極秘誕生会②
当日。
「イリスティア、今日は僕と出かけないか?」
「……申し訳ありません。今日は少し、体調が優れませんので」
扉越しに、いつもの刺々しい声が返ってくる。
「そう言わずに。実は予約もしてあるんだ。行こう!
びっくりさせたくて色々準備したんだ」
「嫌です」
「行こう。せっかくの機会なんだから」
「嫌だと申し上げております」
「そんなワガママを言わないでくれ、君のお父様もお母様も妹もみんな準備を手伝ってくれて」
「――なら、一人で行けば宜しいでしょう!」
イリスティアお姉様が興奮したように始めて声を荒げ、そのまま扉にドンと強い音が響いた。それから何度呼びかけても一切返答がなくなった。
呆然としていたセドリック様だが、少し笑っていた。今日はいつもよりずっと弱々しく。
「わかった。具合の悪い君に無理を言って悪かった。
プレゼントの花を、おいていくからせめてコレだけはもらってくれないか?」
背を向けて歩き出す。そのゆっくりとした足取りを誰も止めることも、声をかけることもできなかった。辛いだろうに、静かにただ静かに廊下を歩いて玄関を抜けて、私が無理を言ってお姉様の部屋が見える場所においてもらっていたベンチに腰掛け、うつむいて顔を覆って座ってしまう。
「殿下……」
追いかけると、庭のベンチに腰を下ろしたセドリック様は、珍しく弱々しく声を上げた。泣いているような気がした。
「ごめん、アン。二人でお祝いを考えていたのに……。まさか、こんな態度を取られるとは思わなかった。
色々と、計画してくれたのに、協力してくれたみんなにも、僕は、申し訳が・・・ない。」
その落胆した様子に、私の胸がぎゅっと痛んだ。せっかくの善意を無下にされて、殿下だって傷つくに決まっている。一人にしてほしいとその肩を落とし両手で顔を覆う光景が伝えてくれるけど、できなかった。殿下が落ち込んでいるのは私の責任でもある。
「殿下!!僭越ながら、わたくしが代わりにお供いたします!
お姉様の非礼をお姉様の妹として、伯爵家の人間として、代表してお詫び申し上げます。
しかしながら、このままではお父様やお母様、屋敷の有志の皆も、殿下をお待ちしております。
だから⋯一緒に参りましょう殿下」
「……そうだね。ありがとう、アン」
セドリック様が、少しだけ表情を緩めてくださった。それが嬉しくて、私は張り切って差し出した殿下の震える手を掴んで、思い切り笑うことにした。泣きそうな気持ちは明後日の方向へ投げ捨てて、気持ちを前に進めることにした。
今日は、殿下のお忍び下町、極秘パーティーだ!
庶民のお店に行って、先に選んでいたプレゼントを店から受け取り。「彼女さんとお似合いですね」なんて茶化されてお互いに顔を見合わせて笑い「そんなのではないですよ」なんて返したあとは。
屋台を食べ歩く新鮮さを殿下に味わっていただき。
沢山笑って、聖女誕生月のお祭りを楽しみ、私には聞き慣れた下手な音楽に合わせて自由に踊り。
そして両親の待つ店に向かう。
皆が手を叩いて迎えてくれたけど、私が一緒だからあれって言う雰囲気になった。
でも……。
「失敗しちゃいましたー。でも、皆さんご協力ありがとうございました。ということで今日は残念パーティーと、殿下の下町体験です。大いに楽しみましょ!」
なんて、おどけて皆に失笑をかいながらペコリと頭を下げる。
皆びっくりしてたけど、そのうち笑いだして、そしてお店は笑顔で包まれていた。
お姉様、貴方、本当にひどい人。




