第58話 三人との再会!
久しぶりに参加した稽古は何事もなく無事に終わった。
とはいえ、他のクラスメイトからすれば、行方不明だった当流派の令嬢たる私が復帰し、才能豊かな美少女たる姫子が転入してきたことになるわけで、なかなか盛り沢山な一日だったはずだ。
案の定、転校生が来たかのように、姫子の周りにはクラスメイトたちがわらわら集まっていた。
一方、私の周りはというと不登校気味の生徒が久しぶりに顔を見せた時のように、誰も寄ってこない。
試験に落ちたことや、行方不明だったことといい絡みづらいのはわかるから、別にいいんだけどね。
「姫子、私はちょっと友達に会ってくるから、先に帰ってていいよ」
私は姫子にそう伝えた後、百に「またね」と手を振りながら中級の教室へと足を向けた。
◆
中級の教室は階段を登ったすぐ先にある。
私がそこに入るのは、現代でいうなら上学年のクラスに入るようなもので、気後しないこともないのだけど、なんだかんだ言って私の中身は女子高生だ。そう思えば、たいして気になるものでもない。
帰っていく門下生たちとすれ違いながら、躊躇なく教室へと足を踏み入れた。
キョロキョロと見渡すと、目的の人物たちは幸いまだ帰っていなかったようで、難なく見つかった。
「いたいた、みんな! 心葉瑠璃、ただいま生還しました!」
六郎、希里華、凛之助の三人が、希里華の席を中心に集まっていた。
何か話し合うように顔を突き合わせていた三人は、私の声を聞いて三者三様にこちらを向いた。
「おま――」
「心葉さ――」
「ルリさまッ!?」
凛之助と六郎の声は見事なまでに、希里華の叫びにかき消された。
教室にまだ残っている他の門下生の視線が一気に集まる。加速度的に増す居心地の悪さを感じつつも、私は三人の集まりへと近づいた。
希里華が勢いよく席を立つと、私に向かって飛び込んできた。
「ルリさま! よかった、無事だったんですね! いつ戻ってきたんですか! わたくし、心配で心配で」
「う、うん」
希里華は私に抱きついた。
桔梗のした抱きしめるようなそれとは違う、必死でしがみつくような抱擁。
「もしもっ、もし、このまま会えなくなったらどうしようって――」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
「本当に! もう、二度と会えないかもしれないって……でも、そんなのぜったいにイヤで!」
胸元に押し付けられた少女の頭は小刻みに震えていた。
私は緑色の髪に静かに手を置いた。
「……心配かけたね。ごめん」
◆
「ところで、三人で集まってどうしてたの?」
希里華、凛之助、六郎。
私は各々と接点があるけれど、この三人でつるんでいるイメージは正直まったくない。
こうして三人が集まっているのはなかなか珍しい気がする。
「俺たち、同じ班だからな。こうして色々と作戦会議をしてたってわけだ」
凛之助が得意げに語った。
「班?」
そんな学校じみた仕組み、あったっけか。
「中級からは、夜の見廻り稽古があるからな」
「なにそれ」
「班を組んで、夜の街を警備して妖怪との実戦経験を積む。言葉のまんまだよ」
「へえ、そんなのがあるのね」
雷によるスタンや麻痺など優秀なデバフ持ちの凛之助、速度と攻撃力がピカイチで攻撃に特化している希里華、そして氷の壁や氷像を召喚したりと小回りが効くタンク寄りな六郎。
なかなか、バランスのとれたチームになりそうに思える。
「悪くない編成なんじゃない」
私の言葉に三人は顔を合わせた。
やがて、六郎がつぶやいた。
「……心葉さんはそう思う?」
「え、うん。回復手段が少ないかもしんないけど、基本的には綺麗にまとまってるでしょ」
少なくとも私にはそう見える。
「なんどか見廻り稽古はしたんだけど、どうにも上手くいかないっていうか、噛み合わないところが多くって」
「へえ」
そういった連携の齟齬を埋めるのが、まさに見廻り稽古の目的なのだろうし。
「そういう話し合いをしてたってなると、私、邪魔だよね」
「ルリさまが邪魔なんてことありえませんわ!」
希里華はそうかもしれないけど、他の二人はわからんぞ。
「べつに邪魔とか思わねえよ」
「そうだね。……むしろ、ちょうどいいかも」
「ちょうどいい?」
六郎の言葉に首をかしげた。
「誰かの助言が欲しかったからさ。心葉さんなら、安心できるし。……もちろん、心葉さんが嫌じゃなければだけど」
「別に嫌ではないけど、正直、あまり力にはなれないと思うよ」
私は三人が一緒に戦っているところを見たことがない。さすがに口頭だけの情報で的を射たアドバイスはできる気がしない。
そんな感じのことを話すと、三人は納得しながらも残念そうな顔をした。
できるなら力になりたいけど、こればっかりはね。
「私がどこかで三人の戦いを見れるならいいんだけど」
「……そうだ!」
凛之助が何か思いついたように声を張り上げた。
「瑠璃も一緒にこればいいんだよ!」
「いやいやいやいや」
さすがにムリでしょ。
私は班が違うどころか、クラスからして違うんだぞ。
それともなんだ。一人だけ知り合いを同行させられる謎システムでもあるのか。
希里華と六郎を見ると、二人とも私と同じ気持ちのようで、何言ってんだこいつと言わんばかりに眉をひそめている。
「ちがうって! 一緒に来ればいいってのは、見廻り稽古じゃなくて、俺の村にだよ」
「あぁ、なるほど」
「それは名案ですわ!」
え、なに、わかってないの私だけ?
一転して二人とも納得したようで、希里華にいたってはしきりに「絶対そうするべきですわ、ルリさま!」と言ってくる。
いったい、なんなんだ。
「よくわかんないんだけど……つまり、どういうことなの?」
私は凛之助に説明を求めたのだった。




