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自称転生者な婚約者のチューニ病が終わらない  作者: 鉤咲蓮
二章 ライオン剣士の目覚め

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8/13

8.(俺、何かやっちゃった?)




 交通事故で死んで、ブラッドという何か色々大変そうな男として目覚めて――三日。


 俺は彼の婚約者であるセラフィーナの家に厄介になっていて、今は湯舟に浸かっている。あったかい。一人暮らししてたアパートの風呂より断然広いし、豪華だし。


 ……いいのかな、こんなによくしてもらって……。


 単純に気まずいんだよな、俺の顔と体じゃないし。ブラッドって俺じゃないし。

 黒髪黒目の日本人だったんだ、赤髪で瞳が金色の美形を自分と思えは無理があるって。気分はまさにバーチャルリアリティーのRPG、五感あり。


 そもそも元のブラッドの人格というか、魂はどうなったんだ?

 どこに行った?


 彼が死んだトコに俺が入ったんだとしたら、ランクさえ問題なくなったら俺はこのまま、ブラッド・サザーランドとしてセラフィーナに婿入りすんの?

 ええ~……いいのかなぁー、それ……倫理的にアウトじゃない?


 八年婚約してた割に冷めた仲だったみたいだけど、俺が入って色々わかってきた事で、セラフィーナは明らかに動揺してる。

 ブ(・)ラ(・)ッ(・)ド(・)の事を心配してるし、何で今まで気付けなかったんだろうとか、思ってそうだし。俺がそっちの立場ならと考えたら、気持ちはわかるけど。


『あの…セラフィーナ?顔が真っ青だけど』

『……何でもありません。』


 家のために婚約した、Aランクのはずの相手。格上である侯爵家のお坊ちゃま。

 それが実際にはD…Cランクで、家族には舐められてて、何があったのか傷だらけだし、味覚は狂ってるし、記憶喪失というか、別人の魂が入っちゃったし。


 ほんと可哀想に、セラフィーナ。

 彼女を放っておくわけにもいかないし、俺自身ここからどうしたらいいのかわからない。だからつい、魔法を教えてくれるって話に飛びついちゃったけど……執事さん達がいるとはいえ、親御さんの留守に長居するのもなぁ。


 一旦、あの子が心配しなくて済むように魔法を覚えないと。

 それからブラッドがずっと持ってたらしい愛剣も……屋敷で捜してやりたいけど、俺じゃ見た目すらわからない。


「……あんまり考え込んでても、のぼせるだけか。」


 呟いて、立ち上がった。

 用意されてたバスタオルで、古傷だらけの身体を拭く。俺は周りの話でしかブラッドを知らない。

 こんなに傷を負わされて、そのままでいるような奴だったんだろうか。


 シャツとズボンはきちっと畳んだ新しいのに交換されている。

 泊まると決まった昨日、サッと数枚買ってきてくれたものだ。これもなぁ、値段聞いても教えてくれないし。


 着替えた後、一応拭いたもののまだしっとりしてる髪に櫛を通して、廊下に出た。自分の客室までの道はもう覚えてるから、使用人の人が浴室の外で待機するのは断っている。


 歩きながらぼんやり考えた。

 ブラッドは何で、セラフィーナに話してあげなかったんだろう。


 ランク低いのは格好悪いとか…貴族同士の政略結婚だから、言えなかったとか?でも嘘ついたって最終的には絶対バレるんじゃないか?

 自分がどういう状況で、どう思ってるとか、何考えてるとか。

 色んな全部……何で、言ってやらなかったんだろ。


 ブ(・)ラ(・)ッ(・)ド(・)の話が聞きたいセラフィーナに俺がしてあげられる事って、限界がある。

 すごく助けてもらってるし、先生だし、恩返しはしたいんだけど。

 客室の前に着いて、ため息混じりに扉を開けた。


「はあ……ブラッドと話ができたらなぁ。」

《待っていたぞ。アズマ》

「うん?」

 バタンと扉が閉まる音がしたのは、後ろの方で。

 何か男の声が聞こえたのは、前の方――部屋の中だ。瞬いて見回したけど、誰もいない。


「え?誰か俺の事…」

《こっちだ。お前がテーブルの上に置いたんだろう》

「テーブル?」

 言われるがままにそっちを見たら、さっき借りたライオンのぬいぐるみ。

 ……が、なぜか勝手に腕組みをして二本足で立っていた。何これ。


「………今喋ったのって。」

《心底認めたくないが、お察しの通りこのライオン剣士だ。》

「えええええええええっ!!」

《静かにしろ!人が来るだろうが!!》

「ちょっ、え、何で!?」

 腰に差していた剣をチャキンと抜き――抜けるんだ、それ――、ライオン剣士が俺を威嚇している。

 何だこれ、操作魔法って自立思考を与えたりとかできるの!?

 知らない内に俺、何かやっちゃった?


《まったく……誰が来ても何とか誤魔化せよ。》

「誤魔化すって、いやライオン君は何者なんだよ。俺が魔法で作ったの?」

《そんなわけがあるか。俺はブラッド。その体の持ち主だ》

「……えっ、」

「ブラッド様!何かありましたか?」

 部屋がノックされ、執事さんの声がした。

 それがなければ俺はまた絶叫していたと思う。ブラッド?ブラッドって名乗ったか、こいつ。

 剣を鞘にしまったライオンはまるで、ただのぬいぐるみみたいにぱたんと倒れて。


 俺は――俺はライオン剣士を鷲掴みにし、急いで扉を開けた。


「すみません、大声出して!」

《いってぇ!おい、強く掴み過ぎだ!!》

「俺は大丈夫なんですけど、セラフィーナは。」

「お嬢様ですか?」

「セラフィーナの部屋はどこですか?いや、彼女がいれば部屋じゃなくていいんですけど、緊急の話があって。コイツの事で!」

《………。》

 ライオンを握った拳を突き出してみたけど、普通のぬいぐるみみたいに動かない。

 え?もしかして死んだ?俺が強く握り過ぎて?


「わかりました。すぐ伺って参りますので、しばしお待ちください。こちらからお声がけしますので」

「えっと、はい。お願いします……」

 あれ?俺幻覚と幻聴でも食らってた?

 扉が閉まり、足音が遠ざかっていく。握ったぬいぐるみは動かない。でも確かにさっきは、動い…


《馬鹿か!!》

「んぐっ!」

 おでこが痛い。手を開いた瞬間にキックが飛んできた。

 思わずのけぞって後ろに一歩よろめき、どうにか耐える。ライオンは床にしっかりと着地していた。

 やっぱり動いてるし喋ってる……!

 意味がわからないながらに屈んで片膝をつくと、ライオンはまた腕組みをして俺を睨みつけた。


《お前と二人で話すために待ってたのに、何であの娘の所に行くんだ。》

「こっちはちょっと混乱してるんだけど、まず君、ブラッドって名乗ったよな。」

《いかにも。自称異世界人のアズマ・カナタ。》

「事実だからね。俺は死んで、気付いたらこの身体に入ってたわけだから。」

《迷惑な事だ。》

「困るよね……って、それは一旦仕方ないとして。本当にブラッドなのか?」

 キリッとした顔立ちのライオン剣士は、どうやら口が開閉するつくりではないらしい。

 凛々しい表情のまま淡々と話しかけてくる。カオスだ。


《どうやら、操作魔法によってお前が俺(・)の(・)魔力を流した事で、これに入れるようになったらしい。》

「じゃあもしかして、あの空箱とか花に入ってた可能性ある?」

《ふざけてるのか。》

「ごめん大真面目。魔法素人だから」

《……これに入れたのは恐らく、このぬいぐるみが元々、俺と無関係ではないからだ。》

「そうなの?ひょっとしてセラフィーナへのプレゼントだった?」

《お前には関係ない。》

 ひどくないか?

 今、俺とブラッドはある意味一心同体――いや違うな、二心二体……ってそれは普通か。ともかく、関係大ありだというのに……まぁ確かに、二人の間の事はプライベートか。


「ブラッドさぁ、何か色々大変そうなのはわかったんだけど、もうちょっとセラフィーナに話してあげられなかったの?可哀想だよ。」

《……お前が入った後のこと、大体は見ていた。お前なら彼女と話ができるみたいだな。》

「どういう事?」

《………。》

「そういうダンマリ、女の子は嫌がるって聞い――痛ぁっ!」

 床についていた手を剣先でチクリとされた。

 何でぬいぐるみに持たせた剣が鋭く作ってあるんだ!危ないだろ、絶対。

 手を擦っていると、もう一度ノックの音。


「ブラッド様。お嬢様がお待ちです」

「あ、ありがとうございます。すぐ行きます」

《っおい!俺は置いていけ!》

「そうはいかないだろ!」

 剣を抜けないようしっかりと両腕ごと捕まえて、俺はライオンブラッドと共にセラフィーナに会いに行った。

 場所はすっかり恒例となったあのサロン。

 彼女も風呂を終えた後らしく、夕食で会った時とは違うドレスを着ている。執事さんが出ていってから、セラフィーナは心配そうな目で俺を見た。


「それで、どうされたのですか?」

「驚かないでほしいんだけど、コイツがね。」

《………。》

 足で立たせるようにテーブルに置いてみたけど、ライオンブラッドはぺたりと横に倒れる。こいつ普通のぬいぐるみのフリする気だ。

 違うんだよ、と言うつもりで顔を上げると、なぜかセラフィーナの顔が少し赤い。何で?


「……セラフィーナ?」

「そっ、その、ライオンがどうかしましたか。別に、何も関係ありませんが。その子が剣士だから剣を持ってるだけで、絵本通りのカラーリングといいますか…」

「あ、これ絵本のキャラなんだ。もしかして、持ち主って君なの?てっきり屋敷のどこかに飾られてたのかと思ってたけど。」

 セラフィーナがますます赤くなってしまった。

 えっ、何で?


 大人になってもぬいぐるみが好きな人は好きだし、ぬい活なんて言葉もあった世界の人間からすると、十八歳が絵本のぬいぐるみ持ってたって何も恥ずかしくないけど。

 何か喋ってよとライオンブラッドの背中をつついたけど、反応なし。


「わたくしが、…持ち主だと、何でしょうか。」

「何って事はないよ。ぬいぐるみなんて女の子は皆好きだろうし、良いと思う。」

「……こほん。ブラッド様、ご用件は。」

「そう、それなんだけど…このぬいぐるみ、さっき勝手に動いてさ。」

「操作魔法で、予期せぬ動きになってしまったと?」

「いや、魔法使ってないのに動いた。喋ったし、自分がブラッドだって名乗るし。」

「………えぇと。」

 疑わしい目で見られている…!そりゃそうだ。

 俺だって「ぬいぐるみが喋った」なんて言われたら反応に困る。だから本人を連れてきたんだけどな。


「なぁブラッド。諦めてさ、起きてくれないか?」

《………。》

「……あの、ブラッド様…」

「ごめんねセラフィーナ、ちょっと待って。頭おかしくなったわけじゃないから。」

「それは――…いえ、何でもありません。異世界の方ですもんね…」

 何か誤解されてる。俺は別に、ぬいぐるみが喋る世界の日本から来たわけではない。

 ライオンブラッドは相変わらず動かない。


「…君がそのつもりなら、セラフィーナにある事ない事吹き込んじゃおうかな。」

 一瞬、ライオンの手が動いた。

 俺の方を見ていたセラフィーナは気付かなかっただろうけど。


「君の自室で見たものとかどう?俺と君にしか正解はわからない。いいのかな、未来の奥さんに変な――いや、変態だと思われても。」

《ぐっ……》

 声が漏れた。あともう一押しだ。

 セラフィーナの目が「まだ待たないと駄目ですか」と言っている。待ってください。

 この短時間で二回も攻撃してきたくらいだ、ブラッドは少なくとも俺に対して短気。勝機はある。


「何せ俺は異世界の出……貴族の君が知りもしないだろう、とんでもない癖の存在だって」

《口を閉じろ変態が……!》

 かかった。

 ぬいぐるみの顔こそ変わってないけど、人だったらさぞ恐ろしい表情をしてるだろう、よくよくドスの効いた低音ボイス。


 悪いねブラッド。ライオン君(ぬいぐるみ)の顔じゃあ全然怖くないよ。

 俺に剣を突き付けたぬいぐるみを見て、セラフィーナが青い瞳をまん丸にしている。


「ね、動いただろ?」

《お前、後で絶対に刺すからな……覚えてろよ。》

「怖い事言うなよ、素直になりなって。ほら、セラフィーナの方を向いて。」

「すっ――すごいです、ブラッド様!そんなに小さな剣を抜かせるなんて」

「え?」

 反応がおかしい。

 彼女は今明らかに俺(・)をブラッドと呼んだし、たぶん魔法の話をしている。


「ぬいぐるみの操作魔法に加えて、その小さな剣の操作魔法も同時に発動したのですね。」

「いや…」

「一日経たずそこまで繊細なコントロールができるとは、確かに操作魔法のセンスがおありです。」

《まぁ、こうなるだろうな。》

 何で?

 仮に動くのは魔法だって思い込んだとしても、ブラッドは今、喋ってるじゃないか。


「ちなみに、このぬいぐるみをジャンプさせたい場合はまた違って、それは《浮遊魔法》の区分になります。Cランクですが、昼間のあの輝きが真であれば――」

「あの、セラフィーナ?」

「はい?」

「こいつの声って、聞こえる?さっきからちょくちょく、喋ってるけど。」

 ライオンブラッドが、ふいとそっぽを向く。

 セラフィーナは俺と彼を見比べて、ゆっくりと首を傾げた。





次回更新まで、しばし間が空きます。

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