始業式の朝4
こうなった場合、彼が高圧的な態度に出て話を一方的に終わらせるのが一番いいということを、彼は経験上で知っていた。しかし、それはとても面倒な事でもある。
仕方がないと腹を括りつつ、一つ大きなため息をつく。そして、大きく息を吸い込むと、新米教師を睨みつける様にしてキッパリと言い放った。
「先生、あなたも黎に指を差していますよ。ご自分の態度を改めずに、そういう中途半端な態度で他人を指摘するのはやめてください。ちなみに、俺の名前は最上光彰です。三年一組、第一寮所属、今年度の寮長をしています。こちらは柳野黎。俺と同じクラスで、同じ寮の所属です。今年度は、寮長室で一緒に暮らしています。ちなみに、幼馴染です。よろしくお願いします。では」
光彰は、相手への指摘と自分達の自己紹介だけを済ませると、急いでその場を離れようとした。こうしておけば、理事長の息子という金ヅルにケンカを売った新米教師でも、そう咎められずに済むだろうと考えたからだ。
余計なことをした人であっても、デリカシーの無い対応をされれば同志のように思ってもらえるだろう。そういう配慮をしたつもりだった。
「あ、ちょっと。光彰、待てよ」
光彰を追いかけて、黎もその場を去ろうとする。しかし、去り際にふと何かに気がついたようで、突然立ち止まった。そして、
「——あの! よ、よろしくお願いします。先生」
と、その新任教師に頭を下げてきっちりと挨拶をし、パッと花が咲くように笑った。
「えっ? あっ、ああ……」
その黎の反応に、教師は戸惑う。しかし、何かを言おうと思い立ち口を開こうとしたが、そうする間も無く黎は先を行く光彰の名前を呼びながらバタバタと走り去って行った。
新任の教師は、思わず彼を追いかけたい衝動に駆られた。しかし、着任したばかりであまり生徒と揉め事を起こしてはいけないと思い、昂った気持ちを収めて踵を返す。
「才見先生ー。そろそろ戻りましょうかー」
そこへ、古株の数学教師で教務主任でもある市岡直樹が、彼を呼びにやって来た。才見が周囲を見渡すと、公社の時計はすでに始業時間の八時三十分を指している。
「あ、すみません! 今行きます!」
才見は、快活な様子でそう叫ぶと、急いで市岡の方へと走った。そして、教師の群れに合流すると、雑談を交わしながら眩しい笑顔を振り撒き、着任早々に周囲へ溶け込むというコミュニケーション能力の高さを見せつけていた。




