お姉さまの乱入
「焼き畑してから、焼いた貝の粉を撒いたらどうでしょう!」
今日は、グランド伯爵家の書斎に集まっていた。ユリウスお兄様には「もう集まるな」と言われたけれど、資料は持ち出せないし、貴重な本を傷めるわけにもいかない。お父様に何度も頭を下げて「今回だけ、短い時間で」と許しをもらった。手袋はもちろんつけているし、部屋の隅では司書さんが不機嫌そうに腕を組んで見張っている。
集まったのは、セドリック様とルビトール様、それにマレクさんと私の四人だ。
ルビトール様の思いつきに、私は思わず手を叩いた。さすが大公家のルビトール様、着眼点が違う。
「どうやって?手で撒くの?」
私が聞くと、マレクさんが得意げに胸を張った。
「そこは魔術を込めた道具を使いましょう。開発は僕にやらせてください」
「資金は何とかするよ」
セドリック様まで乗り気になってくださって、なんだか胸が熱くなる。皆が力を合わせれば、きっとどんなことでもできるんだと思うと、頑張ってきて良かったと思えた。
「そうだ、もしかしたらユリウスお兄様なら、いい道具を持ってるかもしれないから私聞いてみます!」
いい思いつきだと思って弾んだ声で言った、その時だった。
「やめて!そんなことしたら大変なことになるだけよ」
廊下から、足音と荒い息づかいが近づいてきたと思ったら、乱暴に扉が開いた。
飛び込んできたのは、お姉様だった。
お姉様が部屋から出てくるなんて珍しい。ここまで走ってきたのか、扉の枠に手をついて肩で息をしている。顔が真っ青で、何かにひどく怯えているような様子だった。
「え?お姉様?……急に何を言ってるんですか?」
せっかく良い方向に話が進んでいたのに、水を差されて戸惑ってしまう。マレクさんも心外そうな顔をしていた。
「素人が何の用ですか?」
その一言に、お姉様の顔がますます強張った。せっかく専門家のマレクさんが判断してくださっているのに、お姉様は納得できない様子で、なおも言い募ろうとする。
「イリスティア、怖いのはわかるけど、やめてくれないか? 君の気持ちはわかるけど、これは国と君のためでもあるんだ」
セドリック様が、努めて優しい声でお姉様をなだめてくださった。ああ、この方は本当にお優しい。婚約者にこんなにきつく当たられても、まだ心配してくださるなんて。
だけどお姉様は、それでも引き下がらなかった。
「何が、私のためなの?!私の大事なノートや貴重な書物をそんなに汚して何をしているの? それに、焼き畑や消石灰は活用が複雑で……」
「イリスティア!」
セドリック様の声が、珍しく強くなった。
「君の立場が危うくなる研究をしてるのは理解してるけど、だからといって邪魔しないでくれ。ノートを隠していた責任は問わない。これが僕が君にできる精一杯の温情だ」
その言葉に、お姉様は何も言い返せなくなったようだった。唇を噛んで、私たちを――いいえ、私を睨みつけると、何も言わずに部屋を出て行ってしまった。
しん、と静まり返った部屋に、気まずい空気が流れる。
「……ごめんなさい、お姉様、また具合がよろしくないみたいで」
私が謝ると、皆、気の毒そうな顔で頷いてくれた。
せっかくルビトール様が良い案を出してくださったのに。せっかく皆が前向きになってくれていたのに。どうしてお姉様は、いつもこうやって水を差すのだろう。
大事なノートだって言うなら、最初から見せてくださればよかったのに。隠していたご自分を、私たちのせいにするみたいに怒鳴り込んでくるなんて、あんまりだと思う。
セドリック様が「責任は問わない」とまで仰ってくださったのに、お礼の一つも言わずに出て行ってしまうなんて。
――やっぱり、お姉様は少し、情緒が不安定でいらっしゃるのかもしれない。
そう思うと、なんだか胸が痛んだ。婚約者のセドリック様にまで、あんなにきつく当たってしまうなんて。誰か、お姉様の心に寄り添える人がいたらいいのに。
私にできることは、せめてこの計画をきちんと成功させて、お姉様にも安心してもらうことだ。
そう思い直して、私は気を取り直し、皆に向き直った。
「さあ、続きを考えましょう!」




