第24話 ペットを飼おう!
この妖怪はこう見えても『くくり姫』の凛之助ルートにおけるラスボスだ。
前はコロッケを集られただけだったけど、もし私を使えないと判断したら、その時はさすがに容赦しないだろう。
「そうね。私もそろそろ作戦会議の必要があると思っていたわ」
黒雷の目的は、天霆の元に帰ること。
天霆とは雷雲の上に住まい、雷獣を始めとして多くの妖怪を従えるなんかすごい存在だ。でも、ゲームでは名前しか出てこない。いわゆる、設定上の存在。
その天霆の元に帰るには、雷雲の上へ行く必要がある。
では、どうやって雲の上に行くのか。
「龍に連れて行ってもらうのはどう?」
空が飛べないなら、飛べるものに乗ればいい。『くくり姫』の世界にはロケットも、ジェット機も、ヘリコプターもないけれど、龍はいる。
これこそ、私がたった今考えた『二番目に』上手くいきそうな方法だ。
「ふむ、我と同じ考えに至るとは、目の付け所は悪くない」
「あ、同じこと考えてたの?」
「左様」
なるほど、つまりこの案は――
私は頭の中で大空を駆けめぐっていた龍のイラストに、大きくバッテン印をつけた。
今はゲーム開始時点から五年前。
私が何もしなければ、このワンコは五年間、ご主人の元には帰れず、人間界をさまようことが保証されている。
つまり、黒雷が自分で考える作戦は、ことごとく失敗する可能性が非常に高い。
『龍に乗る作戦』は、はやくも暗礁に乗り上げたといえる。
「……うーん、だけどなあ」
かといって、『一番』望みがある方法は取りたくない。
というのも、それは『くくり姫』の主人公を殺すことを意味するから。
主人公――菊桐結姫はタイトルの『くくり姫』にふさわしい『括り』という力をもっている。
それは本来、繋がることのない二つの事象を一つに結びつける力だ。
凛之助ルートで、黒雷は結姫を殺して力を奪い、地上と天空を『括る』ことで空へとつながる梯を生み出そうと試みる。
さすがにそれなら、黒雷は帰れるだろうけど、そんな作戦に手を貸したら、私は完璧に主人公と敵対するわけで……ろくな結末が見えない。
「小娘、何を悩んでおる」
「ホントに龍に乗れば帰れるのかなあって、よーく考えてただけ」
「言ったであろう? 我も同じことを考えていたと。我の意見に誤りがあろう筈も無し。杞憂だ」
いや、むしろ、あんたと同じ意見だから心配しているんだけどね。
私は犬の形をした失敗フラグを睨めつけた。
それでも、そんな本音を口にすることまではできず、私は大人しく「そだね」とうなずいた。
そもそも、失敗したとしても困るのはこのワン公だけだ。
私は空に行く予定も、天霆に会いたい気持ちもないので、何も困らない。
テキトーに付き合って、テキトーに流すとしよう。
「それで小娘よ。貴様は、龍と会う術に何か心当たりはあるか」
「え? ないけど」
こちとら、お嬢さまといえども、所詮はただの女の子だぞ?
龍とコンタクトとれるわけないでしょ。
「まあ、そうであろうな」
「じゃあ、なんで聞いたのよ」
「一応の確認だ。何故か我の正体を知っていた貴様なら、龍の居場所の一つや二つ知っていても奇怪しく無かろう」
もっともな主張だった。
そのあたりの事情を詳しく迫られたら面倒だと思ったけど、予想に反して黒雷は追求してこなかった。
どうせはぐらかされるとわかっていたのかもしれない。
その代わりに黒雷が口にしたのは、もっと現実的な要求だった。
「では小娘よ。龍の居場所を知るわけでも無い貴様は、いったいどのようにして我に協力するつもりだ?」
「……住処の提供」
犬を飼うことにすればできなくもない、かな?
もし、母あたりが正体を見抜いて祓ってくれたら、それでも万々歳だ。
「ふむ、それと?」
「それだけ、だけど」
シレッと要求を積み上げようとする黒雷に、私もスパンと言い切った。
「我がわざわざこの様な窮屈な躰で街に居るのは、貴様と連絡をとる為だ。暮らしやすさを求めるのであれば、我は街からさっさと離れる。もちろん、不要な知識を持つ貴様を殺してな」
私を見つめる赤い目からは殺気が放たれていた。
一方、霊力は微塵も感じない。妖狐からでさえ感じとれたことを思い返すと、黒雷はよほど上手に霊力を隠しているのだろう。
「犬の姿は何かと不便でな。そろそろ、我も面倒ゆえ、街から離れようかと思っていたが、貴様が住処を提供するというのであれば、もう少し居てやらんことも無い」
「はいはい、そんな脅さなくても、わかったわよ。飼う以外にも何かすりゃいいんでしょ」
私はさっさと白旗を掲げた。
「……肝が据わっておるな」
「そう?」
どれだけ殺気を放っても、結局、私の目には犬にしか見えないだけなんだけど、自分ではわからないらしい。
まあ、鏡でも見ないとわからんか。
……さて、家に住ませる以外にも何か、ね。
いかん、興味がなさすぎて、ぜんぜん妙案が思いつかない。
「龍の居場所を調べる、とかどうよ」
「さっき知らないと言っていなかったか?」
「ええ、だから『調べる』なの」
犬よりはまだ私の方が情報収集能力はあるはずだ。
「出来るのか? ……いや、何でもない。それでいいだろう」
ペットのお世話と、龍の居場所探し。
突然、降ってきた課題はどちらも億劫だけど、無視するわけにもいかない。
穏やかな日々を過ごすには、まだまだ遠いようだ。




