手記
翌朝になり、お父様とお母様の揃う食堂で、二人が渡しをじっと見ていた。昨日食事を抜いていたから心配しているだろうし、何よりお姉様の部屋の前でセドリック様も声を上げで長く戸を叩いていたから気になるんだろうな、とは気づいている。
「あ、あの昨日のことですが」
「え、ええ。聖女様に貴方すごく迷惑をかけてたんじゃないの?大丈夫?聖女様は大事にしないと」
オロオロとしながら母が父を見た。
父も母を見てソワソワしている。
似た者夫婦だなって思う。
二人ともこんなにお姉様に気を使ってるのに、お姉様は本当に、お子様ね。
「お姉様が昨日本を読んでいたの。
その本が、ローゼリンデ様の研究の成果を書いた手記じゃないかって話があって。それでどうしても見せてほしくてセドリック様と頼んでたの。
でも、お姉様が凄く嫌がって。
セドリック様も奪おうとしてるんじゃなくて、少しでいいから見せてほしいって言ってたんだけど、どうしてもイヤだって⋯」
「え?夫人の?そんなバカな!彼女の全てはユリウス様が」
「ユリウス様?それはどなたですか、貴方?」
「え?あ、いや。ユリウス様は夫人の後継者だよ。たぶん、この国で一番夫人を大事に思ってて、夫人もユリウス様に全てを引き継いだぐらいだからね。
ただ、夫人に劣ると言われているけど⋯⋯。
二人とも、お願いだからユリウス様に近づかないでほしい。
彼は、化け物だ。
ユリウス様はローゼリンデ伯爵夫人の後継者にふさわしい、化け物だ。
未来を見通す目を持ち、人の心を読む。
理性はあるのに、倫理観は欠落してる。
恐ろしい人だ」
ガタガタとお父様が震えている。
そんなこと初めてで、私は底しれない恐怖をそのユリウス様という人に感じていた。お母様も、震えるお父様の手を取り、震えていた。
朝食を終えて、しばらく自室で勉強していると、お父様が部屋に来た。私の部屋に来るなんて珍しいなと思いつつ招くと、お父様がソワソワした様子で、私を見た。
「その、アンがいうから、一応、聖女様に本を貸してもらえないか聞いたんだけど、やっぱりだめだと言われたんだ。
それで、どうしてもだめらしいから、これからは聖女様を困らせないように、本が欲しいって言わないでくれないかい?」
額に浮く汗を拭きながらお父様が必死に私に謝罪のようなことを言う。お父様にこんなふうに言われるお姉様に呆れた。
と、同時に、ローゼリンデ様が頭がいいのかしれないけど、やっぱり人間だし、頑張れば追いつけるかもしれないと希望を持っている。
私一人でだめだったら、沢山の仲間を集めれば、できないことはないはずだ。
幸いなことに、伯爵家の図書館はセドリック様でも凄いって言うほどの土地や植物、肥料なんかの本がある。たくさんの本をあつめたのはローゼリンデ様だと言うなら、その本に答えはあるはずだ。
時間はかかるかもしれないけど、私は、負けたくない。国のセドリック様のために、ローゼリンデ様に追いつきたいって思った。
「大丈夫よお父様。お父様が一生懸命になってくれて嬉しいわ。
迷惑はかけない。
それにあれだけ本がたくさんあるんですもの、図書館の本、全部活用して、偉い人を沢山人を集めて一緒に考えて貰うわ!」
「うん、ありがとうアン。君は本当に優しいいい子だね。
君の夫になる人は、さぞ幸せだろうね」
目を細めて笑うお父様の愛情がくすぐったくてエヘヘと笑い返す。二人で笑い合い、カーラの準備してくれたお茶を楽しんだあと、お父様はご用事があるからと去っていった。
さぁ続きの勉強でもしてようかなって思っていたら、静かにノック音が響き。返事をすると真っ青で震えているジューンがいた。
そのただ事ではない様子に、驚き急いでカーラにお茶の準備をさせる。そしてカーラと二人で落ち着くように言うが、ガタガタと震えが止まらない。なにかに耐えるようにじっと口を引き締めていた。
「お、お嬢様。お嬢様。私、私は!」
「うんうん、落ち着いて待つから、私貴方が話してくれるまで待てるよ」
「そうよジューン、一体どうしたの、そんなに震えて。お腹痛い?どこか痛いの?
もしかして、聖女様になにかされた?」
カーラの問いかけに必死に頸を左右にジューンが振った。
そうやって、1時間以上過ぎた頃、ゆっくりと深呼吸して、覚悟を決めたようにジューンが私を見た。
「⋯⋯深刻そうだね。私、外に出てようか?」
「だめ!貴方も聞いてて証人としてここにいて欲しいの!」
「うん? 証人?何を証人になるの?」
カーラがそう言うと、決意したように、服の中に手を入れて、そっと一冊の本を服のしたからジューンが取り出した。
「⋯⋯お嬢様と王子殿下のお求めになった。
イリスティア様のお持ちの本です。お二人のご様子と、お話からどうしても必要だと、おっしゃっていたので⋯⋯。
あああ、私は最低の侍女です。
ローゼリンデ様お許しください。それでも私は、私は!!」
泣き崩れたジューンをカーラが抱きしめてないていた。
大丈夫と繰り返してその背中を撫でている。
私は、床に落とされたその本を拾い上げる。
そしてゆっくりと拍子を開くとその文字に目を見開いた。
『土壌改良と肥料。聖女の力を活用しない農耕理論』
コレだ。私が知りたかったこと。
ローゼリンデ様の研究記録、そこには国を救う未来が書かれていた。




