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第27話 大騒動!

 あれだけへとへとだった(もも)だけど、私と話しているうちに、息が整ってきたようだ。


「とにかく、はやくコンちゃんを見つけないと!」

「待って待って、探す当てはあるの?」


 相手はたいして大きくもない妖狐、しかも、厄介なことに妖術で幻覚を見せてくる。

 まともに探して見つかるとは思えない。


「これよ」


 百が懐から取り出したのは、手のひらサイズの円盤状の小道具。

 表面はガラス製なのか透明になっていて、針のようなものが内側でゆらゆら揺れているのが見える。


「方位磁針?」

「ちがうわ。これは追霊盤(ついれいばん)よ」


 ついれいばん?


「初めて聞いた単語なんだけど」

追霊盤(ついれいばん)っていうのはね」


 百は追霊盤(ついれいばん)の中心に見える針を指差した。

 よく見ると針は二つある。二つの針は重ねるようにして、追霊盤(ついれいばん)の中心に留め具で固定されており、もし指で触れるのなら、ぐるぐる回せそうだ。


 そのうち一つは、まさにコンパスの針そのままの見た目だ。片側が赤く塗られているし、留め具もちょうど針の中心にある。


 比べてもう一方は、片側の先が矢印になっていて、留め具の位置も針の真ん中から、かなり端によっている。こっちはコンパスというよりも、時計の針と言った方がしっくりくる。


追霊盤(ついれいばん)は、霊石っていう特殊な石と合わせて一組の道具なんだけどね。この矢印は、霊石がある方向を常に指し示しているの」

「霊石?」


 聞き慣れない言葉をおうむ返しにつぶやくと、百は「特殊な霊力を放つ、なんか不思議な石と思ってくれればいいわ」と流した。


「とりあえず、追霊盤(ついれいばん)の針は、必ず決まった霊石の位置を指し示すようにできているの。使い道としては、子どもに霊石を持たせておいて、迷子になった時にどこにいるのか分かるようにしたりとかね」


 現代でいうGPSみたいなものかな?

 わかるのは位置じゃなくて、方向みたいだけど。

 仕組みがよくわからんあたりも含めて、私にとっては似ている。


「なんとなくわかったわ。その霊石は妖狐に持たせてあるってことでいいのよね?」

「そうよ」


 百は鋭くうなずいた。

 つまり、追霊盤(ついれいばん)が指す方向に進めば、いずれ妖狐に追いつけるということだろう。


 そうとわかれば、あとは妖狐をさっさと見つけるだけだ。

 取り返しのつかない事件が起きる前に。





 追霊盤(ついれいばん)に導かれるまま走り続けた私たちは、気づけば商店街へとたどり着いていた。


「山桜さん、これってまずいんじゃない」


 商店街ということもあり、人通りが盛んで、妖狐を探しにくい。

 探しにくいだけならまだしも、もし、こんなところで人を襲ったりしたら。


 百もすぐさま同じ想像に至ったのだろう。ふと隣を見ると、百の顔色はずいぶんと青い。


「はやく……はやく、コンちゃんを見つけないと」


 百はうわごとのように、そう繰り返していた。


「ねえ、追霊盤(ついれいばん)はどんな感じ?」


 その様子にいたたまれなくなった私がもう一度声をかけると、百は弾かれたように追霊盤(ついれいばん)へと目を向けた。


「あっ、えっと……こっち!」


 そう言って、百が指差した先は、呉服屋だった。


 追霊盤は必ず霊石を指し示す。

 つまり、妖狐はこの呉服屋の中、もしくはこの店を越えた先にいる。


「コンちゃん! 待っててね!」


 すごい勢いで暖簾(のれん)をくぐる百を追いかけ、私も呉服屋へと足を踏み入れた。


「どうも、いらっしゃいま……せ?」


 お店の女性の第一声には疑問符がついていた。

 無理もない。

 私と百のどちらの周りにも保護者の姿は見えないし、ここまで走ってきたから二人とも全身汗だくだ。

 なんと声をかけるべきか迷う気持ちもわかる。


 お店の女性が声をかけあぐねているうちに百は店内をズイズイ進んでいく。私もあとを追うべきか考えていると、別の方向から声がかけられた。


「あら、ルリさま、奇遇でございますわね」

「え、キリカ?」


 声のした方に目を向けると、そこには見慣れた緑髪の少女がいた。

 当然、その額には一粒の汗もない。

 私よりも希里華の方が令嬢という感じだ。


「もしかして、ルリさまも服を探しにこられたのですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。キリカこそどうしたの」

「わたくしは、最近、(ちまた)で話題になっている呉服屋が気になりまして。少し見にきたのです」


 そして、希里華は手にした『白いもの』を私に見せてきた。


「ルリさま、この白の帯とか気になるのですけど……その、わたくしに似合っているでしょうか」

「え、おび?」

「はい」


 希里華が帯だと言って握りしめるそれは、どこからどう見ても――生きた白蛇だった。


「いやそれ、帯というより、蛇というか。その、蛇そのものというか」

「ヘビですか? もう、ルリさま! わたくしがヘビが苦手だと知っているくせに、ヘビに似ているだなんて、冗談にしてもひどいですわ!」

「冗談とか、似ているとかじゃなくて、もうホントにまんま蛇なんだけど」


 私の目がおかしくなったのか?

 ごしごしと目をこすってみたけど、やっぱり希里華の持っているのは白蛇にしか見えない。

 こちらを見てチロチロと舌を出しているし。


「まったくルリさまったら。こんなに素敵な帯をよりにもよってヘビだなんて……」


 希里華はそう言って自分の手元を見て、


「へ、へへへへへ、へびぃ! ヘビがいますわぁ!」


 店中どころか、外にまで聞こえそうな盛大な悲鳴をあげた。

 白蛇と希里華の視線が交差する。


「シャー!」

「ぎゃあああですわ!」


 勢いよく手が振り払われた。

 白蛇が宙を舞う。

 そして、蛇の着地した場所は、最悪なことに、お店の人と会話中の裕福そうな女性の頭の上だった。


「きゃあ!」


 希里華に続いて、裕福そうな女性の悲鳴が響く。

 突然のことに錯乱した様子の女性が、店内の品物にぶつかる。


 それを見ていた私は、思わず「あぶない!」と声を上げたけど、本当に私が気をつけるべきだったのは隣にいる希里華の様子だったらしい。


 バタン。


 隣で何かが倒れるような音がして、視線を戻すと、気を失った希里華が店の棚に倒れかかるのが見えた。


 倒れる棚。

 落ちる商品。

 そこに混じって飛び交う悲鳴と、再び投げられる白蛇。

 呉服屋の中は混沌にまみれ、てんやわんやの大騒ぎ。


「ど、どうしよ……ヤバいことになっちゃってない?」


 あまりの事態に、私が唖然としていると肩で息をきる百が近づいてきた。


「心葉さん! コンちゃん、さっきまでここにいたみたいなんだけど! もう、いないみたい!」

「え、ええ、そりゃさっきまでいたでしょうね」


 そうでもなければ、白蛇と帯を見間違えるなんてことが起きるはずもない。


「コンちゃんに近づいているのはたしか! 早く、追いましょ!」

「え、あ、ちょ! いいの? この店、たいへんなことになってるけど」


 ぐいぐいと私の手を引っ張って呉服屋から出て行こうとする百。


「それはそうだけど。でも、早くしないと、コンちゃんが!」


 そう言っている最中も手を引っ張り続け、放そうとしない。


 まあ、たしかにここに私たちがいても何かできることがあるわけじゃないしな。

 ……キリカ、ごめん。不甲斐ない私を許してくれ!


 私は百に引っ張られるままに呉服屋をあとにしたのだった。

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