異変6
「小野、お前はどう思ってるんだ? 色々おかしな点があったとしても事故と捉えるのか、それとも温田見には飛び降りてしまうほどの抱えきれない悩みがあったと思っているのか、どっちだ? 千夜の呪いについてはお前は信じていないだろうが、それも選択肢に入れたとして、お前との見解を聞いておきたいんだが」
光彰が小野にそう問うと、彼女はそれに「呪いではないと思うけれど……」と言いながら、彼女は涙を拭った。
「時々、すごく辛そうな顔をして外を眺めてたのは知ってるわ。だから、深い悩みがあったんだと思う。でも、いくら訊いても教えてくれなくて、その後暫くしてからフラれたのよ。だから、多分誰にもそれを話してないと思うの。私は厚にいちばんしんようされてた。それだけは間違いないから。私に話していないような秘密を、他の人に話すことはないと思うのよ。」
話しながら温田見を想うのだろう、涙が拭ったそばからまた涙が零れ落ちていく。しばらくして、小野は顔を上げられなくなってしまった。校長室には、彼女の啜り泣く声だけが聞こえている。
恵那は、それを顔を顰めながら見ていた。揉め事が嫌いで穏便という言葉が大好きな男は、生徒の苦しみなどどうでも良いのだろう。事が起きれば、それが誰かを傷つけたとしても、自分が傷つかないのであれば、その道を使って解決する。あくまでもその姿勢を貫くようだ。
「小野くん、お気の毒ではあるが、話は済みました。速やかに寮に戻りなさい」
そう冷たく言い放つ。それからは寮長たちの方を一瞥もせず、校庭を眺めていた。
寮長の四名は、その大人の汚さに呆れ返りながらも、それ以上は何を言っても時間の無駄だという判断をしたようだ。四人で示し合わせると、そのまま大人しく校長室を後にする。
「失礼しました」
最後に退出した光彰が、形だけの礼をするとドアを閉める。最敬礼を保ったまま恵那の後ろ姿を睨みつけると、その扉をそっと閉じた。
「——ひどい男だな」
小物で狡猾だと悪名高い恵那は、やはりその通りだ。何度対面しても、その度に虫唾が走る。光彰はそう思いながら、両腕を摩った。
その時、ふと横から誰かの視線を感じた。他の寮長を先に戻らせつつそちらを見やると、見慣れた背格好の男が一人目に入った。彼は驚いてその方へと駆け、声をかける。
「黎」
光彰の向かう先、校長室に近い階段の踊り場の中心に、白地にライムグリーンのラインが入ったランニングウェアを着た黎が佇んでいた。




