↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自称転生者な婚約者のチューニ病が終わらない  作者: 鉤咲蓮
二章 ライオン剣士の目覚め

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/13

11.「俺はもう死んでるんだから」




 部屋に置いてあったベルを持って廊下に顔を出し、控えめにカラカラと振ってみる。


 ブラッドには「部屋の中で鳴らせばいい」と言われたけど、本当に音が届くかわからないし、音が大きすぎたら申し訳ない。

 現れた執事さんにも同じように言われたものの、とにかく風呂に入り直すことができた。


「で、風呂場で改めて気になったんだけどさ。」

《何だ。》

 サッパリほかほかになって戻り、ベッドの上で胡座をかく。ライオンブラッドは相変わらず腕組み仁王立ちだ。


「体の傷はどうしたんだよ。アルヴィンのせい?」

《大抵はそうだ。》

 本当にそうなんだ。最悪すぎる、あいつ。

 ブラッドは呑気に「一回あたり一発だけな」という、なんの免罪符にもならない情報を付け足した。


《食事中などはもちろんやらないが、廊下で出くわすと攻撃魔法を使ってくる事がある。人格が変わったせいなのか、先日は何もなかったが……明日会ったら、やられるかもな。》

「それ、抵抗しないの?」

《……一度、防御魔法を使った事がある。その時は、俺の代わりに侍女が撃たれた》

「は…」


 何だよ、それ。


《他の者が彼女に治癒魔法を施し、無(・)か(・)っ(・)た(・)事(・)に(・)されてたが……鍛えてて受け身も取れる俺と違って、かなり痛かっただろうとは思う。》

 何でそんな事するんだ?腹違いだろうが何だろうが、兄弟なのに。

 周りまで巻き込んで、どうして。


《それ以降は抵抗してない。》

 面倒だからなと、ライオンブラッドが言う。もしこの体だったら、彼はどんな顔でそれを言ったんだろう。

 声は淡々としていて、まるで日常のなんて事ない話みたいで。


 慣れてるんだ、ブラッドは。

 とっくにそれが、「いつもの事」で。


《…アズマ。言っとくが、これは別に可(・)哀(・)想(・)な(・)話(・)じゃない。》

「何でそう思うんだよ。」

《兄上はああ見えて、実(・)戦(・)経験がろくにない。そのせいか…攻撃魔法の見た目こそ派手だが、中身がないんだ。》

「…つまり、どういう事?」

《魔力の練りが足りないと、攻撃魔法は質量が軽くなる。殺す気で撃ってるわけでもないし、もし受け身をとれずとも重傷には至らない。治癒魔法を使われないからそれなりに跡は残るが、それだけという事だ。》

 以上、とでも言いたげに言葉を切られたけど。

 俺はブラッドを見たまま、瞬きして。何、どういうこと?


 ………、何が?

 何が「それだけ」?


「わかんないよ。」

《練りというのは…》

「違うって。あのさ、何で君が痛い思いしないといけないの。何されてるかわかってる?立派な虐待だろ」

《…実際に受けてないから、お前にはいまいち伝わらないかもしれないが。本当に大した事はない。》

「そういう問題じゃないだろ」

 威力がどうとか、大した事ないとかじゃ、なくてさ。

 ブラッドは何でこれがわかんないの?

 おかしいじゃん、明らかに。


「俺は…君にそんな事したのが、許せない。」

《……何でそんなに怒ってる。》

 腕組みをしたまま、ブラッドはわかりやすくライオンの首を傾げた。

 本当に全然、わからないんだろう。そのおでこをつっついてやろうかな。


 呆れるし腹が立ってくる。こいつがこんな感覚に育ったのはアルヴィンとか、あの継母とか、見て見ぬふりした大人全員のせいだ。

 君はいつから耐えてるんだよ、何でそんな必要ないってわかんないんだよ、おかしいのはアルヴィンであって君じゃない。

 代わりに他の人が危険に晒されるのだって、大人が対策すべきで、アルヴィンを諫めるべきで。


《明日の事は不安かもしれないが、その体なら…》

 ああ、もう。

 そうじゃないって。


「あのね。この数日でセラフィーナは君の事をすごく心配したと思うけど、俺だってそうなんだよ。わざとじゃないとはいえ勝手に入って申し訳ないと思うし、なんか傷だらけだし、味覚も変だし、色々抱えてそうだし。喋ったのはこの半日もない時間だけど……俺にとって君は、とっくに他人じゃないの。」

《…他人ではないな。確かに》

「単に体を借りてるってだけじゃなくて。俺はもう死んでるんだから、君が戻る代わりに消えたって仕方ないと思ってる部分はあるけど。君とセラフィーナは違うだろ?生きてる。だからどうせなら幸せになってほしいし、家族からそんな扱いを受けてるって聞いて、『へーそうなんだ』とは返せないわけ。だって君がそういう扱いを受けていい人じゃないって事くらいは、この数時間でだってわかるんだから。」


 俺が早口にまくし立てたせいか、ブラッドは黙っている。

 表情がわからなくても、彼が困ってるんだろう事がひしひしと伝わってきた。


 俺が理解しないから、納得しないから、どう伝えればいいかと困ってる。

 聞き分けのない子供を前にした大人みたいに。

 俺の方が歳上なのにさ。


《アズマ。お前の常識では許しがたいのかもしれないが……あの屋敷の中では、次期当主であるアルヴィンの方が立場が強い。》

「だからってやっていい事にはならないし――っていうか、そんな横暴なやつがマトモな当主になれるとは思えないね。」

《外向きの愛想は良いし、頭脳面から言っても家の運営はどうにかなる。討伐の方もやりようはあるしな。》

「……討伐?」

 そういえばさっき、アルヴィンは実戦経験がないって言ってたな。

 ブラッドは実戦経験があるって事、だよな?見たことないけど、剣持ってたらしいし。


《魔物の討伐任務だ。》

「あ、この世界魔物いるんだ……。」

《いる。城を中心に巨大な結界が張られてるから、この王都では見かけない。その結界を維持するために、貴族は持ち回りで魔力を捧げるんだ。そして結界の力があまり及ばない遠地での討伐、これも貴族に課せられた重要な仕事だ。》

「ああ…だからこそ、ランクが上の方が偉い感じなのかな。より魔力を捧げて、より魔物を倒して……それが国への貢献というか。」

《そうだ。もちろん、中には平民の有力者もいる。》

 そういう見込みのある平民は大体、どこかの貴族が運営する団体に所属するだとか、どこかの家に仕えたり、戦功によっては騎士爵をもらえるようだ。

 小さな剣を指示棒みたいにして、ブラッドは何もない布団の上をトントン叩きながら教えてくれた。


「もしかして、セラフィーナとかも戦うの?」

《聞いた事はないな。父親か、家に仕える者か、あるいは委託業者がやってると思う》

「委託業者。」

《もちろん貴族同士で助け合ってもいいが。信頼関係と利害の一致がなければ、それはあまりやらないな。足元をすくわれる可能性がある》

「そりゃそっか…」

 貴族でも下位なほどランクが低くなりがちなわけだけど、そこはそれ、上位貴族とは討伐対象の種類とか数が違うらしい。

 ギルドものとかでよくある、S級冒険者が受ける依頼とC級の依頼は違う、みたいな感じか。


「で、アルヴィンはそれ、君に任せっきりなんだ?」

《基本的に来ないな。》

「下に見てるくせに格好悪いな。」

《討伐は汚れる仕事だから、嫌がるのはわかる。》

「ブラッドは何でで(・)き(・)て(・)る(・)の?ランク的に言えば無茶な仕事してるって事だよね。まぁ君のランクって特殊だけど。」

 普通に考えたら高難度。

 C~DランクなのにAの依頼を受けてるんだもんな――…ああ、だからこそランクが低いってバレずに済んでる面もあるのかな?


《依頼は一人でやる必要がない。他家との合同任務も多く、こちらが断ったり依頼を選ぶ事も多少はできるし、先程言ったが委託もできる。》

「ああそっか、色々とやりようはあるんだ。」

《俺が討伐へ行く代わりに、結界へ魔力を捧げるのは兄がやってる。当主に個別で来る依頼もあるから、父がどこまでやってるかはわからないが》

「ふーん…」

 魔力を捧げてしまうと当然、その人は一時的に守りが薄くなるから、一族の主要人物が同じ日にやるって事はないらしい。

 特定の家に偏ってもいけないので、持ち回りで維持しているんだとか。

 まぁそれは自分が行くよな、ブラッドが行ったらランクがバレてしまう。


「お父さんはアルヴィンの横暴さをどうしてんの?屋敷じゃそれっぽい人は見なかったと思うけど。」

《そもそもあまり家にいない、忙しいからな。俺達兄弟の事をどこまで聞いてるか不明だが、知ってても改善する気はないと思う。大事には至ってないし、俺はランクの低い、他所(よそ)へ出す方の息子だ。》

「……ランクが全てじゃないだろ。」

《その通りだ。全てじゃない――この国の人物評価において、最重要項目であるというだけで。》

 ブラッドの声音は、落ち着いていて。

 俺の意見に寄り添うようでいて、そうじゃない。冷静に現実を伝えてる。

 突然この世界に来た俺より、この国で生まれ育ったブラッドの方がわかってる、それは当然なんだけどさ。それにしたって、何で。


《…どうした?》

「ブラッドはさ、何でそんなに冷静なの?」

《なぜと言われても困るが。》

「何か、納得できる理由があるのかなって。理不尽じゃないか、色々。」

 アルヴィンが攻撃してくるのも、そのくせ、自分よりずっとランクが低いブラッドに討伐を押し付けるのも。

 ランクを下げられてる可能性があるのも、セラフィーナの家を騙す事になったのも、他人に身体を取られたのも、味覚障害なんて起こしてるのも、全部。


 理不尽じゃないか、「何で俺が」って思うものじゃないか。

 どうして君は平然としてる。


《そ(・)う(・)い(・)う(・)も(・)の(・)かと思っていた部分が大きい。》

「そんなわけないでしょ。そういうものって、そんなわけ…」

《文句を言って何かが変わるわけじゃない。俺はただ、やれる事をやってきたつもりだ》

「でもさ、セラフィーナの事は?」

 俺が聞くと、ライオンブラッドは抜いていた剣を静かに鞘へ戻した。

 かちゃ、と小さい小さい音がして。


「父親が決めた事か何か知らないけど、逆らえないから黙って、あの子を騙して。そういうものだって?いつかどうせバレるのに。態度もよくないだろ、未だにさ。話聞いてて俺、君はもっと無口なんだと思ってたけど…全然喋るよね。」

《……この八年、俺が何の解決もできなかったのは確かだ。最初は幼かったとはいえ》

「努力すら見えないんだけど。せめてちゃんと相手を見て普通に話すとか、遅刻しないとかさ。あの子のためにできる事はあっただろ」

 ブラッドは否定しない。

 これでいいんだとも言わないし、口を出すなとも言わない。……何だかやるせなくて、ため息を吐いた。


「なぁ、一体何があったんだよ。俺、それも何か本当は理由あるんじゃないのかって……」

 話してくれたら、セラフィーナに伝えてあげられるし。

 俺の意見はそりゃ、この世界の、この国の常識とは違うかもだけど。


 力になれるかもしれないだろ、君が心から納得してやってるとは思えない。

 そういう奴じゃないじゃん、喋っただけでもそれくらいはわかるよ。役に立てないのが悔しくて、言わない君に怒りたくて、何だか涙が出そうだ。


「ブラッドはさぁ、俺のこと励ましたり、気遣ってくれるんだよ。自覚あるか知らないけど、割といい奴なんだ。セラフィーナにだけ冷たい態度取ってるのがわからない、何かあるんだろ?理由が。」

《……俺から答えられる事はない。》

「黙るんだ、また。この八年解決できなかったくせに。」

 俺がわざと煽った事に気付いてるのか、ブラッドは何も返さなかった。

 拳を握って考えても、俺じゃ全然それっぽい答えが見つけられなくて。ブラッドが時計を指す。


《そろそろ寝た方がいい。明日に響く》

「……わかった、もういいよ。今日のところはね」

 しっかり寝るべきなのは確かだ、アルヴィンに会うだろうし。

 剣も捜してあげたいし、引き出しも気になるし、それから、それから……。


 部屋の明かりを消して回り、ベッドに潜り込んだ。

 ブラッドがサイドテーブルの明かりを消してくれて。筋トレさせられたせいもあってか、一気に眠気が襲ってくる。


「あのさ…」

《何だ。》

「ブラッドはほんとに、頭打った辺りの事は覚えてないの?…これっぽっちも?」

《……わからない。わからないが、ただ…》


 このままでは、まずい気がする。


 暗闇の中で、ブラッドはそう言った。

 俺はうとうとして、返事できたかわからないけど――…このままじゃまずいのは、ずっとじゃない?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。