第36話 結果発表!
「モモ、これこのまえ話してた新しい追霊盤。要らないかもしれないけど、渡すように言われたから」
共同稽古が始まる前の教室で、私は百に追霊盤を手渡した。
「うん、ありがと。……そうだね。じゃあ、一応もらっておこうかな」
そう言って手を差し出した百の首筋に、首飾りが見えた。ついているのは宝石ではなく、ひび割れた石。
知らない人が見てもただの石だけど、私にはそれが壊れた霊石だとわかった。
百に追霊盤を手渡していると、希里華が近づいてきた。
「ルリさま! 山桜さんといつの間に仲良くなったのですか?」
「え、そう見える?」
「見えます! だって、今までは山桜さんってお呼びになってましたよね」
「そうだっけ」
よく見てるな。
あれから、百とはお互い名前で呼びあうくらいには仲が縮まった。
それ自体は隠すことでもないけど、きっかけとなった妖狐の件は、あまりぺらぺらと喋りたくない。
私は希里華の追求をそらすように、話題を変えた。
「そんなことより、ほら、今日はついに試験結果の発表日じゃない? どうなるんだろうね」
「……えっと、そうですわね」
希里華はまだ何かききたげにしていたけど、それでも、私の話題に乗ってきてくれた。
希里華のこういう素直なところ、私は好きだよ。
「わたくし、この日を待ちわびていましたの。……その、ルリさまのおかげで、今回の試験には少々自信がありますので」
「私も、キリカはかなり動けてたと思うわよ」
希里華は、私が指示を出してから、それを実行するまでの空白がとにかく短かった。
指示を飛ばすだけで、想像どおりの動きをしてくれる感覚はなかなか気持ちいいもので……正直なところ、それが原因でやり過ぎたところはあったと思う。
凛之助を泣かせたり。
私が試験の様子をしみじみと振り返っていると、百のため息混じりのつぶやきが聞こえてきた。
「……二人ともすごいのね。魚住さんは手応えあるみたいだし、ルリちゃんはその……すごく落ち着いてるし」
百の討伐数は貫禄のゼロ匹。
それが本当なら、試験結果は見るまでもなく不合格だろう。
でも、それは私だって同じだ。
百は私を落ち着いていると評価したけど、私からすれば、結果が分かりきっていて緊張も何もないだろ、というだけの話だ。
重要なのはそのあと。
散々な結果をどうやって母に伝えるのか、それに尽きる。
「まあ、自分の結果はだいたいわかるからね。モモだってそうでしょ?」
「それは、そうだけど……やっぱり気は重いよ」
百は机につっぷして大きなため息をついた。
◆
指南役の女性が教室の扉を開き、共同稽古が始まる時間になった。
でも、今日、始まるのは稽古じゃない。
今日は妖祓師初級試験の結果発表の日だ。
一人一人の名前が呼ばれ、結果の書かれた用紙を受け取りに指南役の元へと向かう。
受け取った子どもたちの反応は実に様々だった。
キョロキョロと周りを見渡す人。
小さくガッツポーズをする人。
隣の席の子に声をかける人。
用紙を見た瞬間、歓喜の声をあげる人。
反対にその場で崩れ落ちる人。
ポーカーフェイスで用紙をしまう人。
顔をうつむけてため息をつく人。
私は「不合格」の文字を見た瞬間に、光の速さで用紙を片付けた。
予測していただけあって、違和感なくスムーズな行動だったはずだ。
いつもと違う雰囲気の教室を見渡していると、今にも走り出しそうなほどうずうずしている希里華と目が合った。
希里華は顔を輝かせると、私に向けて結果の用紙を広げて見せてきた。
「合格」の文字が見える。
いやあ、よかったよかった。あれだけ会場を荒らしまわった甲斐があった。
私は無言で親指を立てた。
「みなさん、落ち着いてください」
指南役の女性の声が教室に響き渡る。
子どもたちの視線が集まったことを確認すると、彼女は再び口を開いた。
「では、魚住希里華さん、東藤凛之助くん、心葉瑠璃さん、以上三名はこちらに来てください」
…………はい?
てっきり今日の稽古が始まると思っていた私は、まさかの呼び出しに口をぽかんと開けた。
椅子を引いて立ち上がる音が聞こえる。
音のした方を見やると、希里華と凛之助が得意げな顔で歩き始めていた。
その様子を見て、周囲からぽつぽつと小さな声が上がる。
「あの三人、なんで呼ばれたの?」
「そりゃ、成績上位者だろ」
「やっぱりか、そりゃそうだよね」
「魚住さんの結果見たか? すごかったぜ」
どうやら、みんな、結果が特に優れていた三人が呼ばれたのだと思っているらしい。
二人の堂々とした態度も、それに拍車をかけているのだろう。
……でも、私は不合格なんだよな。
私は再び用紙をこっそりと開いた。
でも、そこに書かれた文字は相変わらず「不合格」のままだ。心葉瑠璃の名前も、内訳の討伐数ゼロ匹も、書かれていることは何ひとつ間違っていない。
「心葉さん? こちらに来てください」
「あ、はい」
私は違和感を抱えたまま、指南役の女性の元に向かったのだった。




