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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
隠されているもの
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相談5

「今お前が話したい事といえば、温田見に関する話だろう? その名前を口にして泣いてしまっても、俺も黎も気にしない。泣きながらでもしないといけない話なら、いくらでも泣いてくれて構わない。それより、溜まっているものを吐き出せ。疑問も解決しろ。そうしないと、温田見がお前を心配してしまって、成仏できないぞ」


 彼はそういうと、バッグの中からキレイに折り畳まれたハンカチを取り出し、小野へと差し出した。彼女はそれを素直に受け取り、


「ありがとう。——ねえ、最上くんってさ、本当は優しいんだよね。厚がよく言ってた。みんな最上くんを勘違いしてるって。あまり話してくれないけど、時々かけてくれる言葉は、いつも優しさに満ちてるって。私も厚がそう言ってるのを聞いてから気をつけて最上くんを見てたんだけど、それが本当だって気づいてから、結構驚いたんだよ」


 と言った。


「温田見がそんな事を?」


 驚く光彰に、小野は懐かしむように目を閉じる。何度か頷いてそれを肯定すると、小野はまたその目を赤く染めていった。


「そう。だから本当に困って誰に助けを求めたらいいかが分からなくなったら、最上くんを頼るといいよって言われたことがあったんだ。それがどういう事なのかは分からなかったけど、最近ふとそれを思い出して。それで、ちょっと訊いてみようと思って。——ねえ、今寮で幽霊騒動があるのは知ってる? それが千夜じゃなくて、別の幽霊らしいんだけど」


「千夜じゃない幽霊? 俺は知らないが、いてもおかしくはないだろうな。もともと時計塔には霊がたくさんいるんだろう? ただ名前が分かっているのが千夜だけだという話だったはずだ。それなら、別に千夜以外の霊がいたとしても、全くおかしくは無いと思うんだが……」


 光彰がそう訊くと、小野は何度か頷いた。彼女もそう思っていたようだ。


 ただ、小野はその考えを覆すような事を、今日学校で聞いたのだという。それは、確かにこれまでには無かった話だった。


「千夜は時計塔にしか出ないんでしょう? でも、今噂になってる霊は、第一寮の自習室に出るらしいのよ。しかも、千夜のトレードマークのワンピースを着てなくて、どう見ても男らしいのよ。男子生徒の霊」


 それを聞いて、二人は驚いた。


「——うちの自習室に? いや、それが本当なら、誰かが光彰にその事を報告しに来るんじゃない?」


 黎がそう返すと、小野は言いにくそうに「そうなんだけどね……」と視線を泳がせた。その答えを知ってはいるのだが、口にしていいものかどうかを悩んでいる。そう言いたげな表情をしていた。


 しかし、言い淀む小野の代わりに、それは光彰自身によって語られることになる。彼は驚くほどあっさりとその答えを口にした。


「俺に報告して来ないということは、俺がその問題に関わっていると思われているからだろうな。要するに、千夜の話と同じなんだろう。俺が誰かを呪うために、その霊を呼んでいる。そういう事になってるんじゃないのか?」


 光彰がそう訊ねると、小野は不本意ながらといった面持ちで頷いた。そして、呆れるように顔を顰めて笑う。


「うん、そう。そうなんだ。だけど、最上くんは本当に全然動揺しないんだね。結構悪く言われてるんだよ? それでもそんなにどうでもいいっていう態度になるものなの?」


 小野は光彰の反応に動揺を隠せない。しかし、当の光彰は、何をそんなに驚く必要があるのかと言いたげに、彼女の問いに無言で顎を引いた。


「そうだな。どうでもいい奴らにどう思われようが、どうでもいい。俺のことはあまり詳しく人に話せないし、そうなると勝手に想像するしか無いだろう。それなら、間違った認識をされても仕方がないだろうしな」


 噂というものは、常に彼を煩わせるものだ。放っておこうが関わろうが、周囲は勝手に彼に評価をつけていく。その全てにいちいち動揺していては、身が持たないのだろう。どう思われてもいいと思っている人からの評価を受け流す事に、彼は慣れてしまっているのだ。


「そんな馬鹿げた噂に動揺する必要なんて、全く無いはずだ。小野、お前には分かるんじゃないか? お前の目に、俺は気に入らない人間を呪ったりするようなやつ見えているか? 見えないだろう? お前と温田見なら、噂に振り回されたりはしないはずだ。人を呪うくらいなら、俺はそういう奴らのことは徹底的に無視するか、直接対決をする。きっとそう思うはずだ」


 実際に彼は千夜を使って諜報活動をするわけで、その結果に起きることが()()だと言われるならばそうなのだろう。それをはっきり言えればいいのだが、そうはいかない。


 最上の力に関することは、クライアント以外には広めてはいけないことになっている。だから、小野にも本当の事を話すわけにはいかないのだ。そうである限りは、光彰自身のキャラクターイメージを利用して誤魔化しておくしかない。


「うん、分かる。そう思ってはいたんだけど……。まあ、そうだよね。最上くんなら、たとえ呪いみたいな非科学的なことが可能だったとしても、その前にもっと現実的な実力行使をするだろうって思ってはいたんだ。でもさあ、呪いをかけるような人に見られてたことについては、うそでもいいから動揺してるように見せた方がいいよ。可愛げのない人のことは、誰も助けたいと思わないんだからね」


「バカを言うな。その程度でものを判断するような人間に、俺を助けることなんて出来る訳がない。だから嫌われても別に構わない。そんな奴らは、最初からいないのと同じだ」


「うーわ、やだやだ! すっごく感じ悪い! でも、実際そうだろうなと思っちゃうからなあ。それもまた嫌だね。腹立つったら無いわ」


 らしく無い落ち着いた様子を見せていた小野が、本来の調子を取り戻したかのように、そう言ってまるで汚いものでも見るような目で光彰を見る。そして、少し身を引いて距離を取るふりをした。


 すると、彼女と黎にとって驚くべきことが起きた。小野のその動きを見た光彰が、大口を開けて笑い始めたのだ。


「お前、そんな顔でそんな動き……」


 彼の思いもよらない行動に、小野本人もだが、黎も激しく動揺した。思わず勢いよく立ち上がり、コーヒーを床にこぼしてしまう。


「ちょっと! 柳野くん、大丈夫? いやでも驚いちゃうよね……。最上くんってそんな顔して笑うの? めちゃくちゃ貴重なものを見たよ」


「う、嘘だろ……。光彰が俺以外の人の話をちゃんと聞いてるだけでもびっくりするのに、そんな顔をして笑うなんて……。田岡の時といい、お前最近めちゃくちゃ人間らしくなって来たな。驚いて倒れそうなんだけど」


 二人揃って大きな声で喚き散らしながら、光彰をここぞとばかりに揶揄う。それを聞いている光彰は、変わらず楽しそうに笑っていた。


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