謝罪行脚と喫茶店
家庭教師の先生との勉強日、先生もちょっと落ち着かない様子だった。それもそうだと思うけど、家のことを自分から話すのはマナー違反と聞いたから、先生の意見も聞きたかったけどなにも言えなかった。
「あの、お嬢様。屋敷の方に聞いたのですが、聖女様はご体調がよろしくないとは本当ですか?
もしそうならその、お見舞いをさせていただきたのですが。お取次ぎお願いできますか?」
先生から話しかけてきたのでてっきり使用人のことかと思っていたからびっくりした。お姉様、体調悪かったっけ?それについてはジューンに聞いてないから分からない。
「先生、私は聞いてないのでわからないんです。仲の良かった侍女たちは居なくなってしまったし」
しょんぼりしていると、先生もしょんぼりと肩を落とす。
「そうですか。でも、仕方ないと思いますよ。
聖女様がいらっしゃって祈りがあるから、豊穣が約束されます。聖女様が祈ることができないご体調になったということは、今年の麦の出来だけでなく、国内の野菜や、草を食べる生き物たちも栄養がでます。
聖女様は私達の生活を守ってくださっているのです。十分なお世話をしなくてはなりませんし、それを怠っては罰を受けるのは仕方のないことかと思いますよ」
「先生!先生までなにを言うの!!」
先生の発した言葉に、息が止まりそうなほど驚いた。先生までお姉様の味方になるなんて思わなかった。先生は、お姉様がどれほど横暴なのか知ってるからきっとわかってくれると思っていたのに。
「いいですかお嬢様。
聖女様の性格や行動などよりも、聖女様が祈るということが大事なのですよ。聖女様が祈らないと沢山の人が死んでしまう可能性があるのです。そのために、気持ちよく生活してもらう必要があるということです。
アンお嬢様は、大変優秀でいらっしゃいますのでご理解いただけますよね?」
先生が困ったように笑うからちょっと納得して席についた。
なるほど、祈らないと私達や平民、国のすべての人に迷惑がかかるから、お姉様が気持ちよく生活してもらえるように皆が努力しないといけないのか。
でも、それは正しいの?
胸のもやもやは晴れることはない。ただ増えた。
聖女を知るほどに、もやもやが増えてゆく。
「先生。その聖女様が、屋敷の使用人を嫌いだからって解雇して紹介状がもらえないとどうなるの?」
「……紹介状がない場合。悪いことをして仕事を即日やめさせられたと判断されます。伯爵系の場合、聖女様がおられるので聖女様のお世話ができなかった。だからご病気になり今療養中ということですね。
紹介状がないとその原因と思われる可能性があるので、普通の貴族様のお屋敷にお努めはできなくなるでしょう」
悲しそうに目を伏せて先生が話をした。そしてその様子が私の胸を一層強く苦しめる。
お姉様、貴方知っていて、私の中の良い使用人の皆や、厨房の皆を解雇したの?
帰ってこない質問が、私の呼吸さえ奪おうとしていた。
先生が帰ったあと、一人で図書館に入り本を見ていると咳払いが聞こえた。振り向くと新しい司書のおじいさんがいた。
眺めていると、ひどく険しい顔をしている。
前の優しい司書のおじいさんとはぜんぜん違う。
「こちらの所蔵している本は貴重な本が多いことはご存知ですか?」
「え?はい。ローゼリンデ様が購入した海外から集めた本だって聞いてます。」




