国の希望①
「⋯ということがありまして。」
今日も今日とて、扉の前で追い返されたセドリック様を捕まえて、図書館にお連れした。お姉様が良く読んでいるという本が並ぶ本棚の前に二人で立ち、本を選んでもらい、各々本を読みながら時間を潰して、私のわからないところを教えてもらっていた。
ついでに昨日の話をする。
するとただのボヤキに、相槌でも来るかと思ったら、セドリック様が手を止めてまっすぐにこちらを見ていた。
「聖女の力の広がりが波紋だって?
聖女の力のない、土地改良だって?
君は、何を⋯⋯、いや考えられる。
確かローゼリンデ夫人は天才で、聖女の力だけに頼るのはおかしいと言っていて。
まさか、彼女の研究は、まだ続いていたのか?
彼女の死とともに、消えたと思っていたけど、その記録があったというのか?
まさかそんな⋯⋯」
口元を手で覆い、何かの衝撃を受けたように、セドリック様が語り始めた。どういう意味かわからない。説明してほしいけれど、セドリック様はなんだか声をかけてはいけない様子だった。
「アン!!本当に見たのか?そう書いていたのか!」
ガシッと両肩を掴まれ揺さぶられる。
驚いてされるがままになりながらも必死に頭を前後に振って肯定すると、ようやく手を離された。
「凄いぞ!もしそれがローゼリンデ夫人の記録だったら世紀の大発見だ!」
「その、ローゼリンデさんとか、大発見ってなんのことでなんですか?分かるように説明してください」
すがるように言うと、セドリック様が嬉しそうに笑って、一つ咳払いをしてから長い話だと言って話が始まった。
昔私たちの住む国は凄く貧乏で、作物が育ちにくい土地だった。
できてもほんの少しで私たちの先祖は少ない食べ物を分け合って生きてきた。
そんな私たちを可哀想に思った精霊たちが、ある少女に沢山の魔力を与えてくれた。それが聖女の始まりだ。
聖女は精霊の加護付きの魔力を大地に込めるとその地は精霊の力で元気になり、沢山の作物ができるようになった。
少しづつ人が増えると、今度は聖女の魔力をあっちこっちで大地に込めるようになったけどそれでは間に合わなくて、作物は取れても少しになってやっぱり国は貧乏なままだった。
そんなある日、精霊様が聖女に言った。
『教会を建てて、聖女が祈りなさい』
と。そして祈りを捧げると、光が教会を包み、教会から次の教会に波紋のように精霊の加護の魔力が広がり、次々とその力が広がった。そして国に教会を建てるほど、その力が広がった。
聖女の祈りが、この国を実りある豊かな国にした。
「おとぎ話じゃなかったんですか?」
「半分はね。もう半分は本当だ。少し待ってて」
そう言ってセドリック様が立ち上がり、図書館の司書に色々聞いたあと、本棚へと消えていった。しばらくして戻ってきたときには数冊の本を手にしていた。
隣同士にソファーに並び、一緒に一つの本を覗く。
「コレは、聖女の力を効率よく使うための方法を書いているんだ。
この本があるのは伯爵家に聖女が生まれたからだね。
普通の人は知っちゃいけない話だから。
話の考え方によっては、僕たちは聖女の命を利用していると思われかねない」
「お姉様の命を?」
「聖女は、祈りを捧げるようになると、魔力が取られるから体が弱るんだ。だから婚約者に選ばれたら、聖女が苦しまないように支える役目を持つんだよ。
はは、僕は失格だけどね。
扉も開けてもらえないし、プレゼントも受け取ってもらえなくて、嫌がられてばかりだけど」
「セドリック様⋯⋯」
「ごめんびっくりさせたね。
続きを見ていこう。聖女がいないときは、加護は少ないけど、精霊の教会へ、魔術師が祈りを捧げると魔力は広がり国を豊かにできることはできる。
でも、どうしても聖女の魔力には届かないんだ。聖女の力が凄いって証明だよね。
それに、聖女は体が弱すぎて子供が恵まれないことも多い。
聖女がなくなっても、次の聖女がどこに生まれたかわからないし、一節では、聖女と仲良かった女性の子供が聖女になりやすいって言うけど、それも研究段階で確信はない。
一つだけ確かなことは。
僕たちは、聖女がいないと生きられないんだ」
ぐっと拳を握る手が震えている。
セドリック様の無念さが伝わるようだった。
まさか、聖女の話がおとぎ話じゃなくて、お姉様がいつも体が弱いのは聖女だからだったなんて、もう少し優しくしてあげたほうが良いかな、と思っていたけど、そこまで考えて思い出した。
あの本のことだ。




