新しい出会い①
私が一人で辞書片手にうなりながら新しく自分用に申請して買ったノートにいろいろ書いてそこでそれらしい文字になったところで、写本に書き込むという作業をしていると、新しい図書館司書のおじいさんが、セドリック様と筋骨隆々のいかにも騎士ですっていう男性を連れてきた。鋭いまなざし、短く借り上げられた髪、きりりと男らしい眉を見て、また男前が増えたって思って眺めた。
貴族というのは男前じゃないとできないのかと疑ってしまいたくなるほど、凄く格好いい人が多い。黙っていると、セドリック様が困ったように、隣の男性を紹介してくれた。
「アン、これはカルネオ。いい人勧誘しようと思ってたらついてきてしまったんだけど、一応騎士団長の息子で腕はいいから護衛になってもらうのと、そういう関係に顔が広いから頑張ってもらう予定だ」
「初めましてかわいらしいレディ、俺はカルネオって呼んでくれ。君みたいにかわいい子だったらカルネオお兄ちゃんでもいいぞ」
「か、かわいいなんて!」
「辞めろカルネオ、アンを困らせないでくれ」
勢い良く椅子から立ち上がって、急いで服で手を拭いた。そして目の前に差し出された男らしくて分厚い手を眺めて、それから顔を上げると本当に驚くほど背の高い屈強な大男でぐっと顔を上げて見上げて手を差し出す。
「ア、アンです。伯爵家の2番目の娘です。よろしくお願いします」
恐る恐る出した手はそっと握られた。見た目は大きくて岩のようだけど、繊細な方なんだとか思いながらへらりと笑うと、カルネオさんも笑ってくれた。
「挨拶はいいから、腰かけて。アンは今何を?」
「あ、えっと。色々分からない事が多すぎて、この辺の文字なんですが…。もう何語なのかさえさっぱり」
「これは、たぶん。ビリディ語じゃないかな? 隣国で海運業が得意だったように記憶しているよ」
「すげーなさすがセドリック見たらすぐわかるんだ!」
「騎士貴族なのに分からないおまえが普通じゃないんだよ。海軍とかそっち系で色々聞くだろ?」
「しらん。誰か知ってればそいつに聞けばいいじゃん」
きっぱりと言い切るカルネさんにセドリック様が頭を抱えた。
「学んでくれ。少しぐらいは、じゃないと仲間でいられないよ。」
「お前らが頭脳、俺が手足でいいじゃん。力仕事とか遠方に行くときの護衛だったら俺や俺の仲間の騎士団が頼れるし、それ以外は得意な奴がいるからいいんだよ」
なるほど前向きだ。私もそう思う。向き不向きはあると思う。私も自分の手を見ていると、この手であの大きくて分厚い手が同じ仕事ができると思えない。ふと顔を上げると二人が楽しそうに言い合っている。セドリック様が自然な表情で苦笑いしているのは、すごく不思議な光景だった。
そこまで見ていて、ふと、思い出したことがあって、気持ちが沈んだ。
私も楽しくそうやって気兼ねなく話していた人…カーラがいたのに、先日の旅行後にはいなくなってて、紹介状も貰えてなくて大変なことになっていると思うとどうしたらいいかわからない。相談したくてもお父様に拒絶されると、私は誰に何を言えばいいのかわからなかった。
「アン?どうしたんだ?顔色が悪いけど…」
「泣くのか?女の子はすぐ泣くな」
「お前は無神経なんだよ。優しくしないといけないだろう。」
「だってすぐ泣くじゃん。言いたいことつい口から出るのは俺の性格だから慣れればいいのにさ。で、何?何か聞いてほしいから泣いてるんだろ?」
「だから…」
「そうなんです。聞いていただけませんか?
悲しいことがあたけど、私一人での解決ができなくて・・・」
そういって、私は涙をこらえて、二人の男性をきゅっと唇をかんで見つめた。
そして、私が家に帰ってから使用人のほぼ半分は解雇されたこと、紹介状さえない事、聖女法がある以上聖女が嫌がる人はこの家に置けないとユリウスさんに言われたことを伝えた。
「何だよそれ!横暴じゃねーか!よし、俺がガツンと聖女に言ってきてやる!」
「ダメなんです。お父様にもお伝えしましたが…。
お父様はユリウスさんの意見を尊重されてしまって。どうやら聖女法と言うのは、聖女に酷いことした人は、近づけたりできなくできるっていう法律みたいなんです。
調べろと言われても、私には分からなくて、まだ本は見てません」
「でもさ、嘘かもしれないじゃん。やっぱり俺がガツンと言って……」
「本当だ。聖女法は存在する。待ってて」




