極秘誕生会①
「そういえば、お嬢様。先月、月命日のお出かけのとき、珍しくイリスティア様がお喜びになっていたんですよ」
いつものように、イリスティアお姉様の外出に合わせたジューンと私の街での息抜きの帰り道。二人で買い食いしつつ、並んで歩きながらジューンがふと思い出したように言った。
「あら、そうなの?」
「ええ。地味な装いで、ユリウス様と静かにお出かけになっていたんですけど……。あんなに柔らかいお顔、久しぶりに拝見しましたわ。きっと、お忍びでこっそり羽を伸ばされたかったんでしょうねぇ」
ジューンは懐かしむように目を細めた。
――お忍びで、羽を伸ばす。
その言葉が、私の胸にすとんと落ちてきた。
そうか。イリスティアお姉様だって、たまには気の張らないお出かけがしたいはずなのだ。いつも体調を気遣われて、教会の儀式以外はほとんど部屋に閉じこもって過ごしている。きっと、心のどこかで寂しい思いをされているに違いない。だからわざわざ伯爵令嬢らしくない格好で出かけているのね!
――誕生日を、極秘でお祝いして差し上げよう。
そう閃いた瞬間、私の胸は弾んだ。
この国では生まれた月で誕生祝いをする習慣がある。お姉様は先代の聖女の没後3年経ってから、ようやく見つかった聖女だった。
それに、今までの聖女よりも強い魔力があるために、よりこの国を豊かにしたことでその人気はすごいことになっている。
ちょっと変わっているけど、前はずっと顔をベールで隠していたけど、今は綺麗に化粧してお顔も見せるようになったことで、肖像画や胸像なども作られているという。
綺麗にお化粧して、顔を隠さないで出かけてはどうかと、お父様やお母様、ジューンに相談して良いことだと賛成してもらって本当によかった。
セドリック殿下も「民のためにも今のほうが良い」って絶賛してもらった。
そんな、イリスティアお姉様の誕生月は、教会でも国を挙げての祝賀行事が続く月だ。国民の前に姿を見せねばならない催しも多く、忙しない一月になる。だからこそ、身内だけの、気を張らずに済むお祝いがあれば、きっと喜んでいただけるはずだと思った。
なんでもない時にお忍びで出かけて喜ぶなら、誕生祝いを極秘したらきっと喜ぶ。しかも相手がセドリック王子様だったら感激して泣くかもしれない。
「ジューンありがとう、なんだか勇気が出てきたわ!!
貴方って最高ね!」
そう言って、手にお活を持ったまま隣に並んでいるジューンに抱きついた。目を丸くしてびっくりしてたし、行儀が悪いのは理解してるけど、ジューンは少しするとそっと私の背中を撫でてくれた。
数日後、教会での祈りの儀式に合わせてこられていたセドリック殿下を手招きしてこっそり空き部屋に連れ込んだ。早速、私は自分の素敵な思いつきをセドリック様に相談する。胸がワクワクして止まらない。殿下を見上げて声を潜め、胸の前で両手を握って強く訴える。
「お姉様の誕生月に、極秘でお祝い会を企画してはいかがでしょう?」
「極秘⋯誕生祝い?」
「はい! 実はジューンから聞いたんです。
お姉様先日⋯ユリウスさま?という方とお忍びで出かけられたそうです。地味な格好で、秘密で出かけて珍しくすっごく楽しそうだったって!!」
「へぇ、僕とは教会行事以外で出かけないのに、ユリウスと出かけるんだ」
ちょっと眉をひそめてセドリック様が不機嫌そうだけど、ソレは仕方ない。自分以外の男と自分の婚約者が出かけて楽しい人なんていない。お姉様は、化粧とかおしゃれとかそういうところで純粋な殿方の男心を分かってない。
「そこじゃありません、セドリック様。
お忍びで地味な格好をして外出することをお姉様が希望しているということです。それで、匂いのしない枯れた花束とか、紙みたいに薄い、ストールを買ってもらってたそうです。
庶民の生活をお忍びで、息抜きに楽しみたいのだろうと思ったのです」
「ああ、なるほどそういうことか。
彼女にも、聖女としての自覚ができたんだね。そういう地味な息抜きを希望するとは全く気づかなかった。
アン、ありがとう。本当にいい考えだね!」
キラキラと星が出ているのではないかと錯覚するほどセドリック様の王子様な姿にめまいがしたが、めまいでふらついている場合ではない。
「ふふふ、いい考えでしょ?
そこで、ジューンに何を買ってきたのかを調べてもらってます。
ソレが分かれば⋯セドリック様が何を買ったら良いのかわかりやすくていいでしょ?」
ニンマリと笑って返すと、セドリック様も笑う。
「そこは一緒に出かけて二人で選びにいこう。僕一人では⋯実は自信がないんだ。まともに受け取ってもらったことも笑ってもらったこともほぼないんだよね。」
悲しそうに笑う。いつも扉越しに声をかけては断られ、来られるたびに私へプレゼントを託し、バラ園からお姉様の部屋を眺めてはため息を付くセドリック様の姿を思い出し、胸がいたんだ。胸の前の手で服をギュッと掴む。ここまでお姉様のために心を尽くす人を放って置けるはずがない。ここで私は一肌脱がなければ!
「かしこまりました! まずは出かけて、贈り物を選ばないと」
「ああ、よろしく」
セドリック様に差し出された大きな手に私の手を重ねた。キュッと心まで掴まれた気がしてドキドキが止まらなかった。
それから私たちは誕生祝いは月末に決めた。月行事と教会の祈りの行事がたくさんあるし、流石にイリスティアお姉様とて貴族のたくさん来るパーティーに出ないとワガママも言えないようで全て参加していた。
そして最後に自宅で行われるパーティーを控えた数日前、私とセドリック様、それに頼れる私の頭脳のジューンとほかの侍女たちたちに協力してもらったり、厨房の料理人にも手伝ってもらったり、執事やお父様達みんなにも手伝ってもらって、最高の極秘誕生会を準備した。
二人で買い物へ行って選んだ庶民的なアンクレット。街の花売りが売ってるちょっと枯れたのも混じってる匂いの消えた色とりどりの花籠。
伯爵家の料理人と、侍女に頼んで運んでもらった料理と豪華なケーキ。
街の中の小さな店。
庶民的な飾り付け、みんなで一生懸命頑張った。
ジューンも、イリスティアお姉様が喜べばと、なんとぬいぐるみを作っていた。
みんなの気持ちがもう頂点まで膨らんで、爆発しそうなぐらいのワクワク感で満たされていた。まるで伯爵家全体がお祭りの前日みたいだった。
極秘誕生会のための庶民服を買いセドリック様と私の二人でお姉様を連れ出し、屋台を食べ歩き、たどり着いた店で拍手でお姉様を迎える。お店ではお父様とお母様も待機してくれている。
準備をしている私たちは最高にドキドキしていた




