謝罪行脚と喫茶店⑥
「そうだよ。聖女様が“気分が悪くなるから厨房の人間を総入れ替えしろ”って言ったんだと。聖女様が嫌がるものをだした最低の人間だって言うことを言われたよ。
でて行けってすぐに追い出されたよ、紹介状も出さずにね。
私たちがどれだけ困るかなんて、考えもしないで」
おばさんの目には怒りと涙が混ざっていた。でも顔を上げると、優しい顔に戻ってそっと私の手を握ってくれる。その手は震えていた。
「アンお嬢様……あんたは悪くないよ。
でも、あの屋敷は……聖女様は……人の心なんて見てない」
私は思わずおばさんの手を握った。
「ごめんなさい……私、何も知らなくて……」
おばさんは首を振った。
「アンお嬢様が謝ることじゃないよ。
でも……紹介状、本当に助かる。
これがあれば、また働ける……」
カルネオさんが最後の紹介状を渡した。
「ほら。王家の封筒だ。伯爵家が何言っても関係ねぇよ」
おばさんは涙をこぼしながら、何度も頭を下げた。扉が閉まったあと、私は胸が痛くて、歩く足が少し震えた。
カルネオさんがぽん、と私の頭を撫でた。
「ほら、アン嬢。泣くなって。」
「泣いてません……」
「はいはい。じゃあ。喫茶店に行こうぜ!
俺の婚約者がいってたんだ。今人気で、貴族が殺到してる店があるんだって。いいじゃん、頑張ったご褒美に俺が奢ってやるよ」
ニカッと笑って、行き先を馬車に告げて、有無を言わさず私を馬車に押し込む。私は言葉を失った。
カルネオさんは無神経で、雑で、時々ひどい。
でも、こういう時だけは、私が聞けないことを全部聞いてくれる。
それが、少しだけありがたかった。
貴族御用達の店が並ぶそこには、オープンカフェがあった。2階席以上は、予約らしくて、私たちは空いている席を用意してもらいそこに腰掛けて、1時間ほどで馬車に迎えに来るように告げて中にはいった。
メニューを見ようとするけど、それを止められた。
「女の子っていうのは選ぶのが長い。待てねぇんだよ俺。
…女の子の一番人気の菓子と飲み物、俺は男の一番人気の飲み物一つ」
そう店員に告げると、さっさとメニューを押し付けて店員を追い払った。あまりの速さに呆然とする。
「せめてメニュー見たかったです」
「いいんだって、周り見ろよ皆同じなの頼んでるじゃん。結果同じなんだって」




