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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
隠されているもの
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八木の秘密4

「ああ、そうだ。もしくは、彼らが真相を必要以上に知ろうとしなければ、卒業生に取り計らって、彼らの職場での待遇をよくするなどの措置を施すと言われている可能性すらある。ここはそういうところだ。そうやってずっと不都合を隠し続けてきている」


 清水田学園がいつからそうなったのか、それははっきりしていないのだと言う。元々は志高く善良な指導者が多いと評判の学校だったはずなのだが、今や各家庭で厄介者扱いをされるような生徒ばかりが集う場所へと落ちていた。


「我が子の死の真相よりも、職場での立場が大事だっていう親の気持ちも、俺はよく分からねえけどな。そう言う意味では、辰之助さんはまともなんだろうな。俺の学費は最上家が経費として払ってくれてる。お前は大事にされてるんだな」


「ああ、そうだな。まさか警護がつけられているとは思いもしなかったが……。大切にしてもらっているのは、俺も理解しているぞ」


 光彰がここへ通うことを、辰之助は反対していた。しかし、彼の揺るぎない決意に負け、ある条件を出して許可したのだ。


 それは、辰之助自身が理事を務めることに、光彰が同意することだった。理事になれば、定期的に行われる理事会に参加するために学園内へと入る事が出来るからだ。そして、おそらくその時期に八木の事務所に警護を依頼したのだろう。


「しかし、父さんが理事長になったおかげで、俺は変に持ち上げられるようになって大変なんだけれどな」


「——なあ、光彰。俺にはどうしてもよく分からねえよ。学校の名誉ってのは、そんなにしてまで守りたいもんなのか? 言っちゃ悪いが、そんなの学校の中でだけ通用するものだろう? 人の命が失われてるのに、それを無視してまで守りてえもんなのか? 俺だったら考えらんねえ。あまりに代償が大き過ぎする」


 光彰は目の前にいる人物の呆れた顔をじっと見つめた。


 ——そうだ、これが普通の感覚だよな。


 久しぶりに得たまともな会話に、思わず頬を緩める。


 この学園に入学して以来、黎以外の人物とこんなにちゃんと話をしたのは初めてかもしれない。そう思うと、途端に胸に詰まるものを感じていた。


 おかしいことをおかしいと思わなくなっている、傀儡のような生徒に囲まれている日々は、彼に言いようのない孤独を与えていたのだ。


 深くものを考えず、ただ流されるままに生きている者、親の都合に振り回されている者、そして、より大きな力にねじ伏せられている者。都合はさまざまではあるが、どれも光彰には理解出来ないものだった。


「そうだな、俺もそう思っている。ただ、この学校の教師たちは、何を考えているのかが全く分からない。もしかしたら、何か抗いようの無い力に踊らされているのかもしれないとも思うんだが、それはまだ分かってない。ただ、間違いなく言えるのは、それが教育者の矜持とかそういうまともな類のものが理由では無いということだ。そんな綺麗な心を持ったものは、この学園の教師にはいない」


「抗いようの無い力、ねえ。真実を隠蔽してまで、学校を守る理由か……」


 二人はそこで黙り込んだ。


 その理由については全く思い当たることがないのだ。


 そもそも、生徒が亡くなっている事件に薬物が関わっているのに、それを追求しようとしない人間の考えることなど、まともな人間には分かるはずも無いだろう。


 地位や名誉にこだわって、金のためには必死に動く職員たち。彼らの考えることを理解してしまうと、自らも汚れてしまいそうで、あまり踏み込みたくないと思っているのだ。その気持ちが、推理にブレーキをかけている。


 黙り込んでコーヒーを飲む二人の間で、黎がさっきよりも大きく身じろぎをし始めた。「んー」と小さく唸りながら、何度も体勢を変える。その度に長いまつ毛が揺れた。


 ふっと瞼が僅かに開き、その奥の瞳が蝶の青を映した。その僅かな変化に光彰はすぐに気がつき、黎の顔にかかった髪を掬い上げて耳へとそっとかけていく。


「目が覚めたのか?」


 目は開いたもののまだ夢現の状態の黎は、目の前の光彰に気がつき「眠い……」とだけ呟いた。ゆっくりと彼が身を起こそうとすると、光彰がそれを助けようと手を伸ばす。


「黎、ほら」


 光彰に抱え上げられてヘッドボードに身を預けて座った黎は、ふと光彰の奥に座る人影を見つけると、ピタリと動きを止めた。


「——ん? 光彰、あれ誰だ?」


 黎の瞳の中に、ぼうっと浮かぶ大きな影。彼はそれに怯えて、光彰の腕にしがみついた。


「どうした、黎。誰って、なんのことだ」


 光彰は、黎が何を恐れているのかを一瞬理解出来ずにいた。彼が指を差して目を丸くしている方を見る。その先には、タバコを口に当てている八木の姿があった。


「ああ、そうか。いつもと印象が全然違うもんな。知らなかったら、混乱しても仕方がない。黎、これは八木だよ、八木。実はな……」


 そうして、八木の正体を明かし始めた。


「えっ、探偵? 八木くんが? 嘘だろ……。八木くん、めちゃくちゃ普通の学生じゃないか。成績も中の上くらいだし、顔も運動能力も並だしさ」


 寝起きに驚かせたからか、黎はさらっと八木へ残酷な評価を下した。


 一般的に言うと八木の見た目もそれなりなのだが、黎は光彰を見慣れているためか、彼が並の人間に見えていたようだ。


 普段はそんなことを気にした事のない八木も、面と向かってそう低い評価を下されては辛いようで、やや傷ついた様子を見せている。


「あー、うん。もちろん成績とか行動とかは演技だけど、な。顔はちょっと……。なかなか傷つくぞ、柳野」


 八木はそう言って苦笑すると、光彰に見せた身分証明書を黎にも確認させることにした。それを見た黎は目を輝かせ、


「すごい! 本当に探偵だ! 見習いだけど」


 と興奮気味に呟く。しかし、最後の余計な一言に八木は方を落とした。


「キミ、結構残酷な子なんだな」


 そう言って落ち込む八木の背中を、光彰がポンと叩いて労った。

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