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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
隠されているもの
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揺れる光1


「うん、そうなんだ。僕は柳野くんの事を黙ってるから、僕のことも内密にお願いしたいんだけど……」


 余程知られたくないのだろうか、八木は執拗に念押しをしてくる。光彰はいつもと違う八木の慌てた様子に、思わず吹き出してしまった。


「っはは。珍しく必死だな。ああ、わかった。内密にする。しかし、よく考えてみろよ。そもそもこの話を誰かにするとしたら、相手は黎くらいだ。話が漏れたとしても、黎まで。それならいいんだろう?」


 光彰は、背中で気を失ったままの幼馴染を指さしつつ、そう言ってニヤリと笑った。いつもの八木なら、それくらいすぐに分かるだろう。こんなに慌てる姿は、八木らしくないとも言える。


 そもそも、部屋に立ち入ったくらいでバレるようなことで、それほど重要なこととは一体何なのだろうか。八木が黎の見た目が変化していたことをどうとらえているのかによって、その重さは全く異なる。だから、迂闊に反応も出来ない。光彰は、その程度を見誤らないようにと神経を尖らせながら、八木へ問いかけていた。


「あ、そっか。そうだね。——いや、納得したら失礼かも知れないんだけれど……。うん、まあ、安心したよ」


 そう言うと、八木も同じように笑った。二人の間の空気は、いつもよりも少しだけ砕けた様子に変わる。光彰はそれを感じ取り、なぜかその事に不思議と安堵した。


「じゃあ……開けます」


 八木は覚悟を決めたのか、ゆっくりとノブを回す。重厚な木製のドアは、シンプルながらもしっかりとした作りの真鍮のノブを、力強く引かねば開かない。


 万が一外部からの侵入があった時のためにこういった作りになっているのだが、こういう場合にはまるでもったいつけられているような気がして、光彰はやや焦れながらドアが開き切るのを待った。


「どうぞ」


 開き切った扉を支えながら、八木は恥ずかしそうに光彰を中へと促す。その目の前に広がる光景に、光彰は息を呑んだ。そこには、ここが学生寮であることを忘れさせるような景色が広がっていた。


「うわ……」


 真っ暗な室内に、幻想的な青い光が飛び交う。その光は、ひらりと目の前を通り過ぎて行った。それは暗闇に輝く、光の饗宴。まるで異国の物語の世界の中に迷い込んだかのような空間が、第二寮長が住まう部屋いっぱいに広がっていた。


「これはすごいな……」


 驚く光彰の隣を、次々と青白く光るものがすり抜けていく。


 暗い夜の帷の中に幻想的に飛び交うそれは、目を凝らしてみると蝶のように見えた。窓辺に光るぼんやりとした灯りの方へと吸い寄せられていき、気がつくと消えている。美しいさまに名残惜しさを感じていると、再び光彰の近くでパッと新しい一匹が生まれた。


 そして、その下方の暗闇の中には、さらにぼんやりと浮かび上がるものが見えている。それはいくつかのものが重なり合って発光し、光の塊となっているように見えた。好奇心に駆られた光彰は、そちらへと引き寄せられていく。目を凝らしてみると、そこには夥しい量の人の目が、こちらをじっと覗き込んでいた。


「これはすごい。圧巻だな、八木。確かに驚いた。この蝶はまだしも、この子達はあまりにも意外だ。お前がこういうのを持っていただなんて、想像もつかなかったぞ」


「——そうだよね、やっぱりそう思うよね。だからあんまり人には言いたく無いんだ」


 照れくさそうに笑う八木の手元には、可愛らしいフィギュアがあった。それは、光彰のように世間の流行りや噂に疎い者であっても、その名を一度は耳にしたことがある様な、有名なアニメのキャラクター達だった。


 清水田学園の寮での生活は、基本的に全員が個室をあてがわれる。そのため、皆が自室を好きに彩ることが出来るようになっていた。


 内装を自分好みに変えることも出来るので、各部屋ごとにかなり個性が光っている。八木の部屋も、言ってみればそれと同じようなものだろう。ここでは、さほど珍しいものではないはずだ。


 しかし、光彰は黎意外に親しい友人がいないため、これまで誰かの部屋をまじまじと眺めるほど長く滞在したことが無い。居ても生活態度を注意するくらいのものなので、数十秒、もしくは、数分といったものだった。


 しかし、おそらくこれほど利用者のイメージとかけ離れた部屋は、探してみても他には無いだろう。それほどに、第二寮長室の世界は、普段の八木からは想像もつかないようなファンタジックな世界だった。


「僕ね、アニメオタクなんだよ。基本的に学校に行ってる時と勉強してる時以外は、ずっと部屋でアニメを見てるか漫画を読んでるか、もしくはゲームをしてるかっていう過ごし方をしてるんだよね。それがバレるだけなら別にいいんだけど、だからと言って、部屋をこうするほどにのめり込んでるっていうことまでは、誰にも知られたく無かったんだ」


 そう言うと、部屋の主は照れくさそうにしながら机をトンと叩く。すると、そこにパッとピンク色の淡い光が舞い上がった。


 その光の中には、戦闘服に身を包んだ女戦士たちが、銃を構えて微笑んでいるホログラムが見える。アニメが好きで、フィギュアやポスターなどのグッズを購入するという話なら、よく聞くだろう。しかし、わざわざホログラフィを用いてここまでのものを作り上げる者は、そういないはずだ。その入れ込み方に、光彰は感嘆した。


「いや、すごい。これは誰が見ても驚くだろう。それに、よく見るととても可愛らしい姿が部屋いっぱいに見えるな。ゲームのキャラクターも多い。ファンシーでファンタジックか……。俺の中にあるお前のイメージとはかけ離れてるよ。——でも別にいいじゃないか。お前は真面目過ぎるから、何か好きなことをしてバランスを取っていないと、おそらく潰れてしまうだろう。俺は寧ろ安心したという気持ちの方が大きいな」

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