているのとは対照的に、六郎は感心していた。


「へぇ、歌留多って『とらんぷ』とも言うんだね、初めて知ったよ」

「ま、まあ、海外ではそう呼ばれているらしいわ」


 知らんけど。


「さすがルリさまですわ」


 今、褒められてもぜんぜん嬉しくないな。


「ま、歌留多でもトランプでも何でもいいから、さっさと遊ぼうぜ!」


 痺れを切らした凛之助が、机の上にトランプを広げた。


 凛之助の用意したトランプは、見慣れた柄とは少し違っていた。

 Aには一つ目妖怪の眼々、9には九尾の狐といった様子で、どうやら数字に対応した妖怪の絵が描かれているみたいだ。

 和風チックなのに、AとかJとかアルファベットはそのまま使われているあたりがなんだかミスマッチで独特な雰囲気を醸し出している。


 トランプもカルタも知らないらしい姫子は、トランプ自体珍しいのか、はたまた妖怪の柄が気になるのか、9のカードを手にして興味津々で見つめていた。


「さーて、まずは何する?」


 凛之助のはずんだ声が響き渡る。


「そうね、大富豪とか。最初なら七並べもいいんじゃない」

「大富豪? なんだそれ」

「大富豪ってのはね――」


 そうして、私たちの楽しげな声に包まれながら、馬車は凛之助の故郷へと向かっていくのだった。

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