第56話 久々の帰宅!
「ただいま、ただいま、ただいまー!」
無事、街にたどり着いた私は、屋敷の敷地を跨ぐなり大声を張り上げた。
「瑠璃さま! 無事でよかったです!」
「ようやく、お顔を見えて安心いたしました」
「お嬢さまなら無事だって、あっしは信じてやしたぜ」
料理番のお月を筆頭に、お貴をはじめとした女中たち、さらには普段は呼ばない限り姿を見せない護衛の男まで、懐かしい顔ぶれが勢ぞろいしていた。
転生してからだいたい二ヶ月くらいしか経っていないけど、そのうち半分も顔を合わせていなかっただけでこんなに懐かしくなるなんてね。
私たちがひとしきり再会を喜んでいると、一息ついたところで桔梗が姫子を紹介した。
「この子が菊桐姫子さん、連絡の通りこれから我が家に増える新たな仲間です。今まで街の外で一人暮らしをしていたみたいなので、色々と教えてあげてくださいね」
「えっと……菊桐姫子です。よろしく、お願いします」
姫子は丁寧にお辞儀をした。少しぎこちないけど、開口一番「ただいま」と叫び倒した私に比べたらとても偉いなと、そんなことを思ってしまった。
◆
私の生存に喜び、姫子の居住を歓迎し、まさかの黒雷の帰還に驚いたりと盛り上がりにことかかない家中一同だったけど、そろそろ夕飯の準備をしなければいけないとお月が台所へと向かったのを皮切りに、みんな各々の仕事へと戻っていった。
姫子は屋敷の案内に連れられ、桔梗は屋敷の外に、残されたのは私と黒雷だけだ。
一ヶ月ぶりの自室へと向かうと、黒雷がついてきた。
「どしたの」
「訊きたい事がある」
部屋に入るなり、黒雷はそうつぶやいた。
「貴様はいったい何者なのだ?」
「ただの妖祓師見習いの女の子だけど」
「ただの女子が、我や天霆様の存在を知っているはずなかろう」
真祖にも同じことを指摘されたけど、ごもっともだ。
「でも、ずいぶんと今さらな質問じゃない」
「我は空に帰れるならば、それで良かった。ゆえに貴様の事情に口を挟むつもりも無かった。だが、それも失敗に終わり、帰るのはまた暫く先になりそうだとなれば、流石に訊かずにはおれぬ」
「ふむふむ、野次馬根性を抑えるのにも限界がきたと」
「……そんなところだ」
心なしか返答にキレがない気がする。
落ち込むようなことでもあったのだろうか。
私はそれ以上からかうのはやめ、真祖にしたのと似たような説明を口にした。
「私はね、未来が見えるのよ」
「それは……比喩ではなくか」
「うん。ほとんどが五年くらい後のことだけどね。しかも、起こりうる可能性がいくつか並行して見えるって感じだし」
ゲームの攻略ルートという単語を使うよりは、この方がまだ理解しやすいだろう。
信じてくれるかどうかは別として。
私は「ちなみに」と言葉を続ける。
「その未来の一つで黒雷が見えたから、それで知ったんだよね」
「……そうか、我は五年経ってもまだ帰れないのだな」
あぁ、そう捉えたか。
「可能性の一つよ。そういう未来もあるってだけで、そうなると決まったわけじゃないわ」
何を隠そうバッドエンド直行便に乗る私は、それを証明するために頑張っている。
今のところ、周りからの好感度に絶望的な低さは感じない。主人公と接触したのは予想外だったけど、関係は良好。
注意するべきは真祖だの、龍だのが出てきて、純粋に命の危険を感じる場面がちょいちょいあったことか。
私を取り巻く状況が少しずつ変化しているように、黒雷の未来だって変わっているはずだ。
「実は私の知っている未来ではね。あんたは試験会場で凛之助から霊力を奪っていたし、たぶんどこかで真祖の眷属にもされていたの。でも、今はそのどっちも起きていないでしょ」
そもそも、凛之助ルート限定とはいえ、ラスボスの立ち位置になりうる妖怪と、こうして暢気に話せている。
それだけでも、未来は変わっているんじゃないかな。
「だから、悲観し過ぎなくてもなんとかなるでしょ」
「随分と楽観的だな」
「口にしている間に現実になることだってあるわよ。それに、悪い結末が変わらなかったとしても、その瞬間まで良い気分でいられたなら、ずーっと落ち込んでいるより断然お得でしょ」
「フッ、何だその考え方は。損得で比較するものでもないだろうに。だが――」
「嫌いではない」とつぶやいて黒雷は小さく笑った。




