謝罪行脚と喫茶店⑤
おばさんの顔が強張る。
私は慌ててカルネオさんの袖を引っ張った。何軒か回ってからはカルネオさんはむっつりと黙ってしまってて、その不機嫌そうな様子が威圧感がすごかった。ここに来てなんで前に出てるのか理解できない。
「ちょ、ちょっとカルネオさん……!」
「アン嬢は聞けねぇだろ。俺が聞く」
カルネオさんは腕を組んで、真正面からおばさんを見た。
「聖女様に何された? お前ら、急に解雇されたんだろ。理由は?」
おばさんは、ぎゅっと拳を握った。周囲に人が立ち止まり始めているから注目されてて恥ずかしい。でも、カルネオさんに履かんけない様子で、じっとおばさんを見ている。
「……理由? 理由なんて……横暴以外にないよ」
胸がざわっとした。横暴?お姉様はこの人になにをしたっていうのか? 悩む私を放置して、カルネオさんはさらに踏み込む。
「横暴って具体的に言え。アン嬢は知らねぇからな。ちゃんと教えてやらないと、次はアン嬢が同じような目に合うかもしれないだろう?」
おばさんはハッとした表情をしたあとに、怒りを押し殺したような低い声で言った。
「……食事全然食べなくて、このままじゃいけないと思って私が持ってたんだ。食べてほしくてあの料理がどれだけ皆の気持ちがこもってるか知ってほしくてさ。
それで、アンお嬢様が一生懸命準備したパンを“ゴミが入ってるからいらない”って言ったんだよ」
私は息を呑んだ。
「パンにゴミなんて入ってません……!」
「分かってるよ。あれは、焼きたての一番いいやつだった。
でも聖女様は、パンを見ただけで顔をしかめて、皿ごと押し返したんだ」
胸が痛くて、呼吸が浅くなる。ゴミなんて入れてない。ゴミなんて渡してない。渡しがおばさんを含めて厨房の人に渡したのは、ハーブだ。胃の調子が良くなるハーブで、結構アチコチに生えてて平民でも手に入りやすくて、お腹がいたいときは渡しも良くお茶に入れて飲んでた。
強く育ったほうが良いと思って庭の畑で一緒に育てて、わざと手入れしないで野生化させてたハーブだ。
おばさんは続けた。
「スープもだよ。アンお嬢様が選んだハーブと野菜を丁寧に煮込んだスープを、“臭いからいらない”って一口も飲まなかった」
「……そんな……」
「“こんなゴミは嫌だ”って言ったんだよ。
アンお嬢様のことを、平民上がりだからって馬鹿にしてた。アンお嬢様が裏庭で育ててやっとできたほんのちょっぴりの野菜を、新鮮でいいと思ってだしたのに、全部ゴミで臭いって!
あんたがどれだけ頑張って準備しても、聖女様は全部ゴミ扱いだった」
胸がぎゅっと締め付けられた。私の野菜。綺麗にできたから、虫がつかないように殺虫剤で駆除して、栄養をたくさんあげて、毎日見にいいってボブおじさんにもお願いして、できた分を全部お姉様に上げたのに、ゴミだったのね。
カルネオさんが、低い声で言った。
「……それで解雇か?」




