異変10
「さあ、どうだろうな。ただ、目に見えることが全てというわけでもないだろう? 実はあいつらも、心の中では温田見のことをすごく悼んでるのかも知れない。あいつが死んでしまったことを、口にするのも辛いのかも知れない。それは、あいつらに訊いてみないことには分からないだろうな」
「え、お前そう思うの?」
「思うが……何か変か?」
「いや、意外だなって思って」
「——そうか? 俺も人の心が読めるわけじゃ無いからな。誰がどう思ってるかは、さすがに訊いてみないと分からない」
「まあ、確かに。そうだな」
黎は光彰にそう応えつつ、自分を省みていた。確かに光彰の言う通りだろう。誰が何を思っているかなんて、言われなければ分からない。それなのに、本当はどう思っているのかを彼らに訊きもせずに、冷たい人間だと決めつけてかかっていた自分を恥じていた。
「俺も葉咲と変わんねえってことか」
額に手を当てながら、ポツリとそう呟く。そして、同時にこれこそが最上光彰だと思っていた。光彰は、他人に興味は無く、善人では無いが、悪人でも無い。それは紛れもない事実だ。
同い年であるはずの光彰の冷静な判断に、自分の幼さを突きつけられたような気がして、黎は時折恥ずかしくなる。
彼としては、それが少し嫌ではあるのだが、同時に、そういう時にしか見る事が出来ない、光彰の人間性の素晴らしさのようなものに触れられることは、幼馴染の特権として受け取っており、純粋に嬉しいと思っている。
——ちょっとかっこいいのがまたずるいんだよなあ。
そう思いながら、これは誰も知らない彼の良さなのだと思うと、ふと黎の表情が緩んだ。光彰は、それを見咎めると思い切り眉を顰めた。
「なんだ、お前。今度は笑ってるのか? もしかして、どこかで倒れた拍子に頭でも打ったんじゃないだろうな」
「えっ? いやそんなことは無いけれど……。なんでだ?」
「なんでってお前……。ついさっきまで怒ってただろう? それが、急にそんな柔らかい笑顔を見せたら、どこかおかしくなったのかと思われても仕方が無い。本当に大丈夫か?」
「やっ、柔らかい笑顔? そんな風に笑ってたのか、俺」
そう言いながら、黎は自分の頬が熱くなるのを感じる。光彰のことを考えながらそんな表情を浮かべていたのなら、それを彼に知られるのはまず気がする。そう思い、必死に両手を振って誤魔化そうとした。
「いや、何でもない。っていうか、頭がおかしいってなんだ。いくらなんでも失礼だろ!」
黎の反応に、光彰は楽しげな声を漏らしながら、目を細めて笑う。その表情は、とても穏やかだ。
「そうか。それならいいんだ」
「おう。俺にも色々あるんだから、怒ったり笑ったり忙しいわけよ。普通だよ、普通」
「そうか。でも、怒った後にすぐ微笑むのは、情緒不安定に見えるぞ」
「それはまあ、確かに……。気をつけます」
しゅんと小さくなる黎の姿に、光彰はさらに大きく相好を崩した。黎はその笑顔の眩しさに、思わず目を逸らす。見てはいけないものを見てしまったような気がして、そうせずにはいられなかったようだ。




