天才を求めて②
バン!と勢いよく図書館の扉が開かれ、お父様が怒気を含んだ顔で飛び込んできた。髪と服装が乱れており慌ててここまで駆けつけてきたのだろう、肩で息をしたあと、お二人を見てがっかりしたような、恐ろしいものを見たような表情をする。
必死の形相で、私とセドリック様、そしてルビトール様を交互に睨みつける。
「セドリック殿下、それにアン!年頃の男女が連日部屋にこもりきりなど、使用人たちの間でどんな噂になっているか分かっているのか!いい加減にして下さい!
セドリック様も自重していただきたい。貴方様は、イリスティア聖女様の婚約者なのです。
しかも、今日は大公家のルビトール様まで……
このままでは、アンの嫁の貰い手にまで影響が出ます!」
「お父様、違います!」
私はすぐさま立ち上がり、テーブルの上のノートをお父様の目の前へと掲げた。お父様が嫌そうな表情でそれを見ていたが、ふと何かに気づいたような表情をしたあと、目を見開き震える。
「ま、さ……か。そんなまさか…」
「私たちは遊んでいるのではありません!
これは、前のお母様が遺された大切な手記なのです!
この国を、そしてお姉様を救うために、私たちはこの高度な知識を解析しようと――」
「なっ……!?」
私の決意を目にした瞬間、お父様の顔からさっと血の気が引いた。
震える手でノートを奪い取り、開かれたページを凝視する。その目は見開かれ、呼吸すら忘れたように硬直していた。
「こ、この筆跡は……! ローゼリンデ夫人の……!?
いや、バカな……なぜお前がこれを持っている!?」
「お父様!大公家のルビトール様でも、すべてを読み解くのは難しいとおっしゃるのです。でも、これを完璧に理解できる人が一人だけいると……!」
「黙れ!!」
お父様が腹の底から絶叫した。今まで見たこともないような、恐怖と怒りが混ざり合った恐ろしい顔だ。お父様は私の両肩を強く掴み、がくがくと揺さぶった。
「……あいつは。あいつには関わるな……!
ローゼリンデ夫人の思考や研究を理解できた人間など、この世に一人しか存在しない!あんな化け物、絶対にダメだ!関わってはならんと言っただろう!!
だいたいなぜお前がこれを持っているんだ!
奪ったのか? なぁ、答えてくれアン!!
聖女様からこのノートを盗んだのか!!」
「ち、違いますお借りしたんです。それに……化け物って……?」
「ユリウスだ!!
あいつだけは絶対に刺激するな!!
いいかアン、そのノートを今すぐ聖女様にお返しするんだ!
そして、ユリウス様に近づくことなど、断じて許さんぞ!!」
お父様は青ざめた顔でそう言い捨てると、ハァハァと荒い息を吐きながら部屋を去っていった。
重苦しい沈黙が落ちる図書館。
けれど――私の胸の中には、まるで太陽が昇ったかのような明るい閃きが満ちていた。
ユリウス……!ルビトール様もお父様も、同じ名前を言ったわ!
お父様は「化け物だから近寄るな」なんて怖がっていたけれど、それはお父様が心配性だからに決まっている。
だって、そのユリウスさんという人さえ味方にできれば、このノートの全貌が解き明かされて、国中の人が幸せになれる。
「……セドリック様」
私が振り返ると、セドリック様もルビトール様もまた、決意に満ちた目で私を見つめ返してくれた。
「ああ、分かっているよアン。僕たちでユリウスと言う人物を探し出そう」
「はい!私たちが一生懸命にお願いすれば、きっと協力してくださるはずです!」
「そうだね。僕も大公様が今でも手紙のやり取りをしていると聞いたから、ちょっと調べてもらうよ。任せてくれ」




