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キングの怒り(再掲)  作者: 皆中明
清水田学園のキング
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異変11

「そ、そういや、校庭の花が結構咲いててキレイだったぞ。春の花の中に、今までに無かったような、白くて小さな花のものが仲間入りしてたぞ。あれ、なんの花なんだろうな」


 行き場に困った視線を泳がせながら、揺らぐ気持ちを誤魔化すようにして、黎は校庭を指差した。


 そこには、春の空気の中で、色とりどりの花々が気持ちよさそうにゆらゆらと揺れている。満開になっている桜の木の下に広がる生垣に、華やかに咲き誇る牡丹の美しさが際立っていた。


「白い小さな花? 予算報告の中にそういったものは無かったと思うぞ。校庭で今の季節に咲く白い花は、牡丹だけのはずだ。牡丹の花は、あれだぞ。割と大きくて目を惹く。花の直径は小さくても5センチメートル、大きいものは12センチメートルはあるんだ。間違っても小さくてかわいいものとは言えないはずだぞ」


 怪訝そうに眉根を寄せ、光彰は黎を見る。所在なさげにうろついていた視線は、光彰のその言葉に吸い寄せられるように戻って来た。


「いや、俺だってあの花が牡丹じゃないってことは分かったぞ。でも、じゃあなんだったんだと訊かれても、そこまでは分からなかったんだ。本当に、真っ白くて、かわいらしい小さな花だったんだよ。それも、どこかで見た事があるやつ。何か見覚えがあるんだ」


 花の区別もつかないと馬鹿にされたように感じたのか、黎は咎めるようにして光彰を睨む。鈍い光彰もさすがにそれには気がつき、勘違いをして腹を立てている幼馴染にぺこりと頭を下げた。


「悪い、決して馬鹿にしたわけじゃないぞ。そんな顔しないでくれ、黎。お前に花の見分けが出来ないと言いたかったんじゃない。ただ、そんな花を植える予定があったかと思って……」


「予定? どういう意味だ?」


「ああ、そうだな。うん、そのあたりから説明しなければならないのを失念してたんだ。すまない」


 うっかりしていたとばかりに軽く目をむいて、光彰はまた黎に頭を下げた。


 そして、寮棟に背を向けるように立ち、校庭から体育館を臨む方向に咲いている花々が黎によく見えるようにと、彼を抱き直す。


 寮の玄関から校庭へは、見通せる箇所は限られている。その僅かな空間から全てが見通せるようにと、黎の体を起こし、腕に座らせるような形で抱えた。


「お前、これお父さんが子供と遊んでる時のやつ…」


 不服そうに光彰を睨みつける黎に、光彰は「すぐ終わるから」と言って取り合わない。


「校庭に植える花は生徒会が決めている。お前もその事は知ってるだろう? その予算は各寮での掲示が必要だから、俺たち寮長は季節ごとにその内容を確認するんだ。だが、白くて小さな花なんて、春の植栽予定には無かった。ただし、春の花だからと言っても春に植えるわけじゃ無いものだと、予算計上時期は違うかも知れない。そのあたりはなんとも言い難いな。もうこれ以降の時間は外出は無理だろうから、体育館付近まで直接見に行くのは無理だろう。あとで報告書を見ておくから、花の名前が分かり次第お前に伝えるよ。それとは別に、お前がその花をどうしても俺に見せたいのなら、明日見に行ってもいい。昼食を校庭で取れるのはどうだ?」


「おー、いいねえ。楽しそうだ」


 黎は走りすぎた事による具合の悪さも忘れて、楽しげに声を弾ませる。それを聞いて、光彰も嬉しそうに目を細めた。


「明日は花見ランチだな」


「そうだな。桜も見頃だし、楽しもうぜ」


 そんな風に穏やかに話しながら、二人は再び寮棟の入り口へと向かう。自動ドアが開き切るまでに、光彰はそっと黎を降ろした。


 ちょうどその時、西の空から、まろやかな黄金色の光が、二人の顔へと伸びて来た。西の空に浮かぶように聳え立つ時計塔の尖塔に、夕陽が反射して輝いている。その光は、まるで幻想の中にいるかのように美しく輝いている。


「もう日が暮れる時間だな。——綺麗だなあ」


 華やかに見えるその輝きの中には、一日が終わる寂しさをも内包している。物悲しい雰囲気の中で、黎がポツリと呟いた。


「なあ、光彰。お化けって……。千夜って、本当にいるのかな」


 そして、彼女が現れると言われる場所を見上げる。しかし、彼には霊を見る力は無い。いくらそこを眺めても、何も見えるはずが無かった。


 それでも、見ずにはいられない。それは、千夜という霊の存在への興味があるからでは無い。


 千夜と光彰の関係性——葉咲が噂していた事への不安。それを拭いきれない自らの情けなさが、彼にそうさせているのだった。


「なあ、光彰。温田見くんが最後に一緒にいたのって、千夜ってことになるよね」


「ああ、そうだな。市岡の話を信じるなら、そうなるだろうな」


 光彰はそう答えながら、黎へ手を差し出す。黎をエスコートするその指先からは、何も案ずる必要はないという光彰からのメッセージが伝えられる。


 黎はにぎり慣れた幼馴染がその手から伝えて来る思いに、目頭が熱くなるような気がしていた。

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