天才魔導士①
今日も必死にローゼリンデ様の手記を前に、慣れない専門用語と睨み合っていると、書斎の扉が控えめに叩かれた。そして、不機嫌そうな司書さんに連れられて片手を上げて陽気なカルネオさんとセドリック様が現れた。
「アン嬢、捗っているか? ルビトールが客連れて来てるぞ」
相変わらず元気そうなカルネオさんの横に、苦笑いのセドリック様。その後ろから、ルビトール様も姿を見せる。もうひとり知らない人がいて誰か全く予想がつかなくて首をひねっていると、4人が椅子に腰掛ける。
「すみません、急に押しかけてしまって。実は、紹介したい人がいまして。伝令にはセドリックに頼んで、グランド伯爵家の書斎に集合するようお願いしたのですが」
「え、私、聞いてないですけど……」
「うん伝える暇がなくて、本当にごめんね」
「セドリック殿下……。まあ、いいでしょう。ちょうどいい機会です」
そう言って、ルビトール様が悪びれもせず笑う横で、セドリック様が苦笑いしている。カルネオさんは新しく来た人をじーっと見ている。気になって仕方ない様子だった。
「カルネオ様も、良く来られてるんですか?」
「最近良く来てる。というかセドリックのお供みたいな感じだよ。あとは、肉体労働要員?」
そんな会話をしていると、ルビトール様の隣りに座った緊張した面持ちの青年が私と目が合う。居住まいを正すと、一礼したので、私もペコリと頭を下げた。
「彼が、マレク=ニ=マリット。同世代の中では飛び抜けた天才魔導士です」
「よろしく……お願いします」
「実は、政府関係の書類に目を通していたときに、彼の名前を見つけたんです。同世代でこれほど優秀な魔導士は他にいない、とすぐに分かりました。それで、直接お会いして口説きました」
悪気なく、あっさりとルビトール様が続ける。自己紹介がくすぐったいのか緊張した様子でマレクさんが頬を染めた。
「『君に必要なのは実証実験だ。大公家なら、その場所と新しい技術だけでなく、天才と呼ばれたローゼリンデ様の残した魔法陣も見ることができるよ』――そう伝えたら、すぐに頷いてくれたんです」
「え、そんなことまで言ったんですか?」
思わず声が出た。マレクさんは、少し照れたように頬をかいている。でもまさかローゼリンデ様の手記がそんな凄い人を連れてくるなんてびっくりだ。ますます、すごい人だったんだなと感心する。
「本当に、ローゼリンデ様の魔法陣が見られるなら光栄です。僕の知識が生かせる場所を提供してくださるなら、精一杯務めます」
真剣な様子のマレクさんを見て、私は少し誇らしい気持ちになった。仲間がまた一人増える。ローゼリンデ様の意思を継ぐ会に、ふさわしい人材だと思った。
「ところで」
黙って話を聞いていたカルネオさんが、ふと口を開いた。
「魔法陣ってそんなに凄いのか? 俺には、ただの落書きにしか見えないんだが」
その一言に、マレクさんが目を輝かせる。




