第37話 ゼロ匹!
「ねえ二人とも。私たちが呼ばれた理由って、ぶっちゃけなんだと思う?」
私と希里華と凛之助の三人は、応接室に移動するように伝えられ、向かっている最中だ。
妖祓師の資格や試験の管理を行なっている組織、妖祓連盟から来た人が話があるとのことらしい。
「そりゃ、俺たちの実力が認められたからに決まってるだろ」
「わたくしもそう思いますわ」
二人とも良い結果だったのだろう。呼び出しの理由も良いものだと信じているようだ。
「ちなみに二人の討伐数はいくつなのか聞いてもいい?」
「へっ、聞いて驚くなよ! 俺はなんと……74匹だ!」
「わたくしは92匹でしたわ」
「んなっ! きゅ、92!?」
「ルリさまのおかげですわね」
「ウソだろ!?」
凛之助は希里華の手から用紙を奪うと、食い入るように見つめた。
「ま、マジかよ……92匹って、そんな数いったいどうやってッ!」
凛之助は用紙から顔を上げると、弾かれたように私に視線を向けた。
「瑠璃! お前はいくつなんだ? まさか100を越えたりは」
「私はゼロ匹よ」
「……ん?」
「だから、ゼロ匹」
「いや、そういう冗談は――」
口を尖らせかけた凛之助は、私の突きつけた結果用紙を見て、口を閉じた。
いや、声が止んだだけで、むしろ口はぽかりと開かれている。そこに書かれている内容が信じられないと言わんばかりだ。
「な、なんでお前がゼロ匹なんだ?」
「そりゃもちろん一匹も倒してないからよ」
唖然とする凛之助の隣で、希里華がおそるおそる口を開いた。
「ルリさま……やっぱり本当のことを隠してらっしゃったのですね」
「まあ、そりゃあね」
「……わたくしの手助けをしていただいたばかりに」
「いやいや、キリカは何も悪くないわよ」
うつむく希里華を見ていると、なんだか罪悪感が湧いてくる。
私は湿っぽい空気を振り払うように、ポンと手を叩き、声を上げた。
「ということで、私たちが呼ばれたのは、実力が認められたからなんて単純な話じゃないと思うのよね。じゃあ、どうして呼ばれたのかなんだけど。ほら、試験会場で私たち三人が遭遇したアレ、覚えてる?」
「……ああ」
「……もちろんですわ」
試験会場に用意された妖怪たちとは、明らかに一線を画す威容を放っていた存在。
狗と鼬鼠を掛け合わせ、前脚を二本、後脚を四本、そして二股の尻尾をもった黒色の雷獣のような妖怪。
「お前が黒雷って呼んだヤツだよな」
「そうそう」
「あんなの、忘れるわけねえよ」
私は犬っころモードを見慣れたせいか、だいぶぬるい印象なのだけど、二人はそうではないみたいだ。
そりゃ、そうか。
「あれから、本当に何もないんだよな?」
「うん、特に何も。私の住んでいる場所が場所だし、わざわざ会いに来るほどでもないと思ったのかもね」
「……それならいいけどよ」
煮え切らない表情で凛之助は口をつぐんだ。
「ちなみに、二人とも黒雷のことを誰かに訊かれたりした?」
「いや、まったく。だから、誰にも話してない」
「わたくしもですわ」
言っても誰も信じないだろうから、聞かれない限りは自分から話すなと言っておいたけど、二人ともその通りにしてくれたみたいだ。
「そっか、ありがとね」
私は応接室へと歩みを進めながら、頭をひねった。
試験管理をしていた妖祓連盟からの呼び出しと、面子がこの三人なことから、てっきり黒雷絡みの話かと思ったけど……本当にそうだろうか。
試験から早一ヶ月。
話を訊きに来るにしては、遅すぎる気もするし、試験の採点をしていて不可解な点に気づいた人がいるというのなら妥当な気もする。
そもそも、試験中に黒雷に遭遇したのに、試験官からの接触が無かったことから、私たち以外に誰も気づいていないと思いこんでいたけど、それだって確証は何もない。
実は試験官はとっくに気づいていたけど、事情があって接触しませんでした、とか普通にありえる。
「……うーん」
いや、そもそもの話をするなら、どうして黒雷が試験会場にいたんだ?
黒雷自身は「寝て起きたらいた」みたいなことを言っていたけど、だったら黒雷を試験会場に移動させた要因が他に無いとおかしい。
でも、『くくり姫』ではそこらへんの掘り下げ特になかったんだよなあ。
凛之助が過去に黒雷に襲われて、妖術を使えなくなったってことしか知らないし。
「うーん、わからん!」
考えても分からないことは考えない!
私はこんがらがった思考を投げ捨てた。




