天才を求めて③
こうして私たちが、大公家の情報を使ってユリウスさんの居場所を特定したのは、この日から2日後だった。
伯爵家で集まるのはこれ以上良くないと判断した私たちは、場所を静かな個室がある喫茶店に変えた。そこで、私を呼び出したルビトール様とセドリック様が1枚の封筒を差し出した。
「コレは?」
「調べてみたら、王都の父の執務室にも残っていたんだ。大公殿下、つまり父上あてに以前ユリウスが出した手紙を拝借してきた。」
「……これは、グランド伯爵家の土地か」
「そうだ。どうやら聖女の力の届かない土地という記述があったのを思い出したんだ。それで調べてみたんだ。こちらの地図を見てほしい」
そう言って広げた地図。底に書かれた赤い丸や黒い丸。なにが言いたいのかわからなくて、ルビトール様を見る。
「ふふ、これも父の執務室にあったものだよ。これは、昔母上に教えていただいたのだけど、聖女の祈りは国に広がるように、効率良く大きな教会が建ってるんだ。
そして、この黒い丸が聖女の力の広がりらしい。
母上は体が弱くて結婚してからなくなるまで大公領から出ることができなかった。だが、祈りを全土に届けることができた。
なぜだと思う?」
「……波紋?」
「波紋?」
パチンとルビトール様が私の答えた言葉に指を鳴らす。セドリック様はまだわからなさそうな様子だ。だが私はわかってしまった。
以前読んだ時に書いていたからだ。急いでカバンから何度も読み返し、色々と書き込んでちょっと汚れてきたノートを取り出し、ページを捲り、指を止めた。
「あった。”聖女の力は水の波紋のように広がる”確かに書いてあります!ルビトール様!」
「そう、祈りの力は全土に広がる。でも、それが届かない場所がどうしても存在して、それが…この赤い丸の場所だ。」
「そうか。聖女の祈りの力が届かない場所で、聖女の力がなくても土地が豊かになる研究をしていたということか!」
「……、亡くなった母を愛した父が、色々頑張ったようだけど、僕は男だしね。聖女になれなかった。
でも父の努力で、僕の領地も少しは良くなったんだよ。
僕は、君たちの努力を支援したい。
母のために、僕のために、父のために!
領地を豊かにしたい。一緒に頑張らせてくれ」
そう言って、頭を下げるルビトール様をどうして良いのかわからなくて困っていると、セドリック様が、彼の肩を叩いた。
「大丈夫。もう仲間だろう。君にはこの難読な資料を読んでもらう仕事もあるし、大公家が色々と農作物の栽培に成功している噂は聞いている。
だから、期待してる。
実際僕も、この手記には困ってて、君がいないと困るんだ。
なにせこれ、わかってるだけでも走り書きとか大事なところで5か国語は使ってるんだ。ひどい話だろう?」
「え?5カ国って……本気か?」
そう言って二人で笑った。
私も釣られて、一緒に笑った。
「さて、では作戦をねって、今度噂の天才ユリウスに会いに…」
「僕はいかないから二人でどうぞ」
「え? 2人って、それは……」
「僕は一度大公領に戻って、使える資料とか色々探したり、農地の管理者や父に色々聞いてくる。
実地調査は大事だろ?」
そう言ってウインクしてるそのキラキラの顔に、一瞬だが顔が赤くなる。
何、この色男!!
「わかった、頼む。では僕らは、遅くとも3日以内には出かける」
「え? そんなに早く?!」
いきなり外泊なんてお父様が許してくれると思わない。どうしたら良いのか分からないし、それなら私も事態すべきなのかと混乱するが二人の男性は私のことなど忘れたように話を進める。
「ああこれは急ぐべき案件だ。
外泊の理由は地方視察でいいだろう。ちょうどグランド領の視察をしたいって国王陛下に依頼していたんだ。
気になることがあって。」
「気になること?」
「ユリウスか?」
「そうだ。父上もユリウスを知っていた。母上もだ。二人とも難しい顔をしていたけど。
2年後、聖女が18歳になった月に結婚するなら、今のうちに彼にあったほうがいいと言われていたんだ。
会う日は、王家で段取りをとる段取りになっている。
それまではグランド領を一度見て回って、彼が何をしているのかを先に知るのも良いことだと言われている。
だが、僕は18歳。子供ではないからな。少し早いが、彼に対面させてもらうことにする
居場所をルビトールが探してくれたし、こんなに早く見つかったということは、早く動けということさ」
「そうだな。100キロほどの道のりだ2日は片道かかるぞ」
「大丈夫だ。それぐらいは視察ということで準備を進めていた。問題ない。ちょっと日程が前倒しになっただけだ」
「ちょ、ちょっと待ってください。私は今回は無理です!」
慌てて二人の会話に割り込む。
2人はキョトンとして私を見つめ返すが、そんな二人の男前に見つめられても駄目なものは駄目だ。お父様の許可なしにまだ14歳のうら若き乙女の私が、男性と外泊なんて許されるはずがない。
「言い忘れていたけど、グランド伯爵家に案内役を依頼している。それが君だよ、アン。これで堂々と一緒に行けるし、護衛も侍女も居るから二人きりではない。大丈夫だ」
「そうだな。では失礼する。僕も早速準備して明日にはでたい。
吉報を期待しているよ。
2人で何としても、国一番の天才を口説いてきてくれ」
「ああ、任せておけ」
「えええ、それ、大丈夫なんですか?」
二人の自信とは裏腹に、私はドキドキが止まらない。
初めての王都の外への外出と、自分の領地の視察を兼ねた天才の勧誘と。
セドリック様との外泊に、私は、不覚にも予感にワクワクしていた。同じように、お姉様への謝罪の気持ちで、私の胸は大混乱に陥っていた。
大丈夫、これは、お姉様のためでもあるのだから。




