異変4
◆
「温田見くんの件なんだが、不幸な事故として扱われることになった。寮生たちに何か聞かれたら、そう答えてくれるかね? これ以降の調査はせず、この件については全てを口外禁止とする。それも併せて通達するように。万が一外にこの話が漏れてしまったら、該当する生徒は全員退学とします。いいですね?」
職員室に集められた寮長四名は、そこでは何も伝えられず、そのまま校長の元へと連れていかれた。そして今、この決定事項というものを直接校長から告げられている。
教室で黎や八木と話していた予想は大方当たっており、学校は温田見のために調査をするという選択肢は持たず、学校とその上層部の保身のために動くことにしたようだ。
「それはつまり、学校の落ち度を隠すためにはこれ以上の調査は好ましくないから、深追いすることのないようにと釘を刺していらっしゃると解釈していいのでしょうか」
光彰は学校への不信をそのまま突きつけた。他の三人は、彼のその言葉を聞いて、怪物にでも出会ったかのような顔をして固まっている。
確かに、彼の態度は信じられないほどに怖いもの知らずの、横柄なものに見えるだろう。ただし、それにはやや込み入った事情がある。それを念頭に置くと、彼の態度は誰にも納得のいくものではあるのだ。
「この件、理事長には詳しいことを伝えられていませんよね? 口外しないようにと約束させられれば、僕から父への報告も不可能になります。その場合、理事会への報告はどなたかがきちんとなさるのでしょうか。それをするのであれば、特に問題はありませんが」
彼にとっては、この事が最も気がかりとなる。
先にも触れた通り、この学校の理事長は光彰の父親だ。彼は、自分の家族に秘密を抱えてまで、教師を守ってやる義理は無いと考えている。そして、それは他の三人にしても同じだ。ただ、それをこの場で面と向かって言うことができるところが、光彰がキングと呼ばれる所以だと言えるだろう。
言い難い事であろうと、言わなければならないのであれば、遠慮なく切り込んでいく。そして、後ろ盾が強いため、何も恐れる必要がない。その上、自分自身も成績優秀で実力がある。恐れるものの少なさと、その堂々とした振る舞いが、彼をキングたらしめているのだ。
「隠蔽だなんて……物騒なことを言うね、最上くん。私が言っているのは、決してそういう事じゃ無いよ。ただねえ、市岡先生が目撃したのは、幽霊に誘い込まれるようにして飛び降りた温田見くんの姿なんだ。だとしたら、それは自殺と見られるだろう? オカルト騒ぎになっても困るし、自殺されたとあっては原因究明のために多大な時間を割くことになる。それは生徒にも教師にも、とても負担がかかることになるんだよ。それなら穏便に事故扱いにと言うことで……」
校長の恵那は今年定年する。ただでさえ管理職というのは、自分のいる間は問題を隠蔽したがるものが多い。その中でも、定年の年を迎えるこの学校の校長ほど、厄介な生き物はいない。
どんな問題が起きてもその全てを些細なものとして捉え、「穏便に」という呪文の下に隠蔽してしまう。少なくとも、この学校ではずっとそれが慣習となっていた。恵那はおそらく、それに素直に倣っているだけだろう。
だからこそ、考えなしに動こうとするところに光彰は憤っている。この件は、何も考えずに過去に倣っていいと思えるような、軽い事件では無いはずだ。
「校長、あなたはご存知ないようですが、世間ではそれを隠蔽と言うんですよ」
何を言っても無駄ではあるだろうとは思いながらも、彼は呆れたようにそう吐き捨てた。




