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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
清水田学園のキング
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時計塔の千夜1


 午前二時。二人は揃って部屋を出た。そして、時計塔の下へと向かう。春の夜は、しっとりと爽やかな空気に満たされていて、頭上に光る月は銀色に艶めいていた。


 千夜についての話をするからと外へ連れ出された事で、門限だけには厳しい寮の寮長が取る行動としてはいかがなものかと黎が光彰に指摘をすると、そのあたりは抜かりないと言って光彰は笑った。


 彼は寮長室の奥にある非常階段へと黎を連れ、そこから外へ出る。下へ降りてからは第二寮のそばを抜け、時計塔のある第三寮へと向かった。そうして、屋上にある時計塔へと向かうため、階段室入り口のドアの前へと立つ。二人は、そこから屋上を見上げた。


 そこには、月明かりに照らされた時計の盤面が輝いて見えていた。丁寧に手入れをされているこの時計は、いつも美しい。月明かりの下でこれを見ることも、寮生の一つの楽しみとされているくらいだ。


 時計塔の屋上で夜のデートを楽しむ生徒は、この姿を楽しむためにここへ来ていたらしい。彼らが門限を過ぎても部屋へ戻らないため、捜索する寮長や寮監の手をいつも煩わせていた。光彰も当然、何度も駆り出されている。


 噂によると、千夜はそうやって抜け出してきた生徒を狙っては、屋上から落として殺すという。彼女がそうすることで得をするのは寮長だけだという見解が広まり、いつしか寮長を怒らせると千夜に呪い殺されるという話に変わっていったのだそうだ。そして、今や何故かそれが光彰に限定されている。


「霊が見えもしない奴らが、呪いを信じてること自体が俺には理解出来ないが、市岡が千夜を見てしまっている以上、その存在を否定することは誰にも出来ない。ただ、時計塔の千夜は、噂では満月の夜に現れるんだろう? でも、温田見が落ちたのは今朝のはずだ。夜ですら無い。おかしいと思わないか?」


 光彰にそう問いかけられて、黎は目を丸くした。そう言われてみれば、温田見が落ちた時間は午前八時三十分をゆうに超えていた。その時間に千夜を見たという話は、あまり聞いたことがない。


「本当だ。なんで誰もそのことは疑問に思わないんだろう」


「あいつらにとっては、そんな細かいことはどうでもいいんだろう。それに気がつかないふりをしたとしても、俺を怒らせたら呪い殺されるっていう話を信じて面白がる方が大事なんだろうな。そもそも、霊体を見る能力の無い奴らには、夜だろうが昼だろうが結局は何も見えない。そうなると、霊がいるかいないかを自分で判断するのは難しい。それでもそんな噂をしてるって事は、普段からなんでも自分に都合のいい事だけを信じてるって事だろう。楽しむためのネタなんて、深く追求するもんじゃないんだろうからな」


 光彰はそう言いながら、階段室のドアノブに手をかける。使われなくなって錆び付いたのか、回すとガリっと何かが潰れるような音がした。鉄扉を開くと、蝶番も軋む。手入れがされていない扉は、見た目以上に重そうだ。


「うわ、なんだこの匂い」


 大きく開いたドアの奥から、ツンとした匂いが鼻をついた。思わず二人は顔を顰める。鉄とそれにサビの浮いた匂いが渦巻く階段を登ろうと一歩踏み出すと、自動で灯ったライトが柔らかく足元を照らす。


「変だな。扉も鍵も修復しないのに、センサーライトは取り付けてあるんだ。意味が分からねえ」


「本当だな。それなら、ここの管理をするのが煩わしかったというわけじゃ無さそうだ。もしかしたら、意図的にそうしてあるのかも知れない」


「意図的に……?」


 どうしてそう思うのだろうかと訝しみながら、黎はライトを見上げた。柔らかなオレンジ色の光を放つものが、踊り場に取り付けてあるのが見える。二つの踊り場にそれぞれつけられたそれは、おそらく最近取り付けられたものだ。古びた壁や階段の中で、そのライトだけは新品同様に輝きを放っている。


 そして、わざわざセンサーライトを取り付けるほどに出入りをしていたであろう階段は、よくみると塵一つ落ちていない。その二つは、ここがとても丁寧に管理されているということを教えてくれていた。


「足場が整備されて、センサーライトが付いている。どう考えてもここを使いやすくしたとしか思えないな。立ち入り禁止のはずなのに、これじゃあむしろ歓迎してるとしか思えないんだけど」


 不思議そうに周囲を見渡しながら階段を上っていく黎を、光彰は後ろからついていく形で案内した。何度か取り締まりに訪れている彼にとっては、ここはあまり楽しい場所ではないらしい。


「管理を担当している者にとって、こうまでしても()()()()()()ことがあったんだろうな。そのお陰で、俺たちはここを何度も取り締まらなければならなかったし、その度に俺は寝不足になった。全く迷惑な話だ」


 そう言って、ため息を溢す。黎はその言葉の意味を理解すると、短く小さな悲鳴をあげた。そして、光彰と同じように辟易とした表情をして見せる。


「えっ、そういうことかよ……。よくもまあ、そんな理由で……。ここで人が何人も死んでるんだろう? しかも呪い殺されてるなんて話があるのに、よくそういう気になるよな。信じられねえ」

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