アン王宮へ⑤
「残念ですが、手記の解読に至っておりません。ただ、山岳部のことと思える表現もありますし、他の野菜の育成についても書いています。あまりに手記の内容に一貫性がありませんので解読できないのが現状です」
セドリック様が悔しそうに手を握りしめ、眉をひそめて告げた。でもそれだけと言うが、それがわかっただけでも大事な事ではないだろうか。
「で、でも!昨日ユリウスお兄様がヒントを下さったので一歩進むことができたのです。
行き詰まった時に、すぐに教えてはいただけませんでしたが、少しづつ私達の学びを伝えることで次の段階を教えて頂けるのではないかと思います!
なぜなら、それがユリウスお兄様の大事なローゼリンデ様の夢であり希望であり理想だったはずだからです。あれほどまでに深い思いがあるのでしたら、ユリウスお兄様にとって私とセドリック様の成功は、彼の悲願であるはずです。協力してくれないはずがありません!!」
私もセドリック様を支えるように力強く訴えると、国王陛下が難しい表情をしたあと、ふうっと息を吐いた。
そしてセドリック様を見る。
「セドリック。どうやら、その娘とお前たちでなければできないことらしいな。
ユリウスは我々の要請に応じなかった。
力付くでと言うと奴は、命を捨てる覚悟を見せた。自分が死ねば今までの研究が露と消えることを知っていたからだ、何なら聖女の命ももらうとでもいいそうな気配さえ見せた。
そのままひっそりと田舎での研究に没頭していたようだが、あまり研究成果はこの3年進んでいないように思う。
だが、やつの今までの研究成果と、お前たちのローゼリンデの意思を継いだ覚悟があるなら、ヤツの協力とともにこの国の安寧につなげることができるはずだ。
やってみせろ、ユリウス、グランド家の娘よ。」
「はい!」
「かしこまりました、父上!」
私たちはぱっと目の前に光が射すような気配を感じた。目頭が熱くなって眼の前が見えなくてうつむいていた私は、静かにそう告げた陛下の隣で、王妃殿下がそっと目を伏せ、扇の陰でかすかに口角を上げた気がした。けれど俯いていた私は、その表情に気づくことができなかった。
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アンとセドリックが退室し、扉が閉まる。静まり返った謁見の間で、国王が低く唸った。
「……あの娘、父親を『伯爵』と名乗ったな」
「ええ。フレシュは代行にすぎません。名乗りを間違えたのではなく、本気で信じているのでしょう。きっと母親も」
「しかも家の本当の当主を『お兄様』と呼んで、契約まで結ばせたぞ」
しばし沈黙が落ちた。
「……何も分かっておらんな」
「ええ。ですが、その何も分かっていない娘が、あのユリウスの心を動かしたのです」
王妃は扇を閉じ、微笑んだ。
「分かっていなくて結構ですわ、陛下。そのほうが、使いやすいでしょう?」
終わり




